第9話 復讐!

 さて、イアソン達が旅立った時、「やっと厄介払いが出来たで! ついでに老いぼれた兄貴も片付けたる!」と兄でありイアソンの父であるアイソーンを虐待したと伝えられています。酷いですね。普通に考えればイアソンが帰還する見込みはありませんし、万が一厄介者が帰ってきても独裁体制を築いておけば大丈夫と考えたのかも知れません。


 兎に角アイソーンは大人しくSATSUGAIされるよりも自害する道を選びました。雄牛の血を大量に飲んで逝ったということです。またえらい死に方ですね。しかし、調べてみると古代ギリシャではアスリート達は雄牛の血を飲み睾丸を食べていたとのこと。これでは自害と言うよりもリベンジの為にパワーアップを図っていた事になってしまいます。


 もう一つの可能性としてあるのは、「雄牛の血」という名のワインが存在すると言うことです。トルコ軍に包囲されたハンガリー軍の兵士達が城中の赤ワインをがぶ飲みして戦うのを見て、トルコ軍が「彼奴ら牛の血を飲んで戦っとる!」と勘違いしたのが起源だとか。このワインは今でも通販で買えたりします。時代考証としては無理があるんですが、こちらの方がソレっぽいかなと思うのですがどうでしょう。


 こうしてアイソーンは事果ててしまい、妻のアルキメーネーもペリアースを呪いながら縊れてしまいました。いたいけな男児プロマコスを残したままと言われ、ペリアースはこのプロマコスまで手にかけてしまうのです。救いがありませんね。別の伝ではアイソーンは老いの身を託ち(かこち)ながら片田舎で暮らしたとも言われています。ただ、これではその後の動機が薄らいでしまいますのでどうかと思います。



 そんなところへイアソンが仲間を引き連れて帰還してしまったではありませんか。一騎当千の仲間を含めて四十五人。しかも魔女までいます。これはマズいですね。その上きっちりと約束を果たし、金羊の裘(かわごろも)をゲットしている始末。



 困ったペリアースは裘を受け取りはしたものの、言を左右して一向に王位を譲ろうとはしません。そんな中で彼の悪事が露呈します。怒りの頂点と失意のどん底をまとめて味わうイアソン。その姿を見た魔女メディアの復讐劇が幕を開けるのでした。


 まず二人はコリントスへ赴いてペリアースの監視を逃れます。異伝では田舎のアイソーンの元へ……となっています。或いは、イアソンは仲間達と共にイストモスに船を進め、ポセイドンにアルゴ号を奉献し、その後血にメディアに復讐の策を求めたとも言われています。


 それから夫婦喧嘩で別れたふりをしてメディア一人がイーオルコスに戻ってきます。


 さぁここからです。メディアはペリアースの娘三人を呼び寄せ、その目の前でヨボヨボの牡羊をを若返らせる実験を見せるのです。まず牡羊の喉を切り裂き、血を絞り出し若さをもたらす霊薬を血管に満たしてから薬を入れた釜の湯のなかに投じるというグロい実験です。


 こうして少々煮込んでから蓋を開けると、あら不思議。可愛い真っ白な子山羊が愛らしく鳴きながら出てきたではありませんか! さすがは魔女ですね。異伝ではメディアがアイソーンを同じ方法で若返らせ、薬を攪拌したオリーブの枝でさえ芽を吹き根を生やし緑の実をつけたとも言われています。凄い効果ですね。ガチで欲しいです。


 この実験を見たペリアースの娘達はすっかり感心してしまい、最近めっきり老け込んで気難しくなった父に試してくれと懇願するのです。内心ほくそ笑んだメディアは散々に勿体つけた後に承諾し、最も重要な薬草だけを抜いておきました。


 そして「アカンて、ヤバいから!」といやがるペリアースを三人娘の手で同様の手順で釜の中に投入させます。結果は……当然ながらとんでもない事に。こうしてえげつない復習を遂げたものの、王位は手に入りませんでした。



 というのも、ペリアースの息子アカスコスがいち早く各地の諸王に葬儀の知らせを出し、盛大な葬礼競技を催して王位継承を明らかにしたからです。詰めが甘かったですね、魔女さんも。


 手痛い失敗をした二人は、その復習のえげつなさもあってコリントスへ追放されます。古来この地は商業都市として栄え、こんな二人でも暮らしやすかったようです。

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