第66話 夢の場所?と旅立ち
竈にかけた鍋が、沸き始めると、大きいスプーンを男が持ってきて、鍋に浮く泡を掬って取る。
「これは灰汁と言ってうまくないから、すくって捨てるように」
と言って、壺を置いて行った。
皆はもったいないと思ったが、従う。
「それと、透明な水の鍋。中身を食べるときには、好みでこれを使ってくれ。これは果物の汁と、醤油と言う調味料を混ぜたもの。呼び名はポン酢と言う」
そう言って、水を置いてあるテーブルに、いくつか置いて行った。
くるくると、周辺の鍋を回り。様子を見ていたが、
「良しいだろう。もう食べられるから、あわてずに食べてくれ」
言われて、さっきの大きなスプーンで、すくって器に取る。
最初に取るのは、やはり水で煮られた鍋の方だ。
もう一つは、泥水のような色をしていて気持ちが悪い。
味噌というものだから、うまいと言われたが、やはり気持ちが悪い。
大人が皆、透明な鍋の順番待ちをしているので、子供が耐え切れなかったのか、茶色い鍋の中身をすくった。
色々な野菜や肉が入っている。
だが、それから今。
まだ嗅いだことがないが、うまそうな匂いが立ちのぼる。
子供には悪いが、見ていると熱かったのか、息を吹きかけて。口に運ぶ。
その瞬間。子供は目を丸くし、一気に食べ始めた。
それを見て、大人たちも手を出し始める。
食べたことはない味。だが、今まで食べたことのないほどの、複雑なうまみと塩味。野菜も入っているが、独特のえぐみや、しぶみが無い?
みんな。無言で2~3杯食べ。
そこからやっと、口を開き始めた。
「この野菜もすごいが、この汁が凄い。透明な方も何かで味が付いている。絶対塩だけじゃない」
「それと、この濁った方。これ最初は泥かと思ったが、すごく複雑なうまさがある。いったい、なんだろうな?」
ワイワイと、どんどんみんなが、元気にしゃべり始めた。
その様子を見て、俺たちはほっとした。
「初めて見ると、味噌汁は泥水にしか見えんか」
それを聞いて、みちよも、
「言われてみればそうね。私たちは、小さいころから食べなれているから、大丈夫だけど」
と納得していた。
「そういや。ゴボウを見て、日本人は木の根を食っていると、外国人が思うらしいからな」
「あの、豚汁の中に入っているのを、じっと見ている人が、幾人もいたわよ」
「そういえば、入れていたな」
「俺たちに木の根を食わしているって、思っているかもね。ふふっ」
「いや意外と、飢えていたようだから、すでに食っているかもな。風呂場で見たが、ガリガリだったぞ」
「女の人も同じね。下手すると、生理なんかも止まっていたかもしれないわね。ちょっとケアしておくわ」
「その辺は、任せた」
それを聞いてみちよは、
「あなたに任せると、また女の子が増えそうだから、任せて」
と笑う。
「別に積極的に、増やしてはいないぞ」
と俺が言うと。
「そうね」
とだけ言って。
遅れて来た人たちに、説明をしに行った。
俺はその間。
宿舎の構築を、することにした。
見ると、貧乏そうだが、ひと家族に対して、子供が多い。
きっと、バースコントロールなんて、していないのだろう。
医療のレベルが低いとか、食糧難から子供がすぐに死ぬ。
手伝い手が必要だから、できれば子供は、多い方がいいと言う事か。
栄養状態が悪くて、子供を産み続けると奥さんの体もやばそうだな。
みちよに、見てくれるように言っておこう。
ワンルーム6畳に。2段ベッドを押し込む。
一部屋1帖に、一つのベッドを2段で片側4人。
真ん中2帖は、共用と言うか通路として、反対側にもベッドを設置。
これで一部屋8人。
手前に玄関とトイレを作り、風呂は別棟にしよう。
余裕を見て、10部屋を2棟建てる。
その中間を、渡り廊下でつなぎ。
真ん中に、廊下を挟んで男湯と女湯を設置。
さっきの竈の建物は、そのまま食堂としよう。
渡り廊下でつなごう。
あっという間に、一大宿泊施設ができた。
保養所かな? いや温泉だから、湯治場か。しばらくは、体を癒してもらおう。
その後は、ソレムニティーに行くときに送って行き。
名君と呼ばれる王様。
トゥラン・ク・イリティー・ソレムニティーにも、会ってみたいしな。
いい人なら、こちらの事を伝えて、力になってもらうことも考えよう。
ここに来れた、農民たちは、多分ほんの一部だしな。
ここを中継点として、ソレムニティーと共闘も、良いのかもしれない。
みんなと、相談をしよう。
それから、農民たちは2週間ほど療養した。
思ったより奥さんたちの体はボロボロで、それの療養に時間を要した。
主に、骨粗鬆症リスクが多く。それに出産直後からの労働や育児により体調のいい人の方がすくなかった。
それを説明すると、
「私たちが若いころは」
と言い出したので、
「そのせいで辛かったでしょう。それを次の世代に、同じように押し付けてどうする。辛かった記憶があるなら、なおさらあなたたちが、率先して改善するべきでしょう」
と言う雷が、みちよから神威と共に発せられ、誰も何も言えなくなった。
そんなこんなで、出発の日。
農民たちの、代表者であるノオドさんから、周りの農民に顔が知れている男女合わせて5人ほどを選んでもらい、これからの手伝いをお願いした。
その5人には、適当にくつろいでと言い残し、残りの皆を連れてソレムニティーの境まで転移した。
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