第25話 内通者②

 襲撃から三日が経ち、まだ襲撃の余韻が冷めやまぬ中、セントラルボーデン基地内の最上階に位置し、厳重な警備体制が敷かれた一室に三人の男が集まり、今後の対策を議論していた。


「今回の一件、痛恨の極みだな。責任の所在はどうしたものか」


 隻眼のルーシェル・ハイトマン将軍が重い口を開いた。


「責任なんかは警備担当の将校にでも取らせておけばいい。それよりもロストバーサーカーと名乗ったふざけた奴らの処分だ。他人の庭にズカズカと入って来て、やりたい放題やって出ていきおって。このままで済ます訳にはいかんな」


 立派な髭を蓄えたウー・フェイフォン将軍が怒りを押し殺すように言った。


「ふん。まぁ賊の討伐は私の下の者達にもやらせよう。あんまり手をこまねいていると老人達もうるさいからな」


 そう言ってジョン・ハワード将軍がその場をまとめようとする。


 この三人の将軍達がセントラルボーデン軍のトップであった。

 三人の将軍はそれぞれがトップを狙うも、これまでは絶妙なパワーバランスの中でそれは均衡が保たれていた。


 しかし先の事件でその均衡が崩れようとしていたのだ。

 これをチャンスと捉えたジョン・ハワード将軍が動いた。


「私は先に失礼させてもらおうか。部下達を部屋で待たせているんでね」


 そう言ってジョン・ハワード将軍は足早に部屋を出た。


『ふん。ウーの奴、相当頭にきていたな。まぁ今回の件で犠牲になったのはほとんどウーの後ろ盾をしてくれる議員や支援者達だったから無理もないか。ここで今回の主犯格どもを私の手の者で討てれば……』


「ハワード将軍? 何かありましたか?」


 待機していた秘書官が語りかける。


「ん? いや、なんでもない。カストロ中隊は揃ってるのか?」


「はい。部屋で待機させてます」


 そう言いながらカストロ中隊の待つ部屋へとハワード将軍は歩いて行く。


 ハワード将軍が部屋に着くとカストロ中隊の面々が敬礼をして迎えていた。


「うむ。ご苦労。楽にしたまえ。それでは早速本題だが、例の新型バトルスーツはどうなっている? もう約束の一週間は経ったが?」


 ハワード将軍がやや眉間に皺を寄せながらカストロの方に顔を向ける。


「それについては自分が。先日の襲撃事件の際、新型バトルスーツを装備の上、敵と交戦となりました。敵との交戦中、魔法も使用できしっかりと実戦でもその能力を発揮出来るものと思われます」


 ジョシュアが前に出てしっかりとした口調で将軍に報告していた。


「なるほど。それは良い報告だ……では次なる任務に就いてもらいたい。そのロストバーサーカーとかいうふざけた連中だが、バレスタという町に潜伏しているとかいう情報があるそうだ。ここからは秘書官に任せる」


 将軍はジョシュアの報告を頷きながら満足そうに聞いた後、そう言って自らの秘書官を指さした。


「ではカストロ中隊の皆さん。バレスタという町はご存知ですか?」


 秘書官はカストロ中隊の前に立ち、さながら教師のように尋ねた。


「治安が悪いスラム街ってイメージですが」


 手を挙げてマーカスが少し申し訳なさそうに発言していた。


「まぁ間違ってはいませんね。バレスタには以前からシャリアを信仰する者達もいました。ロストバーサーカーを率いていると思われるアナベルとかいう者もシャリアの生まれ変わりだと言っているとか。この両者が結び付いたとしてもなんら不思議はありません」


「え? まさかそれだけの理由じゃないですよね?」


 さらに身を乗り出してマーカスが尋ねる。


「ふふ、まさか。タレコミですよ。スラムの連中は金さえ払えば結構喋ってくれるんでね。最近仮面を付けた連中がよく出入りしてるそうです。そしてカルト教団の連中が最近よく口にするそうですよ。『遂にシャリア様が復活した』ってね。そういう事でカストロ中隊の皆さんにはバレスタに行ってもらいます。ロストバーサーカーがカルト教団と結び付き更に力を付け、こちらに牙を向ける前にこっちから奴らを叩き潰してもらいます」


「ちょっと待って下さい。まさか我々だけって事はないですよね?」


 どんどんと進んでいく話に、たまらずカストロが割って入る。


「さすがにそこまで無茶は言いません。あなた方はまずバレスタに潜入しロストバーサーカーの動向を探って下さい。バレスタから少し離れた位置に魔法兵団を初めとした本隊を待機させておきます。あなた達の連絡を元に本隊が攻撃を仕掛けます。あなた達はそのまま本隊と合流し、敵を討って下さい」


 本来、新兵器を試したりする事が任務の大半だったカストロ中隊だが、特務隊さながらの任務を言い渡され皆、言葉を失っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る