第22話
「こ、
「なんでって。人の家の前で女の子とキスなんて、私への当てつけのつもり?」
小原さんも僕と同じく制服のままだった。
前から思ってたけどチェックのスカートは自分で加工したのかな。全体のラインがキレイで靴下も可愛く見えるんだ。
いや、今はそんなことより。
「小原さんちの前!? あっ、いや、これには深いわけが……」
「浮気男の決まり文句みたい!」
「う、浮気? それってどういう……」
僕の言葉を無視して小原さんは僕の隣に突っ立っていた地雷女に目をやった。つま先から頭のてっぺんまで彼女を眺め、それから僕の足元にあったライフルに目を止めた。
小原さんの考えてることはわかるよ。言いたいこともね。
だからこの地雷女と一緒にいるところを人に見られたくなかったんだ。
「こんばんは。あなた、変わった格好してるのね」
小原さんも小柄だと思っていたけど、こうしてみると地雷女はもっと華奢なんだな、などと考えるうちに、小原さんの頭上に怪しい光が点灯した。
「この人があなたの新しい恋人?」
「こ、恋人!? 違う、こいつは」
「だってそうじゃない。私と二人で遊園地に行ったとき、私になんて言ったか覚えてないの?」
「え、な、なんのこと?」
まるで本のページをゆっくり開くみたいに、当時の記憶がよみがえる。
あれは、売店で好きな二次元キャラのグッズを見つけたときだった。あんなところにワナがあるなんて思いもしなかった。
「それ、なーに?」
遊園地の売店で、小原
「え!? いや、何だろうね、これ」
タケルはいつもの癖で、こんなものには興味がないという演技を始めた。朋美はそんなタケルをなだめるように続けた。
「別に好きなものをごまかす必要ないんじゃない?」
「え?」
「私もね、小学校の時、友達には変わってるって言われるようなキャラクターが好きで、でも友達に笑われてからは身に着けなくなってた。すごくいけないウソをついてるような、あの子を裏切ってるような気がしてた」
朋美は両手を胸の前で握りしめながら話していた。ヒリヒリと痛む心臓の痛みに耐えるように。
タケルにはその気持ちが痛いほどわかった。
「うん、そうだね……」
「誰かを好きになることもそう。自分の気持ちにウソをつき続けてると、そのうち自分がどんな人間なのかわからなくなっちゃう」
「そ、そうだよね。僕も中学のときからある人のことが大好きで、その気持ちを誰にも言えずにいたんだ」
「そ、それって」
朋美の頬が赤く染まった。中学の時、朋美はタケルと三年間同じクラスだったのだ。
「そうだよ! 小原さん」
「え、えっ?」
タケルは大声を出して朋美を驚かせた。
彼女の右手を勢いよくつかみ、自分の胸の前に引き寄せる。
「好きって気持ち、僕はもう我慢しないよ、小原さん!」
「ちょっ、それって、えっ?」
朋美は息苦しさにあえぎながら、聞き取れないほど小さな声をようやく口に出す。顔はどんどん下に向いていく。
「僕はね、ずっとこういうキャラが好きだったんだ」
「……はい?」
朋美はゆっくりと顔を上げて驚いたような表情を見せる。タケルはかまわず続けた。
「二次元のキャラクターたちだよ。夢があって可愛くって、どんなに落ち込んだときでも彼女たちがいると楽しい気持ちになるっていうか。勇気をもらえる? そう、気持ちが前向きになって、こう、恋人みたいな、やるぞーってなるんだ。それでいつも彼女たちと一緒に、なっ、て……、あ」
朋美は何も言わず、タケルから顔をそむけるように体をひねり、すっと音もなく店を出て行った。
彼女の無言の拒絶をタケルは後悔とともに見送るしかなくて、しばらく彼女を追いかける勇気もわかなかった。
「わー!! 違うんだよ、あれは! あれ? あれー!?」
僕が自らの転落人生のフラッシュバックに耐えきれなくなって両手を振り回すと、ボウリングのピンが勢いよく倒れて、店内に爽快なストライクの音が響き渡った。
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