第13話 新たな動き②

「遅くなりました。何があったんですか?」


 ジョシュアが兵舎に着くとカストロ中隊の面々が装備を整え鎮座していた。

 各々の面持ちを見ると皆、眉根を寄せて険しい表情を見せている。


「例のシャリアもどきだ。奴が現れやがったんだ」


「シャリアもどき……アナベルが現れたんですか!? 一体何処に!?」


 カストロが嫌悪感をあらわにしながら言うとジョシュアが食いつくように質問を返す。


「リバットさ。奴等リバットを襲ってるらしい」


「リバットを? なんでそんな地方都市を?……まさか!?」


 地方都市リバット。

 セントラルボーデン領域内にある、それほど大きくない地方都市である。

 セントラルボーデンの首都からも少し距離もあり、それほど重要な都市には思えなかったがリバットにはある特殊な施設があった。

 政治犯収容施設である。ジョシュアはそれを思い出したのだ。


「勘が良いな少尉。奴等は政治犯を解放して仲間に付けようとしてるらしい。どこまでも姑息な奴等だ」


「戦局はどうなっでるんですか?」


 腕を組み、険しい表情のままのカストロにジョシュアが尋ねる。


「詳しくはまだわからんが防衛隊が応戦しているらしい。こっちからも援軍は出ているが……間に合うかな?」


「我々は待機ですか?」


「俺達は第二便だよ少尉」


 蓄えた顎髭を触りながら説明するカストロに、少しもどかしさを感じながらジョシュアが尋ねると後で待機していた別の隊員が声を掛けてきた。


「第二便……ですか?」


 ジョシュアが振り返り、少したじろぎながら聞き返していた。


「ああそうだ。仲間や部下の仇を取りたいかもしれないが、残念ながら今回はその時じゃないって事さ。それに俺達は最前線でガンガン戦う部隊でもない。新兵器や試作品なんかを実際使えるか試しながら戦う部隊だからな。こういう緊急発進時スクランブルに真っ先に現場に行く事はないさ」


 ジョシュアに声を掛けた隊員が両手を広げながら説明する。

 

 ジョシュアはソルジャーとしの能力も高く、本来なら前線に出てこそ能力を最大限に発揮できるタイプだ。なのに今は仲間の仇がいるのに対峙する事も出来ない。ジョシュアは自分の今の立ち位置に更にもどかしさをつのらせる。


「少尉。今回は我々が現場に着いた頃にはもう決着はつき、事後処理が主な仕事になるかもしれないが、今は自分が出来る事に注力してくれ」


 ジョシュアの意を汲んだかの様にカストロが肩を軽く叩きながら声を掛けてきた。


 その後、カストロ中隊は数時間待機した後に陸路でリバットに向かう事になった。

 

「技術開発局だけに『凄い飛行能力を備えた航空機』とかはないんですか?」


「そんな物あるかよ。旧暦の頃なら資源エネルギーなんかも気にせずガンガン使って航空機でも飛びまくってたらしいけど、今じゃそれさえも制限されてるもんなぁ」


「まぁ、『昔は良かった』の典型的な例かもな。向こうに着く頃には戦闘は既に終息しているかもしれないが気を抜くなよ」


 ジョシュアが車内で揺られながら他の隊員達と軽い会話を交わしていた。

 

 そうして数時間経った頃カストロ中隊はリバットへ到着する。


 カストロ中隊が車両から降り立つと炎の熱気と煙の匂いに包まれた。

 しかし以前襲われた保護地区の街と比べると建造物等もそれなりに形を残している為、あの時程の破壊の限りを尽くされた訳ではなさそうだ。


「ひとまず敵が潜んでないとも限らない。索敵は怠るなよ」


 カストロがそう言って隊列を組みながら収容施設に向けて歩を進めて行く。


「中々酷いな。これじゃあまるで戦争じゃないか」


 街の惨状を見て隊員の一人が思わず呟く。

 街のあちこちから煙が上がり、負傷者がいたる所で横たわっている。

 

 これではテロと言うよりまさに戦時中の様だった。


 結局ジョシュア達は今回、情報収集と負傷者の救助が主な任務となり早々に撤収する事になった。

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