第67話 ソレムニティー王国入国

 転移で、関所の手前へ移動する。

 

 関所では、当然だが、突然現れた100人ほどの人間に、大騒ぎになる。


 普通ここへ来る人間は、疲れ果て。死にかかったような者たちが、這う這うの体で現れるのが普通だ。

 ここ最近。増えてはいたが、それでも。

 それなりの服を着た、元気そうな者達は、王国が警戒するには充分であった。


「たっ。たいへんです。突然。関の前に100人位が現れました」

「あん? 報告はちゃんとしろ。突然現れただと?」

「ええ。突然です」



「チッ。何だって言うんだ。行くぞ」


「初めまして。ここの代表の方でしょうか? 私は神代篤司と申します」

 と言った瞬間。心の中で舌を出しながら、神威を出す。



 兵に言われ、突然現れたと言う者たちを見に来たら。

 確かに、100人程度いる。


 それも、普段の薄汚れた奴らじゃない。


 これは面倒なことになる予感と、警告が、俺の中で発せられる。


 俺を見つけたのか。ひょろそうな男が、一人近寄って来る。


「初めまして。ここの代表の方でしょうか? 私は神代篤司と申します」

 男がそう言った瞬間。

 俺は、意識の中で、地面に手をつき彼に土下座する。


 足ががくがく震える。

 きっと、神や悪魔を目の前にすると、こうなるんだろうと考える。


 頭の中で、逆らっちゃだめだの言葉が、繰り返される。


「こここ……」

 声が出ない。

「ここの隊長のカピタオだ」

 それだけ。

 本当にそれだけ言うのが、精一杯だった。


 すると男は、

「後ろに居るのは、聖国から逃げ出してきた農民。私が見つけて、保護をした者たちだ。療養させて、普通の生活をするのには、問題がないくらいには回復させてある」


「さようで、ございますか」

 思わず敬語が出る。


「そこで。今聖国側で起こっている状況説明と、これからも農民たちを逃がしてこようと思う。その相談をしたいので、話と判断ができる方に、取次ぎをお願いしたい」


「はっ。はい」

 敬礼をして、逃げ出した。


 関所に戻り、本部へ緊急通信装置を使い。状況を連絡する。


 この装置は、途中に中継が必要だが。非常に便利な機械。

 声を出すと、それによっておこる振動。

 円錐型の紙で、その振動を受けると、紙の先にくっつけた磁石が、線をぐるぐる巻いた中で、動き、その動きが、電気信号に変換される。


 その信号は、相手先で逆に働く。

 同じようにぐるぐる巻いた線の中心に、紙をくっつけた磁石を置くと、紙が振動して声が聞こえると言う画期的装置だ。

 最近になって、チャイームと言う発明家が、発明した。


 遠くまで、瞬時に声が届く。


 本部の返事は、関所を通して、送ってこいとの事だった。

 直接、話をしたいらしい。


 そのことを伝えに行く。

「と、言うことで、会って話がしたいとの事です。私もついて行きます」

「そうですか。お手数ををおかけします」


「その本部の場所は、どの辺りでしょうか? 詳しく説明を聞いても良いでしょうか?」

「ちゃんと、ご案内いたしますので」

 と言ったが、睨まれた。


「ああ、いや。場所はここから ……で、目立つように屋根が赤くなっています」

「ああ。ありがとう。みちよ頼む」


 言いたいことが分かったようで、俺が座り込むと。後ろから支えてくれる。

 場所を確認するために一度飛び、目的の場所を見つける。


 戻ってきて、

「行こうか」

 と伝え、転移する。


 隊長のカピタオが、あたふたしているが、

「案内してくれ」

 と言うと歩き出す。


 ぞろぞろと、100人ほどが近づくと、前の本部があわただしくなる。

「ちょっと説明してきます」

 と言って、隊長のカピタオが走って行く。


 制服で判断をしたのか、向こうからも幾人かが出てきて、共に中へ入って行く。

 しばらく待つと、立派な制服を着た男を、連れて出て来た。


 隊長のカピタオが、

「この方です」

 とその男に伝える。



 神威を出しながら、にこやかに片手を出し、

「私は神代篤司と申します。ぶしつけで申し訳ありませんが、今聖国側で起こっている状況説明と、これからも農民たちを逃がしてこようと思う。その相談をしたいのでおねがいします」

 と、伝える。


 偉そうな人は、

「私は警備隊隊の本部長をしています。デレクタゼラルと申します。皆さん。中へどうぞ」

 と言って案内してくれた。


「一般の農民たちの方々は、入国の手続きがありますので、大会議室の方へお願します。代表者の方々は、こちらへどうぞ」

 二手に分かれて、俺たちは会議室に通された。


 会議室のソファーに座ると、皆の許にお茶が配られた。

「さて聖国側で何かが起こっているのは、私たちも大体把握をしています。年に数人だった難民がこの所増えています。それもかなりひどい状況で。到着しても、そこで力尽き亡くなる方も多い」

 とデレクタゼラルが話を始める。


「難民の受け入れについては、大丈夫でしょうか?」

 と聞くと、

「仕事にこだわらなけば、生活できるレベルで、受け入れは出来ています。しかし。ここで急に、大量にと言われると。少し困ったことに、なるかもしれません」

 それは、そうだろう。


「多くは農民で、困窮をしています。失礼ですが、農地の拡大をしなくても、この国は豊かなのでしょうか?」


「拡大はしたいのですが。樹海には、強力なモンスターが居て、なかなか拡大ができない状況なんです」

「それなら。何とかしましょう。お手伝いができます」


「本当ですか? それならば。少々人数が増えても、開拓村を造れば、大丈夫だと思います」

 よし言質はとった。


「それでは、次に……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る