第26話 内通者③
「今回の説明は以上となります。質問がなければ隊舎で出撃に備えて下さい」
秘書官がそう言うと皆、無言のまま立ち上がった。
「今回の任務は君達の働きにかかっている。幸運を祈るよ」
カストロ中隊が部屋を後にしようとすると、突然ハワード将軍からそう声をかけられ敬礼をした後、部屋を後にした。
「お、カストロ中隊の皆さん。その様子だと次の任務が言い渡されたようですね」
部屋を出て自分達の隊舎へ戻ろうと歩いていると、突然後から声をかけられた。
慌てて振り返るとそこには魔法兵団のゲルト少佐が立っていた。
「ええ先程」
「なるほど……カストロ中隊長。それとジョシュア少尉。二人はちょっと我々の所まで来ていただけますか?」
そう言われカストロとジョシュアが顔を見合わせ若干戸惑いをみせるが、ゲルト少佐はかまう事なく歩を進める。
「お前達は先に戻って準備を整えておけ」
残りの隊員達にそう声をかけ、カストロとジョシュアは慌ててゲルト少佐の後を追った。
ゲルト少佐の後について行き、そのまま一室に通されると、そこにはセシルとボーラも控えていた。
「ようこそカストロ中隊長、ジョシュア少尉。わざわざ来てもらったのは他でもない。今回のバレスタ潜入作戦についてなんだが、ここから先は他言無用で願いたい」
そう言うゲルト少佐の口元は微笑んではいるがその目は冷たく、笑っている様には見えなかった。そんなゲルト少佐を見てカストロとジョシュアは静かに頷く。
「今回の作戦、何故君達カストロ中隊に任されたか? それはハワード将軍が自らの息がかかった者に戦果を上げてもらいたいからだよ。いいかい? この前の襲撃事件の犠牲者はウー将軍の支援者に集中してしまった。その結果ウー将軍は多数の後ろ盾を失い、力を失いつつある。逆に残り二人の将軍は軍のトップに立つチャンスが突然やってきた訳だ。こういったチャンスを見逃さないのがハワード将軍だ。ハワード将軍は自らの推し進めた新型バトルスーツでその開発を担った君達カストロ中隊に戦果を上げさせれば、
「自分達はハワード将軍の手駒にされているという事ですか?」
ジョシュアが戸惑いながらゲルト少佐に尋ねる。
「ははは、我々軍人は常に誰かの手駒だよ少尉……今回カストロ中隊にかかる期待は大きく、それだけに失敗は許されない。でもねハワード将軍の策略なんか関係なく我々も今回は本気だよ。何せシャーン少尉の弔いもしなくちゃならないからね。だから今回カストロ中隊にセシルとボーラも同行させてもらう。これに関してはなんとしても上に通す。今回我々本隊はバレスタから離れた位置にベース基地を置きそこに待機する事になる。だから頼みますね」
ゲルト少佐の言葉にカストロとジョシュアは力強い敬礼で返した。
ゲルト少佐の部屋を後にしたカストロとジョシュア。
今回の任務は、今までにも増して重要度が高い。その重責がのしかかりジョシュアの足取りは重たかった。
「何、顔を強ばらせてんのよ!」
後ろからした声に慌てて振り返るとセシルが笑みを浮かべて立っていた。
「いや、俺達の結果次第で軍のトップが決まるかもしれないんだぞ。さすがに緊張もするだろ」
こんな状況でも笑っていられるセシルに驚きながらもジョシュアが反論してみせる。
「へぇー、さすがねぇ。その若さで軍の今後を背負おうだなんて」
「な、そんなもん背負いたくはねぇよ!」
「だったらそんな難しく考えなきゃいいじゃん。いい? あんた一人が出来る事なんてしれてるのよ。誰もあんた一人にそこまで期待しちゃいないわよ。あんた一人が気負って出来る事もミスられたらやってらんないのよねぇ。まずはジョシュアが出来る事を確実にやってくれる? 皆が出来る事をそれぞれがやる。それが結果に繋がるでしょ。それが作戦ってもんなんじゃない?」
そう言ってセシルは勝ち誇ったよな笑顔を見せ胸を張った。
「はっはっは。セシル少尉の言う通りだ。さぁ早く帰って準備するぞ」
そう言って、呆気に取られていたジョシュアの背中をカストロが叩いた。
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