第70話 滅びゆく聖国

 すると、教会に設置された鏡から、体に神々しい光をまとった女性が現れた。

 そう。みちよである。


 その女性が、口を開く。

「あなたたちが、平和を望むのなら、希望の地へといざないましょう。争いを望むのなら、死に絶えなさい」

 と告げる。


 その問いに対し、一人が声を上げる。

「俺たちは。農民や商人で、強制的に連れてこられた人間だ。争いなんぞ望んじゃいませんです。お願いいたします。助けてください。このまま、ただ死んでいくのは嫌なんです」

 ほかの者たちも、うなずきながら、涙を流して訴える。


「わかりました。ではこちらへ。道を開きましょう」

 と、いうと。鏡がわずかに光始めた。

「どうぞ、中へ」

 農民たちは、ぞろぞろと、鏡に吸い込まれていく。


 つながっているのは、当然拠点の宿舎前広場。


 みちよも、こっち側へ来ると、接続を切る。


 そして、あっけにとられている兵たちに対して、魔法で治療を施す。


 それが終わると、控えていたお手伝いさんが、みんなを風呂に案内する。

 例により3回洗わせる。

 浄化魔法を使い初めて、前ほどは、ひどくなくなったが、念のためだ。


 そして、風呂から上がれば、鍋を食べさせ。

 一晩休んでもらう。


 翌朝には、ソレムニティー側に移動して、台帳で出身の村を確認。

 家族が分かれば、そこに送る。

 当然。家族が帰ってきて、条件が変われば、土地の選択も変更できる。


 そんな、兵士回収作戦も繰り返し。

 教会の者でも、心根の良いものは、兵たちに意見を聞いて救済。

 ダメな奴らは、完全無視とした。


 そんなことをしていると、聖国の残兵は、さっさとクオーレルから撤退をしていった。



 ミスルール側のダンジョン入り口から、伝令の早馬が飛び出していく。


 クオーレルから兵が撤退してきたことを、聖都に連絡を入れるものだが、伝令はたどり着けることなく殺され。

 馬は、食料として食われた。


 やったのは、盗賊と化した兵たちであった。


 その頃になり。

 ようやく教会上部で、食料がない状況に気が付く。


 商人に寄付しろと言って、兵を向かわせたが、人も倉庫も空っぽであった。


 当然それは、穀物だけではなく。

 人という人が消えていた。


 むろん、下級の教会関係者も、心根の良いものは、行方知れずとなっていた。


 貨幣は、神からの下賜なので、腐るほどある。

 しかし、何も買えない物となった。

 よく言う。

 ハイパーインフレーション状態だ。


 兵に命令しても、出て行ってしまえば、帰ってこない。

 気が付けば、教会からも、どんどん人は、いなくなっていた。



 畑に植えられていた野菜も。

 当然、育つ前に抜かれ。

 畑は打ち捨てられ、今では、雑草地が広がっている。

 道も、人の往来が無くなり、草に覆われてきていた。



 聖国がそんな状態の頃。

 ソレムニティー王国。

「あの方たちが現れてから、あっという間に変わってしまったな」

「そうでございますね」


 窓から、外を眺める王と宰相。

 かつてそこには、延々と続く、樹海が広がっていた。


 それが、あっという間に開墾され。

 畑となり、いろんな種類の物が植えられ。

 緑の絨毯のように、広がっている。


「宰相、同じような緑だが、何とも言えんな」

「そうでございますな。まさか土地だけではなく、働き手まで確保していただけるとは、思ってもいない事でございました」


「この所。城下の活気は、ものすごい熱気です」


「あの方々は? どうされておる」

「いまだ。聖国からの脱出者を、救済しておられるようです」

「そうか。それで、あの方たちの正体は分かったのか?」

「いえ不明です。ただ物腰。知識。力。どれをとっても、普通じゃございません」


 王が考え込み、宰相に告げる。

「落ち着いてからで構わんから、王城にご一同を招待してくれ。丁重にな」

「はい。承知しました」


 その頃。あつしは大体の救済を、終わらしていた。


 ふと思い出して、聖都の教会へやって来た。


 以前とは違い、閑散としている教会内部。


 召喚の儀が行われた部屋を見つけて入ってみるが、部屋は単なる部屋であり、あの日浮かんだ魔方陣も、部屋に施された物ではないことを確認する。


「うーん。何か見つかると思ったが、あのくそ女神の力だったか。地球に帰る手がかりでもあればと思ったんだがな」


 スキャンをすると、女神の像がある部屋に、いまだ貨幣が降り積もっているのを発見した。

「大体貨幣が、空間から降ってくるというのも、おかしな話だよな。そんなことをすれば管理する奴らは、働かなる事が分かっているじゃないか。それとも、性善説をどっぷり信じているのか?」


 ぶつぶつ言いながら、積もっている貨幣を、亜空間にごっそりしまい込む。

 ほかにも、お宝や、使えそうなものをどんどんかっぱらっていく。

 途中で思い出して、勇者たちの荷物も見つけ出して、しまい込む。


 途中で宝物殿を見つけたが、ガラクタのような魔道具が、大事そうにしまわれていた。

「これは。獣人の方がずいぶん進んでいるな。まあ材料には使えるだろう。貰っておくか」


 最上階に、数人の気配があるから近づかず、教会を後にする。


 たまに、積もった貨幣を盗みに来ようと考えながら、あつしはミスルールの拠点に転移した。

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