第7話
もちろん僕はそれを本物の地雷だなんて思わなかった。
だってすぐ近くに武装コスプレの女の子がいるんだし、彼女の落とし物に決まってるよ。
「これ地雷、のおもちゃ……? うーわ! これ限定品かな」
星形のパネルがいくつも重なった金属のかたまりだった。
内部では機械式時計みたいに、重なった星がカチカチと回りながら中央の赤ランプを点滅させ警告音まで鳴っている。
星がモチーフになっているところが、武装少女向けっぽいよね。
「これ絶対高いよ。あの子の、だよね? あ、あー、せっかく見ないフリして立ち去ろうと思ったけど。仕方ないなあ、落とし物は届けてあげないとなあ……」
なんて言いながら、ミニスカ武装コスプレ少女に話しかけるいい機会だなんて思ったのが間違いだった。
僕がそれを拾おうと手を伸ばしたとき、異常な振動が起こったんだ。
溶鉱炉が暴走してるみたいな、不気味な振動と熱。
膨張でできた亀裂からは光までもれ始めた。
「あれ……? これってもしかしてヤバい?」
あっという間に熱と光は勢いを増し、周囲の光を奪うように暗闇に染めていく。
「やばい……。ヤバい、ヤバい!」
中学時代、さんざん練習して叩き出した僕の百メートル走のなけなしのタイムを大幅に塗り替える勢いでダッシュした僕は、近くの茂みに飛び込んで太い木の陰に隠れた。
あとコンマ数秒遅れたら巻き込まれていたと思う。
爆風が僕のすぐそばの草をなぎ倒していった。
「お、思い出した……」
あれってあの桃から全裸で出てきた、あの子じゃないか?
あの時は白かった髪がサーモンピンクに変わってたし、Bカップぐらいだった胸もDぐらいに成長して……。いや、カップ数なんてよく分からないけど、大きすぎず小さすぎず、武装少女としての機動性を残しつつ女の子らしい可愛らしさをスポイルしない程よい大きさってことだよ。それに全体的に女の子っぽい体つきに変わってるから普通に考えれば別人なんだけど。でも……。
僕は爆発がおさまると木の陰からそっと女の子を
さすがに考えをあらためたんだ。
あの子は本物の地雷を平気でしかけるような、本物の地雷女だって。
彼女は爆発であいた穴を興味なさそうに眺めてから、何かを探すように周囲を見渡した。
そして僕が隠れている木のほうまでまっすぐ進んで来る。
息をひそめて見つからないようにって祈ったよ。
足音が近づいてきて僕があきらめかけたとき、彼女の話す声が聞こえたんだ。
「ターゲットを吹き飛ばした。機能停止は未確認。再補足の際はこれを、
最後の言葉に凍りついたよ。
抹殺って? 殺すってことだよね?
さっきの爆風からすると冗談だとは思えないんだけど。
彼女が離れていく足音が聞こえたとき、僕は
とにかくこの場から逃げたい一心だったからね。
いつもの通学路に戻った僕は目を疑ったよ。
登校時とは反対の生徒の流れが出来てるじゃないか。
ってことはさ、少なくとも数時間あそこで寝てたってことになるよ。
僕は何食わぬ顔で生徒の波に合流した。あの子が追ってこないか心配だったけど、あまりキョロキョロして知り合いに発見されたりしたら面倒だからね。
何しろ学校を休んだはずの僕が一緒に下校してたらおかしいじゃないか。
僕は目だけで周囲を見回し、カーブミラーで背後を確認する。
でもよく考えたらあの子の格好はとても目立つから、誰かがその姿を目にすれば騒ぎになることは確実。下校中の生徒の一団にまぎれていれば、周囲にレーダーを張り巡らせているようなものだよね。
そのことに気づいて緊張の糸が切れたのか、思わずため息をついたそのとき、視界の端で何かが光ったような気がした。
続いてふくらはぎに衝撃が走り、僕は道路脇の草むらに転げ落ちたんだ。
突然のことでわけがわからない。
まるで氷の上に乗ったか、誰かに足を引っかけられたみたいだった。
クッションになってくれた密集した草の上でなんとか手をついて立ち上がる。その時になってようやく、みんなに注目されていることに気づいた。
「おい、平気か?」
「だ、大丈夫です」
上級生に声をかけられて思わず敬語が出てしまった。
そのやりとりを見て、ドジな男子生徒が転んだだけと思ったんだろう。足を止めて遠巻きに眺めていた生徒たちが通り過ぎていった。
「
さっき衝撃を感じた左足だった。
有刺鉄線に引っかけたときみたいな、ジンジンとした痛みだ。
ズボンが何かに引っかけたみたいに切れていて、肌から出血もしている。
さっき地雷女が持っていた大きなライフルのことを思い出したよ。
「
周囲の視線を気にして貼り付けていたポーカーフェイスも、さすがに崩れはじめた。
いやいや。そんなはずない。
きっと、あの子は通販で買った部品やら化学準備室で手に入れた薬品を使って、地雷っぽい小道具を作ったんだ。ちょっと威力が強かっただけで、子供が爆竹と厚紙でダイナマイトもどきを作るみたいに、ただの遊びに違いない。
だけど……。
僕は痛む足に触れて指についた赤い血を眺めた。
道路下を真横に通った土管を見つけたとき、僕ははじかれたように土管の中をくぐり、道路の反対側へと抜け出して走り出した。
走りながら、僕は叫んでいた。
「くそ、くっそ!」
裏切られた気分、だったんだよね。
アニメやラノベが好きなのは僕だって同じだ。だからあれだけ精巧な衣装や小道具が作れるあの子を尊敬さえしていた。できれば友達になりたかった。なのにあの子は僕を殺したいと思ってたなんて。
でもどうして?
考えても答えは出なかった。
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