第59話 賢者 妙子 その3

「それで、どうする? ここに居て、ただ腐るのか? ああそうだな。そういえば、まだ言っていない情報がある。俺たちは。いや俺は、この世界を救いに来た」


「同じ時に教会の奴らに召喚されたのは、君たち3人だけだ。俺は別の神の意志によって、この世界に派遣された。女神の力は関係ない」

 そう言うと、妙子は目を丸くする。


「えっ、召喚の巻き添えではなくて?」

「そうだ。君たちの召喚と、俺のは違う。俺のは単に違和感をなくす目的により、仕組まれた茶番のようなもんだ。それで、今ここに。……いや、しゃべりすぎたな」


「それで、坂下さんはどうしたい? さすがに、ヒューマンの教会へ帰るのは、嫌だろう?」

「それは。絶対いや。あんな、毎日毎日……」


「後の選択は2つだ。ただ。君はヒューマンだ、獣人族の王都では、多少嫌な目にあうかもしれない」

「私は? あなた達は、受け入れられているのですよね」

「そうだな。他人種を嫌っているのは、ヒューマンだけかもしれんな。それに、俺たちは仕事を通して、実力を示したからかな?」


「主。こんな、役に立ちそうもない小娘など、放っておけば良い」

「役に立たない? 彼女は賢者だ。魔法に関しては、優れているはずだが?」

「器はありそうだが、それに胡坐をかいて、基本の魔力操作がダメじゃな。今も自身の体の中でさえ、うまく循環ができていない。赤子レベルじゃ。放っておけば自身の魔力で、自身の体が壊れ始める。見るに、それも遠くなさそうじゃ」


 サラスが何かを思い出す。

「フェン様。それは、魔力症の事でしょうか?」

「そんな名前は知らん。ただ、力のある子は、すぐに扱いを教えないと死んでしまう。わしらは、身体強化とともに魔力循環と操作を教える」


「魔人族には、力のある子ができても、病気になり。長生きできずに、亡くなってしまう病気があります」


「それは、自身の魔力に体が壊されているだけの事。力あるものは、死にたくなければ、魔力を御する事じゃな」


「そうですか。それならお父様に伝えなくてはいけませんね。せっかくの力のある子どもを、無為に失っていたとは、残念です」



 それを黙って聞いていた妙子だが、

「えっ。私死んじゃうの?」

 とつぶやいた。


「話を聞いていたら、分かるじゃろう。頭痛や体のあちこちに、奇妙な痛みが出始めたら腐り始めた証拠じゃ」

「いまは、ないけれど。逃げる前には出ていた……」

「今症状が無いのは。みちよが、ケガと一緒に治療したからだろう」


「でも魔力制御は、うまくいかなくて」

「当たり前じゃ。他の人間より、膨大な魔力を持っているからの。それを御せなければ腐って死ね」


「まあ。原因も結果も、治療方法も分かっているなら、魔力の流れを直せばいいだけだろう」

「主の言う通りじゃ。自身が甘えて腐るなら、文字通り腐るだけ。分かりやすいじゃろ」


「サラス。魔人族に伝わる、魔力制御の方法はあるのか?」

「体の中で意識的に魔素を動かし、それができれば、体の内から外へ。外から内へと魔素の放出と吸収を練習します」

「フェンはどうだ?」

「サラスの言う通りじゃ。それができればいいじゃろ」


「だそうだ。坂下さん。やらなきゃ、自身の力により自分を壊すようだよ」


「でも。うまくできなくて」

「いま、目の前に。魔力操作に優れた、魔人族とフェンリルがいるんだ。習えばいい」

「魔人族。フェンリル?」


「ああ。サラスは魔人族で、フェンは、フェンリルの人化した姿だ」

「でも、魔人族は」


「サラスが、教会で教えられたような、狂暴な人種に見えるのか? 奴らの言っていたのは、自己都合の嘘だよ。今も実際、勝手に獣人族の土地に侵入して、好き勝手している」


「まあ。だめだと言えば、それまでだが。練習しないと、さっき言ったように死ぬらしい。どちらを選ぶのも、君自身だ」


「小娘。とりあえず、体内で魔素の循環をしてみろ。見てやる」


 そう言うとフェンは、坂下さんに手をかざす。するとガクッと糸が切れたように坂下さんが崩れ落ちる。

「おい。フェン」

「主。大丈夫です。こやつの体内に満ちていた、魔素を抜いただけ。満ちた水の中でその流れは掴みづらいが、減らせば、流れは目に見える。小娘。今の状態で、魔力の流れを覚えろ」


「なるほど。そうですね。良い方法です」

 サラスが関心をしている。


「すごく。体がつらいんですが」

「魔素を抜いたからの。だが、それでも常人よりは多いはずじゃ。つべこべ言わずにやれ」

「はい。こうですね。あっ、流れが分かる。なんだこんな……」


「調子に乗らず、その感覚を覚えろ。末端から中心へ。中心から末端へ。その後は、全身にくまなく循環させろ。それができれば、身体強化が使える。そして体の内から外へ魔素を放出。それが魔法の基本。そして意識をして、外から体内へ魔素を取り込めれば、必然的に体内魔素量の調整もできるようになる。今のお前は、馬鹿みたいに、取り込んでばかりじゃからな」


「フェン様。素晴らしいですわ」

 またサラスが、関心をしている。


「すごいな。さすがフェンだ。だてに長生きをしていないな」

 そう言った瞬間、周りの温度が下がった。


「主と言えど。今の言葉は、あまりうれしくありません」

「ああ。すまない……」

 当然、みちよとサラスもジト目をして、やれやれと言う顔をしている。


 仕方がないので、フェンの頭をなでる。

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