第10話 再会①

 セシル協力の元、ジョシュアの魔法訓練は続いていた。

 セシルのアドバイスが良かったのか? それともセンスなのか? ジョシュアは苦労する事もなく風を起こすぐらいは出来る様になっていた。

 しかし対象に影響を与える程の風となると、やはり苦労していた。


「なあセシル。今こうやってみて改めて思うんだけどやっぱりお前達ウィザードって凄いよな。戦いの最中、威力の高い魔法なんてどうやって使うんだ? 魔法に集中してたら隙だらけになっちまう」


「ふふふ、何? 今頃私の凄さに気付いたの? 普通はウィザードも詠唱を唱えながら集中して、魔法を撃ち込むからね。やっぱりそこに隙が生じるのよ。それが私達ウィザードの弱点なの。だから貴方達ソルジャーの力も必要なのよ。まあ、私のレベルになると詠唱破棄して魔法撃ち込む事も出来るんだけどね」


 ジョシュアの問い掛けにセシルは顎の辺りに手を添えて、顔をほころばせながら得意気に答えていた。


 程なくして再びクリスタルの魔力も尽きた。


「あ、魔力切れかな?」

「ああ、じゃあ今日はこれぐらいにしましょう。クリスタルに魔力込めたりした挙句、ジョシュアに付き合って魔法使ってたから流石に疲れてきたし」


 流石に疲労の色は隠せないらしく、セシルも眉根を寄せて笑っていた。


「そうだな。初日にしては十分データも取れたしこれぐらいにしとこうか」

「確かにそうだな。セシルありがとうな。お前のおかげで助かったよ。お礼に一杯行くか?」


 アデルも納得の表情を浮かべ、ジョシュアが楽しそうにセシルを誘っていた。


「あら、いいわね。でも私、今晩飲み会に誘われててさ。だからまた今度連れてってよ」


 セシルが顔の前で手を合わせ、眉尻を下げながら笑みを浮かべていた。


「お、なんだ? 男か?」

「ちょっと品の無い言い方しないでよ。まぁコンパみたいなもんよ。私に見合うイケメンがいたらいいんだけどなぁ」


 三人は暫く談笑した後、アデルは今日得られたデータを分析すべく、セシルは飲み会の為に、ジョシュアはある人物に会う為に、その場で解散となった。


 ジョシュアが会いたい人物。

 それはシエラ・モスだ。

 情報によると、シエラは現在、軍の監視下に置かれてるらしく軍管轄のゲストハウスに身を寄せているらしかった。


 ジョシュアがゲストハウスに着くと前には警備の為と思われる小柄な兵が立っていた。


「ご苦労様です。自分はジョシュア・ゼフ少尉です。シエラ・モスに面会をお願いしたいんですが」


 ジョシュアが敬礼をし、しっかりとした口調で自らの身分を伝える。


「ご苦労様です。ジョシュア少尉ですね。上の方からひょっとしたら来られるかも、とは聞いてました。どうぞお入り下さい。シエラ・モスにも声をかけて来ます」


 そう言って中に通されると、警備兵はシエラを呼びに奥に消えて行った。


 通されて暫く、手持ち無沙汰にしていると奥から澄んだ声が響いた。


「隊長さん」


 声の方へ視線をやると、ベージュのワンピースに身を包んだ褐色の美女が立っていた。


 肩まで下ろした黒く艶やかで綺麗な髪。通った鼻筋に二重まぶたで青く大きな瞳。

 先日出会った時は戦闘中の荒野であり、保護対象者という目で見ていたが、今、改めて対面するシエラにジョシュアは完全に目を奪われていた。


「……あの、隊長さん?」


 呼び掛けても返答なく呆けているジョシュアにシエラが困惑の表情でもう一度呼び掛ける。


「……え?ああ、君はその、怪我とかは大丈夫だったんだね」


 我に返ったジョシュアが慌てて笑顔を作った。


「では我々は席を外します。シエラさん、何か不測の事態が起こったら大きな声で叫んで下さい。我々は外で待機してるので」


 警備兵が含み笑いを押し殺す様にシエラに語り掛けた。


「おい、その言い方、何処か刺がないか?」


 ジョシュアが少し文句を言ったが、警備兵が近付き耳元で呟く。


「ふふふ、今そういう目で見てましたよ。気を付けて下さい少尉」


 それを聞いたジョシュアは目を丸くし、少しバツが悪そうにうつむいた。


「あ、あの、どうかしましたか?」


「あ、いや、まぁとりあえずそこに座りますか」


 シエラがどうすればいいのか困惑の表情で問い掛けてきたのでジョシュアは慌ててソファに座る事を促した。


 少し微妙な空気が漂う。

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