第58話 賢者 妙子 その2

「ほら。なかなか立派だろう。もったいなくて、つい追いかけてしまった。まだ葉も青く。むかごができていたから、少し早いんだけどな。むかごも採ってきたから、炒めて塩で食べるとうまいぞ」


「それって、食べられるの?」

 むかごをのぞき込むみちよ。

 むかごとは、山芋の葉の付け根にできる球状の芽(球芽)で、茶色い1cm位のもの。

「小さな山芋といった感じだな。子供の時に爺さんの家で食わせてもらった。炊き込みご飯とかね。自分で言って懐かしいな」


「おう。起きたのか」

 目を丸くしている妙子。

「坂下さんだったかな。久しぶり」

「あなたは。神代さん?」

「よく覚えていたな。おれの名前なんか」


「あの、みちよちゃんが教会からいなくなった時に、神代さんも居ないって。教会のの人たちが探していたので」

「なんだ。その時まで探されていなかったのか。まあ教会では、俺はとっくに死んでいたはずなんだろうなあ」


「死んで?」

「ああ、まあちょっと話は。うどんを作りながらしよう。腹が減っただろう」


「みちよ。これを洗って、すりおろしてくれ」

「だしと醤油は?」

「とろろご飯で食うなら、取り分けて作ってくれ。うどんの分はそのままでいいだろう」

「わかったわ」


「よし、良い硬さだ」

 のし棒で伸ばして、3mmくらいまで伸ばす。

 最初だから3mmでいいか。

 全部同じ幅で切っていく。


 大鍋で湯を沸かして、手のひら幅で麺を取り。5回分くらいを静かに入れていく。浮いてきたら、かき混ぜながら10分前後で、麺の茹で加減を確認する。


 よし。すぐに冷水にぶち込み、粗熱とぬめりを取っていく。

 椀で一玉ずつわけて水を切る。


 どんぶりを用意して、麺を沸かした湯をくぐらせ湯切り後。どんぶりに入れていく。

 そこに出汁を張り、山芋と卵を落とす。

 この前蒸した、かまぼこの薄切りを乗せて、戻したわかめを添える。

 最後に、小口切りのネギをのせて完成だ。


「よし食え」

 日本人側からは、久しぶりの声が上がり、異世界側は、ほうというため息が聞こえる。

 だしは、カツオと昆布ベースの関西風だ。

 讃岐伊吹島のいりこはさすがに入れていない。

 確かカタクチイワシを蒸して、干せば良いだけだったと思うから、今度作ろう。


 日本人側はずるずるとすすっているが、異世界側は、熱くて食えないようで、フォークでちまちま食べている。

 まあとろろが乗っているし、食いにくいか。坂下さんは泣いてるな。

 まあ懐かしいか。

 

 自分でも食べ始めるが、やっぱり自分で作ったものは味気ない。

 これは生来の性分で、自分で作ったものは、自分で評価がよくわからないという気持ちがずっとある。

 おいしいよと言われて、そうなのかと納得をする俺は、どこか壊れているのかもしれないと思ったこともある。


 ついでに茶碗に半分ずつ、とろろご飯を出したら好評だった。


 はっと思いたち、畑からキャベツを少し取って来て、粗めに切ってだしを入れ。山芋と小麦粉を少量。卵を入れて、少しかき混ぜ寝かす。

 キャベツがシナっとなったら、かき混ぜてフライパンへ乗せる。

 片面が焼けれは、ひっくり返して弱火でもう片面を焼く。


 焼きあがったものを、ヘラで縦横に切ってソースとマヨネーズをかける。

 隠れて、出来上がったお好み焼きを食っていたら、当然ばれ周りを囲まれていて、人数分を作る羽目になった。

 匂いがな。隠れては食えないか。


 みんな。さっきうどんを食べたよね?


 面白いから、プリンを出してみた。


 さすがに食えないだろうと思ったら、ペロっと食べていた。

 別腹って言い張っているけれど、おなかがやばそうだよ。みんな。



「さてと。坂下さん。少しは落ち着いたかな?」

「はい、ありがとうございました。ごちそうさまです」


「さて、今の現状を話をしないといけない。今俺たちは、獣人族の王都で手伝いをしてヒューマンの攻撃を防いでいる。君も知っていると思うが、ヒューマン側の教会の言っていた、獣人族や魔人族が攻めてきている。これは嘘だ。すべて、ヒューマン側がちょっかいを出して反撃をされた結果だ」


「そして、今ヒューマン側は、ダンジョン入り口から、ほとんど内陸に来られていない。君には選択肢がある」


 そういった瞬間、妙子はびくっとなる。

「一つは、ヒューマンの隊に帰る。まあ送り届けるくらいはできるから、道中は大丈夫」

「あなたも、神代さんも。私が置かれていた状態は、知っているんでしょう?」

「ああ知っている。だが、昔の君が行ったことを考えれば、助ける気もなく、自業自得だと判断した」

「なぁっ。……そうですよね。大量殺人者ですものね」


「それをして、なおかつ、反省をしていなかったように見えた。だから見捨てた。だがまあ。懲りて反省したなら、2つ目。ここで隠れ住んでも構わない。ただ俺たちも忙しいから、しょっちゅうは来られない。畑も見てのとおり、荒れたままになっている。だが、見知った野菜もあるし、周りの小動物を捕り暮らすことはできる。この家の周りには、虫や魔物が入れないように障壁が張ってある。君の努力次第だ」


 坂下さんは、うつむいて。ただ聞いていた。

「そして、3つ目。俺たちと一緒に、獣人族の王都で手伝いをして、ヒューマンの攻撃を防ぐ事だな」


「さっき話しかけてやめたが、俺はここへ来て。いや。この世界に来て、君たちとざっとこの世界について説明を受け。すぐに地下牢へ押し込まれ、飯も水も与えられず放置された」


「えっ。でも、勉強と技術を付けるため、別棟にって」


「そうだ、別棟の地下牢に幽閉された。それでまあ。次の日。夜には教会を抜け出した。当然教会の奴らは、信用をしていない」


「それで……」

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