第9話 新兵器②

「え?何がわからないの?簡単よ。こんな感じで、えいや!ってやるのよ」


 セシルが説明しながら右手を振ると一陣の風が起こり地面に引っ掻いた様な痕を残す。


「いや、わかんねぇって。もっと、こう、コツみたいなのないのか?」

「コツって言ってもねぇ……私、物心ついた時から普通に出来たからさぁ……天才故に凡人に教えるのは難しいわぁ」


 ジョシュアが少し大きめのリアクションで訴えかけるがセシルは首を振り、口角をやや上げてため息をついていた。


 そんな2人を見てアデルは焦っていた。

 せっかくここまで来た試作品がこのままでは成功しているのか失敗しているのかさえわからないからだ。


「セシル頼むよ。お前はだから魔法なんかの詠唱も破棄して使えるかもしれないけど、詠唱って本来その魔法をイメージし易い様に用いたりもする物なんだろ?だからジョシュアにもその辺から教えた方がいいんじゃないかな?」


 アデルはなんとか上手く指導をしてもらおうとセシルをおだててみる。


「なるほど……確かにそうね。アデル、貴方中々わかってるじゃない」


 そう言ってセシルは満面の笑みを見せる。


「ジョシュア、基本から教えるわ。まずはイメージよイメージ。風を身に纏う様なイメージをするの。それともう一つ基本の魔法を教えると、腕を振ってつむじ風を起こすのをイメージして……」


 セシルがようやく具体的な事を言いながらジョシュアを指導し始める。

 すると暫くして、ジョシュアが腕を振るとそれに呼応する様に風が起こる様になった。


「あら、そよ風程度だけど起こせる様になったんじゃない?後はもっと集中して精度と威力を高めるのよ」


 口調は変わらず上からだがセシルの顔もほころんでいた。


「更に集中か。よし、あそこにある木を倒すイメージで……」


 そう言ってジョシュアが少し離れた所にある木に向かって手をかざし集中力を高める。


 すると一陣の風が吹き、たちまち風は木を覆い、竜巻へと形を変える。

 ジョシュアが放った竜巻は木をまたたく間に飲み込み、竜巻が姿を消すとそこには枝が無くなり幹には幾つもの切り刻まれた痕を残す木が残されていた。


「……す、すげぇ。これが魔法の力か」


 ジョシュアが無惨な姿となった木と自らの手を交互に見つめながら興奮気味に呟いた。


「何喜んでんのよ?寧ろ今みたいな竜巻起こすんなら、あの木ぐらい根こそぎ倒してほしかったわね」


 そう言ってセシルは笑みを浮かべながらも、ツンと鼻を上げる。


「まぁまぁ、初日にしては順調じゃないか。さぁジョシュア、今のコツを忘れないでくれよ」


 アデルが笑みを浮かべながら間に入り、ジョシュアに労いながら声をかける。

 アデルからしてみれば、自らの研究の成果も上がりご満悦の様子だ。


「よし、そうだな。それじゃぁ……ん?」


 ジョシュアも勢いそのままに、もう一度魔法を放とうとするが今度は何も起こらなかった。

 先程まで起こせていた僅かなそよ風程度の風も起こせなくなっていた。


「え?……なんでだ?」

「これはひょっとしたら……」


 ジョシュアが困惑しているとアデルがジョシュアの背後に回り込んだ。


「……うん、やっぱり……ジョシュア、魔力切れだ」

「魔力切れ?」

「そうだ。ここまで練習しながら何度も風起こしてきただろ?それに最後に竜巻まで起こしたんだ。アレで魔力を使い切っちまったんだな」


 ジョシュアの背中のクリスタルを確認し、アデルが眉間に皺を寄せ、少し残念そうな顔を見せる。


「あ、そうなのか。なぁセシルまた魔力込めてくれよ」


「はぁ!? 何簡単に言ってんの? 私は充電機ですか!?」


 ジョシュアが軽くセシルに頼んだが、この態度にセシルが大きな瞳を釣り上げ、不快感を露にする。


「あ、いや、そんなつもりじゃないけど……」

「いや、まぁほら、ジョシュアも悪気は無いんだからそんなに怒らなくても……」


「悪気が無かろうが、イラッとした事には変わりないんだけど。だいたいアデルも自分の開発したバトルスーツ試したいのが本音でしょ?何しれっと第三者みたいな立ち位置気取ってんのよ?」


 アデルが間に入り、なんとか収めようとしたが更にセシルが捲し立てる。

 2人はそんなセシルに完全に気圧されていた。


「いやあの……協力してくれてる事には本当に感謝してる。だから後少しだけ協力してくれてると助かるんだ」

「……へぇ、なるほど。それでジョシュアは?」


 アデルが手を合わせ、なんとかなだめようと低姿勢で頼み込むとセシルは勝ち誇った様にジョシュアの方を見た。


「あ……た、頼むよ。セシルの協力が無いと俺達2人じゃどうしようもないんだ」

「ふん。初めからそれぐらい敬ってくれる?とりあえず今日は後1回ぐらいは協力してあげる」


 そう言ってセシルはクリスタルに手を当て魔力を注入してくれる。


 このバトルスーツの弱点は扱えるまでに慣れがいる事や燃費の悪さなんかではなく、供給元となってくれてるウィザードに平身低頭で頼み込まなくてはならない事ではないだろうかとアデルは気付いた。

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