第5話 真波渚《レッド・ルビー》 Begin
レッド・ルビーがガスパイダーを撃破した翌日。
立塔市を始め、日本各地でバベル復活の報が駆け巡っていた。
特に立塔市では、他の都市よりもバベルが活発に活動していたこともあり、少なからず不安の声を上がっていた。
そして、それは大人だけではなく子供たちも話題にしており、現に立塔市にある『市立立塔学院高校』でも持ちきりであった。
登校中の通学路。そこで一人の男子生徒が、とある人物に話しかけている。
「なぁ、チカ。聞いたかよ?」
「……あん?」
「ほら! バベルの話だよ!」
「……あ、あぁ。聞いてる、聞いてる」
男子生徒にバベルの話と言われ、どもった人物。
――彼の名は『
なぜ、彼が学生として立塔学院高校に通っているのか。
そこに特別な理由があるわけではないが、元々彼が入学試験に合格したこと。そしてそこが隠れ蓑としてちょうど良い、という理由で今現在も通っている。
ただ、今はある意味においてこの学校は彼にとって、もっとも安全な場所であると同時に、もっとも危険な場所になってしまっている。
その原因は――。
わたしの名前は
わたしにはとても大切な人がいる。その人は――。
「あっ! チカくんっ――!」
彼の後ろ姿を見て即座に抱きついた。……彼の背中でわたしの胸がむにゅ、と押し潰される感触がする。
それが、少し恥ずかしいけど……。でも、こうやって大好きアピールをしとかないと、誰かに盗られるかも知れないし、何より彼と密着すればドキドキして気持ちいいから、良い、よね……?
抱きついた衝撃で少し前のめりになるチカくんこと、
「お、おいっ! なぎさ、危ないだろうがっ!」
振り向いてわたしに怒るチカくん。……怒られて少ししょんぼりだけど、怒った彼も格好良いなぁ。
「えへへ、ごめ~ん」
「はいはい、朝から夫婦漫才ごちそうさま」
わたしがチカくんに謝ってると、彼と一緒に登校してた男の子が、そう言ってからかってきた。……からかいなんだよ、ね?
チカくんにも、そう想われてると良いなぁ……。
「おいっ! 夫婦とか言うなよ!」
「良いじゃないか、お前ら幼馴染みなんだし。実際、端から見れば、そうとしか見えねぇぞ」
顔を真っ赤にしながら男子と口論してるチカくんも可愛い。
そんな彼をうっとりと見つめながら、わたしは
わたしが彼と出会ったのは、幼稚園の年長さんのとき。
自分で言うのもなんだけど、わたしには人とは違う
……今でも忌まわしく思うとともに、彼と出会う切っ掛けをくれた大切な力。『超能力』という特別な力が……。
でも、当時のわたしはその力を制御することが出来なくて、結果、皆から距離を取られる。もっとひどく言えばいじめを受けることになった。
……でも、それも今なら理解は出来る。まぁ、納得は出来ない、と言うよりもしたくないんだけど。
人は自分と違うもの。しかも、それが自分を傷つけるものだったら遠ざけ、排除するのは当然だと思う。それが故意でなかったとしても……。
そして、小さい子は特にしがらみも、やってはいけないことの道徳心なんかも希薄だから……。
その結果は、もうわかると思うけど。超能力が暴走して皆からハブにされて、いじめられて。それで悲しいって気持ちでまた超能力が暴走して……。あとはその繰り返し。
それに超能力を使うのに体力がいるから、結果として身も心をボロボロに……。
そんな時に現れたのが、彼。チカくんだった。
彼はわたしがいじめられている時は庇い、超能力の暴走の時だって怪我することも厭わずに、わたしと一緒に親身になって接してくれた。
そうして彼とともに特訓して超能力を制御できるようになってくると、少しずつ友だちも増えていった。
でも、それも彼が、チカくんが居てくれたからこそ出来たこと。
だから、わたしにとってあの人は
うん、つまりわたしにとって彼は
そんな彼と日常の日々を送ってたわたしだけど、とある転機が訪れたの。
それは中学の頃に活動が活発になった秘密結社バベルと、その対抗組織であるバルドル。
二つの組織の戦いに巻き込まれたこと。
その時、わたしは自身の超能力でバベルの戦闘員を倒したんだけど、それを見たバルドルの司令官が、のちにわたしをスカウトに来たの。
司令官、南雲司令にスカウトされた時は迷ったものの、司令が見せてくれたバベルの破壊活動を見てスカウトを受けることにしたの。
だって、バベルの破壊活動に彼が、チカくんが巻き込まれるかもって思ったから。
それで彼が怪我をしたり、最悪死ぬなんてことになったら、わたしは悔やんでも悔やみきれないもん……。
だから、わたしはバルドルに所属してコードネーム『レッド・ルビー』として活動することになったの。
そう、わたしはレッド・ルビー。超能力戦士のレッド・ルビー。
忌まわしい力だけど、この力でチカくんを守れるなら。それだけを励みに戦ってきた。
それに、昔は敵だったけど、今は一緒に戦ってくれる親友もいる。
そうしてバベルも壊滅させたし、これでチカくんも安全だと思ったのに……。
だから、今度こそ完全に壊滅させる。完膚なきまでに。
それが彼に対しての恩返しになると思うから……。それに、ご両親。亡くなったおじさん、おばさんにもお世話になったから。
あの人たちを守ることが出来なかったから、罪滅ぼし、というわけじゃないけど……。それでも、彼には、チカくんは死なせない。
それがわたしに出来ること。
そして、もし――。
――もし、平和になったら。レッド・ルビーというヒロインがいなくなっても大丈夫になったら、その時は。
チカくん、その時は。チカくんや今度は霞とも一緒に。ずっと一緒にいられる、よね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます