第6話
テレビの決定的瞬間特集で、危険をかえりみず被災者を救うレスキュー隊員を見たことがあるよね。彼らの活躍がなければ間違いなく死んでたって人が、そんな彼らに憧れてレスキュー隊を目指したりとかさ。
子供のころ、僕がそんな
ヒーローになりたいなんて、思ったことないから。
「ゴホッ……ここっ、ごほ、どこっ?」
目覚めてみると、僕は河原の上に置いてあったタンカの上で寝ていた。
そのタンカにはさ。災害現場でしかお目にかかれないような赤い十字のマークがあったんだよ。
「なんだこれ!」
登校中に川に来たのは覚えてる。
でもその先は?
なんかネコと天使を見た気がするけど、全然関連性がないし夢だね、これは。
たいそうなタンカがある割にはレスキュー隊もいないし、のどかな川の流れが見えるだけ。雨はすっかり止んでるし、太陽は高いところまで登っていて、今さら登校するなんてやめとこうよって僕に語りかけている。いや、これは僕の願望か。
「ごほっ、ひどい目にあった気がするけど……くそっ頭が……。なにしてたんだっけ?」
近くにあったカバンを持って、僕は立ち上がった。
誰に言うともなく、僕はタンカのお礼を口にしていた。
言う相手のいない『ありがとう』はむなしいって?
なら『いただきます』って君はいつも誰に向かって言ってるの?
「あり、が、とう……?」
振り返った先に少女がいた。
しかも、なんで今まで気付かなかったのか自分の耳のフリーズを疑うレベルで、ガチャガチャっていう金属どうしが当たる音とか、鎖を引きずるような音と一緒に。
腰まで届くほどの、まっすぐに伸びたサーモンピンクの長い髪。
彼女はその髪を繊細な指の動きでまとめると、くわえていた紐で結んだ。
そして化粧でもするように、足元にあったおびただしい量の武装を身に着けようとしていた。
最初、ミニスカートにハイソックスかと思った足元は実はシャッター式の防具で、彼女がかかとでリズムを刻むと太ももまであった防具がパタパタとブーツ内に収納される。ブーツは上に向かって開く近接戦闘用武器の収納にもなっていて、彼女が手を近づけると自動的にナイフや拳銃が飛び出す仕組みだった。かかとには早く走るためのギミックも搭載され、彼女が走ろうとするとチーターみたいに足が長く伸びた。
肩、胸、関節など、体のあちこちを覆う装甲板、空でも飛ぶのかと突っ込みたくなる噴射口のついたバックパック、彼女の体の小ささに対して冗談のような大きさのライフル、そしてバックパックから顔をのぞかせているミサイルランチャーは驚いたことに収納式だった。おいおい、そのバックパックは異次元とつながる無限ポケットか何かか?
赤い十字のタンカを見たときから思っていたけれど、あれって戦地でも見るよね。なら自衛隊もありえるけど、あれって秘密兵器かなんかかな。
まあでもその線はないよね。
だって彼女はミニスカートから白い生足を露出させているんだよ?
きっと彼女はコスプレが趣味で、
運悪くその場に居合わせてしまった僕は、招かねざる客ってわけだ。
よく見れば、彼女のポンコツ具合は相当なものだった。
手元にあるコントローラーのボタンを適当に押しては、びっくり箱のように飛び出す奇妙な仕掛けに戸惑っている。しかもそのリアクションがいちいち可愛い。
一度などはどこから飛んできたのか知らないが虫に囲まれて、怖かったのか頭を抱えてしゃがみこんでしまった。
そして色の濃いサングラスのようなものに目隠しをされ、それが思いのほか透過率が低かったのか、まるで視界のきかない水中を泳ぐような仕草でその場をぐるぐると回りだした。
僕はしばらくそんな彼女を温かい目で見守っていたんだけど、だんだんその姿を盗み見ていることに罪悪感を抱き始めた。だってあんな姿、誰かに見られたらきっと死にたくなるに違いないよ。
あんな美少女が『恥ずかしいとこ見られちゃった。もう死にたい……』なんて落ち込む姿なんて見たくない。いや、ちょっとは見てみたいかも?
なんて言ってる場合じゃない!
彼女が気づく前に、僕は早々に立ち去ることにした。
立ち去ろうと一歩踏み出したら、カチリと音がした。音のした地面に見慣れないものがある。
細かい描写を省略して一言でいうと、それは地雷だった。
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