第11話 再会②

 二人揃ってソファに腰掛けたはいいが、何から話せばいいのか悩むジョシュア。

 そして目の前の男は何を求めて訪ねて来たのか、戸惑うシエラ。


「あ、何か飲み物用意しますね。コーヒーと紅茶があったと思うんですけど、どちらがいいですか?」


 気まずい雰囲気を嫌ってか、シエラの方から話しかけた。


「あ、君の家じゃないのに申し訳無いな」


「気にしないで下さい。それに……私の家はもう何処にもありませんから」


「え、あ……すまない」


 シエラが少し自虐的に笑って言ったが、ジョシュアは自ら失言してしまったと思い、うつむき口をつぐんでしまった。


「あ、あの、隊長さん。それでどっちがいいですか?」


「えっと……コーヒー、ブラックで貰おうかな」


 互いに少し困った様な笑みを見せ、ぎこちない会話を続けながらお互い踏み込むタイミングを計っている様だった。


「さぁどうぞ……隊長さん、今日来られたのってやっぱりお仲間の事ですよね?私のせいです。すいませんでした」


 シエラが飲み物を用意して戻って来るなり、ジョシュアに頭を下げた。


「え、いや、君が謝る事なんかない。確かにゴルドラは亡くなったが殺ったのはあのテロリストの男だ。君のせいじゃない」


 慌ててジョシュアがシエラを制した。

 確かにゴルドラが死んだ時の状況を聞きたいが為に今日シエラの元を訪れたが、決してシエラのせいだとは思ってもいないし、ましてや謝罪など望んでもいなかったからだ。


「いいかい?俺達兵隊は死んでも仕方無いって訳じゃないけど任務中に死んでしまう事はある。その覚悟はしてるつもりだし、それを誰かのせいにするつもりも無い。それに油断したゴルドラも悪かった。だから君が気に病む必要はないんだ」


 ジョシュアがシエラを見つめながら優しく語りかける。

 シエラは精一杯の笑顔を見せた。


「ありがとうございます。隊長さんがそう言ってくださったら少しだけ気持ちが楽になりました」


「そうか、それなら良かった。それと『隊長さん』じゃなくてジョシュアでいいから。きっと歳も変わらないだろ?」


 ジョシュアも少し慣れてきたのか自然な笑顔で語り掛ける。


「そうですか。確かにお互い自己紹介も出来てなかったですね」


 そう言ってシエラは立ち上がり胸に手を当てて自己紹介を始めた。


「私はシエラ・モス。シエラって呼んで下さい。歳は二十一歳、街ではパンを売ってました。残念な事に彼氏はここ暫くいないんです。読書や映画が好きなんでまた良い作品あったら教えて下さい」


 シエラが笑いながら少しおどけてみせる。

 屈託の無い笑顔で楽しそうに笑うシエラを見て、ジョシュアも楽しく笑っていた。


 つい先程までは、部下を失い、戦いに敗れ、暗くなっていたジョシュアの心に僅かながら光が差した瞬間だった。


「じゃあ俺の番だな。俺はジョシュア・ゼフ。ジョシュアでいい。歳は二十三歳。悲しい事に俺も暫く彼女はいない。好きな事は体を動かす事かな」


「そっか。じゃあジョシュアと仲良く話してても誰かに怒られる事はないんだ。まぁ知ってると思うけど私、この街で知り合いっていないから色々と教えてほしいんだ、街の事とか。まぁ今は軍の監視下だから色々制約はあるんだけどね」


 シエラも慣れてきたのか砕けた口調になり、ほころんだ笑顔をみせる。

 そしてそんなシエラの態度にジョシュアも喜んでいた。


「勿論喜んで。俺も一応軍関係者だから少しぐらい融通は効くかもしれないし何かあったら相談してくれたら……」


「本当に?ありがとう。ねぇジョシュアの事もうちょっと教えてよ。私達まだお互いの事何も知らないんだから」


 そうして話しているうちにお互いの心の壁は無くなり打ち解けて行くのに、そう時間は掛からなかった。


『コンコン』

 暫く二人で話し込んでいると入口のドアを軽くノックされる。

 慌てて振り返る二人。

 それとほぼ同時に警備兵が顔を覗かせる。


「ええ、お二人の時間を引き裂く様で誠に心苦しいんですが、少尉、間もなくお時間です。当館では延長というシステムは御座いませんので……」


「おい!変な言い方するな!」


 警備兵が少しニヤけながら含みを持たす言い方をすると、即座にジョシュアがたしなめた。

 シエラは軍の監視下に置かれている為、夜七時までしか面会は許されていないのだった。


「ジョシュアまたね」

「ああ、じゃあまた」


 お互い名残惜しそうに笑顔で手を振りその日は別れた。


「いやぁ私も辛いんですよ。お二人の邪魔をしてる様で」


「……君は嫌味な奴だと言われた事はないか?」


 警備兵が含み笑いを浮かべながら言うのでジョシュアが呆れた様に冷めた目で尋ねてみた。


「……皮肉屋と言われた事ならありますかね。さてと、少尉。私が言うとまた嫌味や皮肉に聞こえるかもしれませんが、彼女は監視下に置かれ、身元もしっかりしていません。あまりのめり込まないようお気を付けて下さい」


「……ああ、わかってるさ」


 何時しか警備兵の顔から笑みは消え真剣な眼差しで忠告してくるのでジョシュアも改めて気を引き締めた。

 確かに少し浮ついていたかもしれない。

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