第12話 新たな動き
――
ジョシュアの初陣から二週間が経ちセントラルボーデン内も落ち着きを取り戻しつつある頃、セントラルボーデン領域内のとある森の中で不穏な動きがあった。
「ほほう、じゃあ、あんた本気でこの国を焼き尽くす気って訳だ」
「いや、この国だけじゃない。この世界を焼き尽くすんだ。その手始めに世界の盟主気取りのこの国を焼き尽くす」
「はっはっは……いいだろう。あんたと手を組むぜ。俺達をいなかった事にしようとするアイツらに復讐してやろう」
アナベルと謎の男が森の奥にある山小屋でガッチリと握手をしていた。
「ふふふ、ではガルフさん、これで我々は同じ志しを共にする仲間という訳ですね。それでは早速お願いしたい事があります……」
謎の男の名はガルフと言うらしく、アナベルとガルフの間を取り持つ様に小柄な女がガルフにこれからの行動を説明する。
――
セントラルボーデン軍司令部にジョシュアは呼び出されていた。
「ではジョシュア・ゼフ少尉。本日付けで技術開発局カストロ中隊へ編入する」
「はい。了解しました」
所属する隊を失い、宙に浮いた様な状態になっていたジョシュアの編入先が決まったのだ。
どうやらアデルと共にクリスタル内蔵の改造バトルスーツを試行錯誤しながら開発に協力しているのが上層部にも知れたらしく、技術開発局から熱烈な要請を受けていたらしい。
「ああ、それとジョシュア少尉。君は保護しているシエラ・モスと親密にしているそうだね」
「あ、いや……はい。親密と言いますかその……」
「いや、別に咎めるつもりは無い。ただの確認だよ。現在彼女は軍の監視下にあるが特に嫌疑無し、という事で近く保護観察という事になりそうなんでね。君に身元引受け人になってもらっては? という意見も出ているんだがどうかな?」
思いもよらぬ提案に初めは困惑の表情を浮かべていたジョシュアだったが、すぐに理解し元気良く答える。
「はい! その時は勿論お受け致します!!」
ジョシュアは力強い敬礼をした後、司令部を後にする。
ジョシュアはその足で新しい配属先のカストロ中隊がある、技術開発局の兵舎に向かった。
隊舎に着いたジョシュアは早速カストロ中隊長の元に挨拶に訪れていた。
「ジョシュア・ゼフ少尉であります。本日よりカストロ中隊長の元でお世話になる事になりました。よろしくお願いします」
やや緊張した面持ちでジョシュアが敬礼をしながら挨拶を告げる。
「よく来てくれたジョシュア少尉。君は例の炎のウィザードと交戦した貴重な人物だ。その辺の事も含めてまた詳しく話を聞きたいね。まぁ今日は下がってゆっくりするといい。明日からよろしくな」
立派な髭を蓄えたカストロ中隊長からそう声を掛けられ、ジョシュアは力強く頷きその場を後にした。
ジョシュアが次に向かったのはシエラがいるゲストハウスだった。
「面会を頼む」
「ええどうぞ」
ジョシュアが警備兵に声を掛けると、警備兵もそれに快く応える。
ジョシュアがゲストハウスの扉をノックすると中から扉が開き、シエラが満面の笑みで迎え入れる。
そして暫く2人は歓談を楽しんだ。
その中でもう少しでシエラの監視が解かれ保護観察になる事。そしてその時の身元引受けを自分がするかもしれない事を告げるとシエラも楽しそうに喜んでいた。
「じゃあ今日はこの辺で失礼するよ」
「ええ、今日もありがとう。軍の監視が外れたら次は街を案内してね」
そんな言葉を交わしお互い別れた。
――数日後
実際シエラの監視は解かれる事となった。
そして身元引受け人は勿論ジョシュアが担当する事になる。
「これで今日からはジョシュアの許可があれば街を散策したり働いたりも出来るって事よね?」
「まぁそういう事だ。ちゃんと言う事は聞いてくれよ?」
ジョシュアとシエラがゲストハウスの前で他愛もない会話を弾ませていると、突然ジョシュアに通信が入った。
「はい。ジョシュアです」
「少尉。緊急だ。すぐに装備整えて来てくれ。事情はこっちに着いたら話す」
電話の主はカストロだった。
「シエラすまない。街を案内する約束だったけど緊急で呼び出されちまった。俺は兵士だから行かなきゃならない」
「仕方ないわね。また今度楽しみにしてる。気を付けてねジョシュア」
カストロの口調からただ事ではないと察したジョシュアはシエラへの説明もそこそこに駆け出して行った。
「……俺は兵士だから、か……」
シエラはそう呟き、駆け出して行ったジョシュアの背中を物悲しげな笑みを浮かべ見つめていた。
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