第13話 霧雪を叩く

 ――右手を振る。


 力が足りないのだろうか、振りが甘いのか。


 しっくりこない。


 タンクトップにハーフパンツ。

 動きやすい服装が重要だ。


 栗色の短い髪に、引き締まった筋肉と伸びやかな痩躯のその少年――


 エディ・小寺・ラヴァゲインは、何度も手を強く振り抜いた。


 彼の腕は、研磨されたナイフではない。

 当てる場所を正確にしなければ、最良の成果は得られない。


 ――間合いも重要だ。


 距離が近すぎてもいけないだろう。


 何らかの道具もあった方が計画は遂行しやすくなるが、今回の練習では使用しない。


 一度失敗すれば、その計画は終わりである。

 計画を問題無く遂行するには、矢張り練習相手が必要だ。


 エディは、部屋の奥で暖を取っていた友人を呼んだ。


 彼は何歳か年下のまだ若い少年で、それほど親交は無いのだが、濃いエスプレッソをご馳走すると快く頼みを引き受けてくれた。


 男であるというのも都合がいい。

 別に女性でもいいのだが、女性はエディの趣味では無い。


 男性以上に、やり方が分かりづらい。

 彼には本当の目的は伝えていないが、何とかなるだろう。


 エディの目的が、この『山王(さんのう)Z村』で広まりすぎるのも良くない。


 ――突然が、いい。


 突然すぎる程、きっといいのだ。


 知られすぎてしまっては、恐らくエディは身動きが取れないだろう。


 エディは深く息を吸い込み、彼を自分の近くに立たせた。


 彼も混乱しているのか、緊張しているのか、呼吸が乱れているようだ。


 さて、今回はどうなるだろう?


 エディが想定して、彼に覚えさせた言葉を言わせる。


 スイッチは、言葉だ。


 多少違いがあっても良い。


 人が〝あれ〟を感じるのは、違和感のあるコミュニケーションや会話の中である、とエディは考えている。


 齟齬が〝あれ〟を生じさせ、的確な一手がそれを成功させる。


 そして、彼が言い終わらない内に――。


 その後頭部に、エディの渾身の打撃が叩き込まれた。

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