第4話 超能力戦士 レッド・ルビー 後編

 レッド・ルビーに襲いかかったガスパイダー。

 彼はまず手始めとばかりに、己が口と背中から生えている蜘蛛の脚と思しき器官から糸を吐き出す。


「フシュルルルルルっ!」

「──そんなのっ!」


 しかし、レッド・ルビーはそれを華麗なステップで回避すると、脚を踏み締めて突貫する。だが──。


「──かかったなぁ!」

「なっ……!」


 なんと、避けた筈の蜘蛛の糸が互いに当たり、まるで跳弾のように跳ね返り彼女の背後から襲いかかってきていた!

 そのことに遅まきながら気付いたレッド・ルビーだったが、反応が遅れてしまう。

 その結果、糸のうち一本が彼女の左腕に巻き付く。


「──しまった!」

「ふはははぁっ! 捕まえたぞぉ!」


 糸が当てることができたガスパイダーは、だめ押しとばかりにさらに一本、もう一本と最初に巻き付いた糸を伝って巻き付けていく。

 そして、完全に補強できたことを確認できたら今度は糸をむんずと掴むと、力の限り振り回す!


「ぬぅおぉぉぉぉぉぉぉっ!」

「ち、ちょ……! きゃぁぁぁぁぁあ!」


 まるでオモチャのように、強制的に空中遊泳させられることになったレッド・ルビーは、悲鳴を上げていたが……。


「ふははっ、そぅらっ!」

「──ぎぃっ! く、うぅ……」


 ガスパイダーは遊びは終わりだ、と言わんばかりに彼女の身体をビルの外壁に叩きつけた!

 そのことで外壁に罅が走る。そして悲鳴を上げ、力なく倒れ伏すレッド・ルビー。

 そのことに気を良くしたガスパイダーはトドメを刺すための行動に出る。


「とぅあ!」


 天高く跳躍するガスパイダー。

 レッド・ルビーも左腕が拘束されていることから、強制的に彼の跳躍に付き合わされる。そして──。


「ふんっ!」

「……うっ!」


 華麗に着地するガスパイダーとは対照的に、レッド・ルビーは無様に受け身もとれず地面に叩きつけられた。

 だが、レッド・ルビーは全身の痛みに苛まれながらもなんとか立ち上がって、回りを確認する。

 そこは、先ほどのビルが立ち並ぶオフィス街ではなく、すぐ近くに寂れた廃工場がある無人地帯であった。


「こ、ここは……?」


 痛む身体を律しながら、ふと口走るレッド・ルビー。

 そんな彼女の疑問にガスパイダーは嘲るように答える。尤も、その答えは彼女の望むものではなかったが……。


「ここか? ここは貴様の墓場よ。この廃工場が貴様の墓標となるのだ。嬉しいだろう?」

「──ふざけないでっ!」


 ガスパイダーのふざけた物言いに激昂するレッド・ルビー。

 そして彼女は装着している手甲の一部、PDCを起動させ、サイキックエナジーを放出し拘束から逃れようとする。

 だか、そのことに気付いたガスパイダーは──。


「させぬ! ぬぅりゃぁぁぁ!」

「──くぅ!」


 先ほどの焼き直しのように再び糸を掴んで振り回すと、レッド・ルビーを積み上げられていた一斗缶の山に叩きつけた!

 積み上げられていた一斗缶をガラガラと崩しながら突き抜けて廃工場内に転がり込むレッド・ルビー。しかし──。


「ぬぅ……! しまった!」


 ガスパイダーは糸を持つ感触から重みが消えた。即ちレッド・ルビーが拘束から逃れたことを感じ取る。

 そのことに慌てて彼女を追うために廃工場に入る。そこには──。


「つぅ……。よくもやってくれたねっ!」


 痛みに顔をしかめながらも、体勢を立て直したレッド・ルビーの姿があった。

 体勢を立て直した彼女を見たガスパイダーは地団駄を踏むと、今一度拘束しようと糸を吐き出す。


「おのれぇい! ならば、もう一度拘束するまでよ!」


 だが、彼女もヒロインとして数多の修羅場を潜り抜けてきた戦士。一度見た攻撃を再び食らうわけもなく──。


「甘い──!」


 自身の手甲にサイキックエナジーを刃状に纏わせ突貫!

 ひらり、と糸を躱すと同時に両手の刃で切り払っていく。そしてガスパイダーの懐まで潜り込むと──!


「はあァァァァァァぁあ!!」


 ──まずは正拳!

 ガスパイダーの身体にめり込むように打つ! そして!

 打ち抜かれた衝撃でくの字に曲がり下がった頭にアッパーカット!

 堪らず仰け反るガスパイダーに対して、拳の連打、連打、連打!

 防御する暇すら与えぬ猛攻に、思わず悲鳴を上げるガスパイダー。


「ぬ、おぉぉっ──!」

「まだまだっ! ──これでぇ!」


 だが、その程度で許すレッド・ルビーではなく、脚を踏み締め、腰を落としての渾身の蹴りが炸裂!

 痛烈に浴びたガスパイダーは、ゴロゴロと転がりながら散乱している一斗缶──先ほどレッド・ルビーが崩した山だったもの──を吹き飛ばしつつ工場の外へ蹴り出される。

 そして、レッド・ルビーも追うように工場の外へ躍り出る。

 そこには、全身から火花を散らしながら、なんとか立ち上がろうとするガスパイダーの姿があった。

 そして、それは絶好の好機であり、彼女はそれを逃さないため、行動に出る!

 まずは、ガスパイダーに手を翳して輝かせると、サイキックエナジーを照射!

 エナジーで簀巻きをするように拘束する。そして!


「──たァァァァぁあ!」


 気合一閃!

 彼女は力の限り跳躍するとくるり、と一回転。右脚にサイキックエナジーを注ぎ込むとそのまま跳び蹴りを放つ!

 ドゴン! と、凄まじい音が響き渡りガスパイダーに跳び蹴りが炸裂すると、あまりの威力に吹き飛ばされていく!


 ──これこそが彼女の最強にして、フィニッシュ用必殺技。その名もサイコ・ブレイク!


 吹き飛ばされたガスパイダーはよろよろと立ち上がるが、元々限界だった状態にトドメとばかりにサイコ・ブレイクを叩き込まれたことで限界を超え──。


「お、おのれ。レッド・ルビー……。おのれ、我が宿敵。──バベルに、新たなる大首領に栄光あれぇぇぇぇ!!」


 断末魔を上げるとともに倒れ、大爆発を起こす。

 その断末魔を聞いたレッド・ルビーは人知れず拳を握る。


「やっぱり、バベル。復活していたのね……。でも──」


 そうして彼女は自身の中にある決意を吐露する。


「何度復活しようと、私が倒してみせる──! 私自身のため、何よりが平和に暮らすためにも……!」


 決意を新たにしたレッド・ルビーは足早に廃工場を去っていくのであった。







 レッド・ルビーが去っていった後の廃工場。

 そこに放置されていたラジオの電源が独りでに入り、放送が流れてくる。


『我々はバベル。秘密結社バベル。人々よ、恐怖せよ。我々が復活したことに。人々よ、歓喜せよ。我等が軍門に下れることに。我々は──』


 放送は続いている──。

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