第15話 武器
――やっぱり難しいか。
エディは、村を転々としていた。
計画を遂行するための、相棒を捜すためである。
先日会った隣家の子供は、どうも具合が悪かった。
当然、相手に罪は無い。
普段からよく懐いてくれているので、実験には丁度いいと考えてしまったが、その単純な考えが浅はかだったのだ。
こちらの考えを読んでくれるか、汲んでくれるのか、と期待しすぎてしまった。
計画の一端を説明してみたが、理解を得るのは難しかったようだ。
これも仕方ない。
相手は子供である。
子供には子供に合ったやり方があるし、今の自分の力ではベストな結果を導く自信は無い、とエディは思い至った。
それでも矢張り相棒は欲しい。二人でならば未熟さを補い合える。
目的である相手に知られないように、見つけることが出来るのだろうか。
エディは焦っていた。
それなりに必死だった。
山王Z村は狭くは無いが、広すぎるわけでも無い。
噂が漏れれば、エディが計画を遂行する前に、相手に伝わってしまう。
あの――孤独な少女に。
エディは、早くに父親と母親を亡くしている。
両親は二人揃って病に倒れ、共に手を繋いで永い眠りについた。
他に兄弟はいない。
――置いていかれた。
そうエディは思った。
近所の村人が親切だったから仕事にはありつけたが、長い間一人で過ごしてきた。
振り返ると家族がいないということはなかなかに寂しく、はっきりと孤独だ。
食事も一人で済ますことの方が多いため、エディは団欒というものを知らない。
そんな状況で育ったせいか、他人の前で感情を現すのは、エディにはとても困難だった。
どうすれば自然な笑顔を作れるのか。
どうすれば人に感情が伝わるのか。
家に篭もり、一日中悩むことも、珍しいことでは無かった。
そんなエディを救ってくれたのは、今目指している〝あれ〟を教えてくれた書物だった。
〝あれ〟は、エディの不幸や絶望を吹き飛ばしてくれた。
エディは〝あれ〟だけのことで自分が涙を流せると知った。
たった〝あれ〟だけのことで、大声をあげることが出来た。
あんなものが古代に技術として確立していたとは、今の村の者達は想像も出来ないだろう。
考えただけでも鳥肌が立つ。
いや、この世界でも〝あれ〟の片鱗は残っている。
〝あれ〟は、人にとって原初的な衝動のはずなのだ。
〝あれ〟こそ、この世界に残らなくてはいけない文化だったのだ。
今のエディを動かしているのは、その書物に記された歴史と、〝あれ〟に特有のルールだ。
その歴史とルール――
いわば〝伝説〟をこの村に復活させることが出来るのなら、エディはその露払いとして歴史の闇に消えても良い、という程の覚悟がある。
そのためにこそ相棒も必要と考えたのだが、それも困難な道であると思い知った。
最悪の場合、計画は一人で遂行せねばならなくなるかもしれない。
ならば準備も必要だ。
〝武器〟が――
道具が、必要となるしれない。
自分に扱えるだろうかと不安も感じたが、エディは自分のその弱さを恥じ、呪う。
やってみなくては分からない。
それに、アイデアは用意しておくに限る。
残念ながら、それらの道具を自分で作る技術まではエディには無い。
エディは、村人の中から相棒となる人物を探しながら、この山王Z村で唯一、その道具を扱う店――
『よろず屋せんじー』に向かうことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます