第40話 昔の話

 事件はすでに収束しているため、ここからは和久の回想と悔恨でしかない、蛇足となる。


 ――冬のもう一つの疑問に対しての答えも、和久はすでに持っていた。


 最後に冬と共に菜月と対峙したあのときに。


 和久は菜月の言霊の力が、いつどのように与えられたのか。


 気づいていたし知っていた。


 かつて、和久が冬の父と二人で話した時のことだ。


 冬の父は、和久にだけ、いくつかの隠された真実を語ってくれた。


 それは、冬以外の〝呪いの力〟の持ち主にまつわる話だった。


 冬の父を含む、この村の創設者達は、冬の蠱毒の力以外にも、複数の古代の呪いを復活させ、それを村の存続のために利用しようと考えたらしい。


 その過程で、何人かの〝呪われた子供達〟が誕生した。

 彼らの受精卵に利用されたのは、冬の父の精子と、いくつかの要因によって選別された卵子であったという。


 村の創設者達は、産まれた子供達の力に関する議論の末に――

 あるいはひょっとして未知の戦いの果てに、蠱毒の力の持ち主である冬に、村の未来を託すことを選択した。


 冬以外の呪われた子供達の力は、そのときに全て眠らせたはずであった。


 冬の父によれば、彼らの呪いの力が目覚めることはまずあり得ないが、万が一ということもある。


 もし、彼らの内の誰かが目覚める時があれば、それを止められるのは冬しかいない。


「そのときは君が冬の手助けをしてやってくれ。毒を畏れない君にしか出来ないことだ」


 冬の父は、そう和久に懇願した。


 すでに冬と共に、村を守っていく覚悟を決めていた和久は、二つ返事で承諾した。


 他の子供達の存在を、冬には決して教えないことを約束した。

 菜月と最後に対峙した時。和久は菜月を説得出来る可能性も考えて、チャンスを窺おうとした。


 だがすでに冬は、菜月を許すつもりが無かった。

 村人が、死んでしまっていた。


 一人でも死者が出れば、冬は絶対に容赦しない。

 菜月もまた、愛すべき人間を自死に追いやった上で、己の罪を自覚する様子が無かった。


 冬の父に言われた通り、和久は冬を守ることは出来た。

 

 しかし――冬が断罪し、呪いの力で殺したのは、自分と同じ運命を背負うかもしれなかった、自分の弟なのだ。


 冬はそれを知らない。

 菜月は冬にとって、同じ血の流れる、同じ父を持つ、実の弟だ。


 目覚めなければ幸福に生きられたのだろうし、目覚めた上で己を律することが出来れば、冬には家族が出来ていたのかもしれなかった。


 菜月の作った歌が懐かしいのも、落ち着くのも当然だ。


 それは――

 弟が姉のために作った歌だったのだから。


 守ること。

 そんな当然のこと以上に、和久は冬に弟を与えたかった。

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