第28話 バレスタ潜入②
街に繰り出し、手分けして情報収集をしていたカストロ中隊の面々が、夕方になり続々と拠点としているモーテルへと帰って来る。
今回カストロ中隊は街にあるモーテル一軒を丸々借り上げ、今作戦の拠点としているのだ。
「あら、お帰りなさい。どう? 有力な情報でもあったの?」
皆が帰ってきたのを察してボーラが上の階から降りてきて、平然とそんな事を口にする。
「あ、まぁ、今皆が手に入れてきた情報を集めて精査してる所さ」
さすがのカストロも少し言葉を詰まらせたが、すぐに気を取り直して説明をしていた。
「そう。まぁ昼間は体調が整わなくて任せちゃったけど、ここからはしっかり働くから任せといてね」
昼間、『日焼けしたくない』とか言っていたはずなのに体調が悪かった事になっていてジョシュアは少々驚いた表情を見せる。
だが一応ボーラも他人に仕事を任せて自分は働いてない事は自覚しているようだ。
「じゃあいざ乗り込む事になったら頼りにしようか。それともう一人の主力セシル少尉は?」
「勿論私もいるわよ、カストロ中隊長。そろそろ私も働かなきゃね」
カストロが振り向きながらボーラに声をかけていると、階段の上からセシルが応えながら降りてきた。
「ふふふ、二人共頼もしい限りだ。さっきも言った通り、まだ皆の情報を持ち寄ってる所だが、恐らく二手に別れる事になりそうだ」
そう言ってカストロが今作戦の手筈を説明する。
カストロ達が手にした情報によると、街の北にある教会で、怪しいローブに身を包んだ者達が夜な夜な集まっているそうで、その者達が着ているローブには十字架を模して剣を逆さまにし、鍔の部分両サイドに鳥が留まっている紋章が印されていたそうだ。
その紋章は四百年前、シャリアが使用していた物で、未だシャリアを信仰する者の間で好んで使われていた。
そしてもう一箇所怪しい場所は、ジョシュアが聞いた街の東にある森の中の遺跡だ。
「様々な情報からこの二箇所を探る事にしようかと思っているんだが、二人の意見は?」
カストロが椅子に深く腰掛けながらセシルとボーラに手を向け、意見を求める。
「確かに教会の方は怪しいわね。典型的なシャリアを信仰してるカルト集団じゃない。そっちが当たりでしょ? 遺跡に行く意味ある?」
「まぁ私もボーラの意見と一緒だけど、その遺跡の情報話してきた男何者なの? 明らかに罠じゃない?」
そう言って怪訝な表情を浮かべ、二人の視線はジョシュアに向いていた。
「いや、まぁ二人の言ってる事はわかるんだけど、あの男あからさま過ぎたんだよ。それにあの男の態度、いや自信みたいな物が鼻につくと言うか……」
「……なるほどね。わかったわ。ジョシュアがそう言うのならそっちも行ってみましょう。明らかに罠だから行かなかったとか思われても
ジョシュアが説明しながら、やや言葉に窮していると、セシルが代わりに強気な笑みを浮かべ言ってのける。
結局教会にはカストロやボーラを中心としたグループ十名。
遺跡の方にジョシュアやセシルを中心とした残りの者達で挑む事となった。
「なぁセシル。今回は少数で挑むんだ。バトルスーツは着た方がいいんじゃないか?」
ジョシュアが真剣な面持ちでセシルに問いかけていた。
バトルスーツといえば身体の動きをサポートして動きを早めたり、力を強くしたりするだけではなく、防御力を高める意味合いもある。
だが慣れなければ、逆に動きづらかったりする事もあり、ウィザード達はバトルスーツを着ない者も多かった。
例に漏れず、セシルとボーラもバトルスーツをこれまで着た事はない。
「え、いやよ。だってこの軍服の方が可愛いもん。だいたい敵の攻撃を喰らわなきゃいいんだし」
セシルは顔色一つ変えずに平然と言ってのける。セシルに至っては動きづらいという理由ではなく、ただただ着たくないだけのようだ。
確かにセシルの赤い軍服はセシルが優秀であり、卒業後、即特別遊撃隊入りという異例の経歴から許された特注の物であった。
しかし今支給されているバトルスーツの方は、標準的なグレーとダークグリーンを基調とした決して見栄えする物ではなく、セシルはそれが許せないようだ。
「いや、可愛いとか可愛くないとかじゃなくて……」
「何よ! 重要なのよ。だいたい気分が乗らなきゃ魔法にも影響出るんだから」
「じゃ、じゃあバトルスーツの上から軍服着たらどうだ?」
「余計に着膨れして動きづらいじゃない」
いつま経っても終わりそうにない不毛な問答にさすがに嫌気がさしたのか、カストロが割って入り終わらせようとする。
「よし、ひとまず作戦は二手に別れる方向でゲルト少佐に話を進める。いいか俺達の任務はあくまで潜入と調査だ。ロストバーサーカーの奴らの尻尾を掴んだらまずは報告だ。わかったな?」
「了解!!」
カストロが全員を見ながら今一度号令をかけると、全員から力強い答えが返ってきた。
しかしその中でもセシルとボーラが不敵な笑みを浮かべているのを見て、カストロは一抹の不安を覚える。
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