第12話

 東京での生活が始まって、ようやく初めての冬を迎えた。初めのうちは人の量とか、建物の高さに驚いていたが、今となってはそんなこともなくなった。

「修也~。今日さ、コンパあんだわ~。行こうぜ~」

断り切れない小島の誘いに俺は「おう」と短く返事をする。

「じゃ、後でな~」

小島が遠ざかってから小さくため息を零す。都会に来て感じたのは、人付き合いの大切さだ。他人と同じ速さで、他人と同じレールの上を歩く。そのレールから外れてしまえば最後、元の道には戻れなくなる。俺は毎日、他人に合わせてばかりだ……。

「情けねぇ……」

自分でも分かってるけど、自分らしくいられるわけもなくて。結局いまも、コンパの金を払うために高校時代のバイト貯金を下ろしている。

「もうカツカツだな……。でも、シフトも増やせねぇしな……」

人付き合いを考える時間も空しく、すぐにバイトの時間を増やせないか店長に確認する。払いたくもない金を払わされて、俺は何してるんだろう。どうして自分が生きているのか。自分が存在している意味が分からなくなってきた。

 見上げた空はとても小さかった。四角に切り取られたその空には、雲一つも浮かんでいない。地元にいる時は、快晴は嬉しいものだったけど、こっちに来てからはとても淋しいもののように感じる。

「いたいた。じゃ、行くぞ~」

「お、おう」

スマホをするりとポケットの中にしまって、後に続いた。

 夕方と夜の間くらいの時間。空はすっかり暗くなってしまっている。俺とその他二人はおしゃれなイタリアンレストランの前で女子たちを待っていた。

「でさ、どんな子が来んの?」

この中で最もチャラい河田が小島に聞く。

「三人とも可愛いらしいけど、よくわからん」

和気あいあいとした雰囲気に、俺は完全に乗り遅れている。恋愛に興味を持てないのだから仕方ないのだと、今日も影の存在に徹すると心に決めて静かにスマホを弄った。

「あ、ごめ~ん。遅れた~」

遠くから一人の女子の声が聞こえた。待ち合わせをしていた女子側の主催者の声なんだろう。元気、というか明るいという印象の活発な声。顔を上げると、予想通りばっちりメイクの女子が明るい笑顔を貼り付けてこちらを見ている。

「ちょっと早いよ、香織~」

「待って~」

女子側主催者の背後から聞こえてくる二つの声。一つは主催者と似たような活発な声。もう一つは、少しのんびりした幼稚園児みたいな声……。

「ん?」

どこか聞き覚えのある声に、遠くの二人にピントを合わせる。段々と近づいてくる二人。右側が多分、活発な声の人。左側は――。

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