第6話 真波渚と南雲霞
盛周に抱きついて、だらしない表情を浮かべていた渚だったが、不意に襟首を引っ張られる。
「ぐぇっ……!」
そのことで乙女にあるまじき声を出す彼女。
その声を聞いて、どこからともなくため息が聞こえてくる。
「……ふぅ。なぎさ、池田さんに迷惑をかけちゃダメだと、毎回言っているでしょう?」
そう、ため息の主が渚に苦言を呈すると、それを見ていた男子生徒がぽつりと言葉をこぼす。
「お、今度は
男子生徒が保護者と揶揄した渚をまるでイタズラをした猫のように掴んでいる彼女。
深い青色の腰まで届く長髪に、渚が人よりも少しだけ寂しい体格とするなら、彼女は逆にワガママボディとでも言われそうな豊満な体つきをしている彼女の名は
真波渚の親友であり、渚が天真爛漫に振る舞うのに対し、そんな彼女が誰かに迷惑をかけそうな時、どこからともなく現れて彼女を止めることから、知人たちからは渚の保護者として目されている。
その彼女に盛周は躊躇いがちに声をかける。
「あ、あの。南雲さん……?」
「はい? どうしましたか、池田さん?」
急に盛周に話しかけられたことで、首を傾げつつ変事をする霞。
その顔はなぜ声を掛けられたのかがわからない、という感じに不思議そうな表情を浮かべていた。
そんな彼女に、盛周は焦った様子で渚から手を離すようにお願いする。
「な、なぁ。取り敢えず、なぎさから手を離さないと……。かなり、顔色がマズいことになってるから!」
「え……?」
盛周にそう告げられて、彼女はようやく渚を見る。
するとそこには顔を青ざめ、というよりも白くなりはじめて、弱々しく霞の腕にタップしている渚の姿があった。
「あ、ああっ! ごめんなさい。なぎさ、大丈夫?!」
そう言いながら、慌てて掴んでいた襟首を離す霞。
すると当然支えがなくなった渚の身体は地面に落下し、盛大に尻餅をつくことになった。
尻餅をついた痛みと、何より襟首を掴まれてたことで擬似的な首絞めを味わっていた渚は思い切り咳き込んでいる。
そして、しばらく咳き込んでいた渚だったが、少しづつ症状が治まってくると、恨みがましい目で霞を見つめる。
「……かすみぃ。いくらなんでも、あんまりじゃない?!」
「ご、ごめんなさいっ! なぎさ、大丈夫だった?!」
そのまま霞を責める渚と、それに対して心配しつつ平謝りしている。
そんな二人を見ていた盛周に、いつの間にか近づいていた男子生徒が肩を小突くと話しかける。
「なぁチカ。やっぱ南雲さんて色々な意味ですごいよな」
「……うん?」
「いや、だってよ……。あの細腕で、いくら軽いって言っても、お前の奥さん軽々と持ち上げてんだぜ?」
「奥さんじゃないが?! ……まあ、すごいというのは認めるが」
「だろ?! それに時たま、あんな天然やるのが普段クールな分ギャップがすごく良いというか……」
「何を言ってるんだ、お前は……」
男子生徒の告白、もとい独白に白けた目を向ける盛周。
そんな盛周に、彼は霞がどれだけ可愛らしいか、ということを身を乗り出して力説する。
「なぁに言ってるんだ?! 南雲さんは、あの理知的な眼差しにクールな雰囲気も相まって、男どもだけじゃなくて女子の人気も高いんだぜ!」
「お、おう……」
男子生徒の剣幕に押された盛周は、さっと目を反らす。
その時、偶然目についた腕時計の液晶パネルを見て焦り声をあげた。
「げぇっ……! やべぇ!」
「お、おい。どうしたんだよ?」
「時間だよ、時間!」
そう言いながら液晶パネルを見せる盛周。
そこには八時十五分の文字が刻まれていた。
それを見て顔をひきつらせる男子生徒。
なぜなら、現地点から学校まで急いで十五分。つまり、早い話が遅刻ギリギリの状況だった。
そのことに気付いた盛周は、渚と霞、二人に声をかける。
「お、おい! 二人とも、じゃれあってないで。時間がヤバイ!」
『……はい?』
ほぼ同時に同じ返事をした二人に、こいつら本当に仲良いな。と、思いつつ盛周はさらに二人へ捲し立てる。
「このままじゃ遅刻するぞ! ほら、早く早く!」
盛周の言葉に二人も、各々が着けていた腕時計を見やる。
そして、彼の言うことが真実だとわかると、二人とも顔を少し青ざめさせ、脱兎のごとく駆け出した。
「あっ、早っ!」
二人のあまりの変わり身の早さに驚き、結果として置いてかれることとなった男子二人。
彼らも遅まきながら彼女たちを追いかけるように駆け出すのだった。
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