第10話
「
間違って銃身にさわってしまった。
弾丸を加速する時に発生した熱ってこと?
「まさか、本当に?」
やっぱりこの銃は本物で彼女が僕を撃ったってこと?
信じたくないけど。
銃身の先端は彼女の露出した太ももに当たっていて、皮膚が赤く染まっていた。
僕はパニックになって、持っていたペットボトルの水をジャバジャバとかけはじめた。
だけど思ったほど銃身は熱くなかったみたい。
水がジュワって蒸発するようなことはなかった。
銃身をそっと太ももから持ち上げてみた。
「よかった」
皮膚にくっついちゃってるんじゃないかと心配したけど、少し赤くなっているだけだった。
だけどほっと息を吐いたとき、僕は気づいてしまった。
水がかかったせいでスカートの生地が肌に付着し、白いスカートが肌色になっていることを。
「うわ!」
慌てた僕が目をそらそうとしたと同時に、女の子が目覚めて銃を持ち上げようとした。僕の頭に向けようとしたのかもしれない。僕は反射的に銃をつかんだ。
最初こそ不意打ちされた僕が銃を奪われそうになったけど、地面に寝転がっている僕のほうが体勢有利だった。
なのに女の子は僕の頭に銃を向けようとするのをあきらめようとしない。身の危険を感じた僕は
力を入れれば入れるほど彼女は白い肌を桜色に染めていく。
子供みたいな
「あぁもう、こんなもので殴れないよ! 君は、誰なの」
返事はなかった。まるで聞こえなかったみたいに無反応だ。
「そうだ、地雷! あの地雷って君の? 僕が近づいたら反応して爆発したあれだよ。否定、はしないんだね。だったら、君が犯人、対人地雷女ってことだ。でもどうして? なんで僕を追いかけてるの? 君の、君の任務は何だい」
いつまでも続く力比べに声を震わせながら、僕は彼女に語りかけた。
「……私の、任務は」
任務って言葉に反応したのかな。
やっと地雷女が口を開いた。
彼女が銃を握る手の力を抜く代わりに、
「っ!」
思わず両手で目を覆う。
「す、
閃光は一秒かそこらだった。
光量が落ち始めると僕は自分の失敗に気づいた。
銃から手を放してしまったんだ。
この後の展開は簡単に予想できるね。
地雷女が僕の頭に銃を突き付け、ニヤリと笑ってゲームオーバーを告げるんだ。
でも実際に視界が戻ってみると、予想外の状況が待っていた。
地雷女は銃を持ってはいたけど、狙っているのは僕の頭じゃなかった。田んぼのかかしに銃を向けて、スコープに目を当てたり離したりしている。
「なに、してるの?」
「使い方を教えてほしい」
そう言って、彼女は僕の手に銃をポンと乗せた。
「……は?」
その顔に殺気はなく、まるでおもちゃの使い方を教えてもらおうとする子供みたいだ。
「え、ちょっと待って……君はさっき、これで僕を撃ったよね!?」
「……うん?」
「いや、そんな無邪気な顔で首をかしげたって騙されないからな。いいか? さっきまで銃身が熱かったろ? 君がこの銃で僕を撃った証拠だよ」
「銃身が熱いから、私がアナタを撃った?」
「……いや、そうとは限らないけどさ。と、とにかくだ。少なくともこの銃から弾が発射されたことはたしかだよ。君の持ち物だから君が撃ったんだろ?」
「……うん?」
「うわ! こっちに顔近づけて胸の谷間をチラ見せするのはやめろ! だからさ」
僕は銃を構えた。
「いいか? あそこのかかしが僕だとするだろ? 君は僕に銃口を向けてこう構えた。ここのスコープから覗くと遠くのものが大きく見えるのは知ってるよな?」
女の子がコクコクと首を縦に振った。
「そう。そして君はスコープから僕が見えるのを確認して、ここの
「トリガーを引くと弾が出る……。トリガーってどこ?」
「だからさっき言ったろ、トリガーは……いや、ちょっと待って」
ほんとに銃の使い方を知らないのか?
この子は川で『ターゲットを
なのに今はあざと可愛いしぐさで僕に武器の使い方を聞こうとしてる。
待てよ、聞いたことがある。
男の前では守ってあげたい女の子を演じて気を引きつつ、女友達には『あんな男落とすのなんて、チョロいわよ』などと言ってる女がいるって。
油断させようとしてる、のか?
でも目的がわからない。そんなことしなくてもさっきの閃光で僕の目がくらんだときに殺せただろうし。
僕はためしに彼女に銃口を向けてみた。
本気で撃とうなんて思ってないよ。
でも彼女が銃を殺しの道具だと思ってれば、反射的に避けようとするはずだよね。
彼女は動かなかった。
もしかしてこの子、ただのアホ?
そう思って改めて見てみると、さっきまで暗殺者のように見えていた彼女の顔がラブコメのポンコツ・ヒロインのように見えてくる。
いやいやいや! やっぱりダメだ。銃を振り回すドジっ子とかイヤすぎる。
とにかく、使い方を教えるのは危険だ。
「その前に、君のターゲットって……」
僕が考えている間に姿勢を変えた地雷女は、ペタンと地面にお尻をつけた女の子座りをしていた。
まるきり緊張感がない。
そんな座り方だといざってときすぐに動けないと思うんだけど。
ほえー、という効果音が似合いそうな姿の彼女。
僕は思わず『かわえー』とつぶやいてしまった。
まず目につくのはシャンプーのコマーシャルみたいなサラサラのロングヘア。鮮やかなサーモンピンクだ。
小さいころ、近所の女の子が持っていた海外メーカーの着せ替え人形に似ている。彼女は人形のピンク色の髪をブラシで何度もとかしてあげていたっけ。
今なら僕も彼女の気持ちがわかる。この髪をブラッシングするためなら、おもちゃ屋で買って買ってと転げまわってもいいと思った。
そして子犬のような表情。
小さな口に、唇の間から舌をちょろっと出している。
なんで今、舌を出す!?
あざといと非難したくても、この可愛さの前には口をつぐむしかない。
この子にミルクを与えたり、お腹がすいた彼女に
「どうか、した?」
「ま、マシュマロなんてあげないから!」
意味不明な言い訳をする僕を、地雷女がキョトンとした顔で見つめる。
生まれて初めて、自分で自分を怖いと思った。
完全に妄想の世界に埋没していた。
「はー、はー、この子の破壊力、怖すぎる」
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