第60話 賢者 妙子の覚醒

 それから、3日ほど修行をすると、賢者であるせいか。

 坂下さんは、自由自在に魔素のコントロールができるようになり、それと共に細かな魔法制御もできるようになった。


 身体強化もできるようになり、その動きは目で追うのがやっとだ。

 まあフェンと模擬戦をして、ころころと転がされてはいたが……。


 すっかり、フェンに懐いてしまった。


 その間に俺は、サラスを連れて転移する。

 魔人族の王都へ行き、魔王に魔力症の事やゲートの設置。

 獣人族領の状態を伝えた。


 転移は、遊んでいたらできた。

 俺は思ったより、チートだったらしい。


 結局一泊して、魔王に別れを告げ、転移をして獣人族領の拠点へ帰る。

「お帰り。久々の魔人族領はどうだった?」

「ああ。魔王も元気そうだったよ」


 ふと見ると、フェンの監視のもと、魔力訓練を坂下さんはまじめにやっていた。

 みちよが言うには、

「彼女。完全に、フェンの弟子になっちゃったわね」

 と、なっているらしい。フェンは子育て経験者だしな。


「まじめに努力すれば、それに越したことは無い。前は努力をせず、周りを巻き込んで、制御されない魔法を、力任せに撃っていただけだからな」


「きちっと努力すれば、人に敬われる賢者になれるさ」


 賢者として、坂下さんが仕上がっていたころ。

 獣人族領に侵攻をしてきたヒューマン軍は沼にはまっていた。


 当然、自然ではなく人工物。

 いろんな所に、針で大量に水を注入して、土魔法で振動させ液状化させてある。

 1週間もすれば、元に戻るだろうが、そこへ突っ込んだ。


 突っ込む1時間前。

 森から突然。蜂が襲ってきて対応をしていた。だが、いかんせん数が多く。つい進行方向に逃げた者たちが居た。

 底なしの沼に、はまった兵を、助けようと。

 さらに救助に行った者たちが、はまっていく。


 まあ、1m50cmも沈めば、それ以上は沈まないが、その情報は持っていないので、大騒ぎになる。


「勇者様。いかがいたしましょう?」

 指揮を執っていた、教会の上位役職は、馬車が使えなくなったことで、すでに逃げ帰ってしまった。


「もう。撤退でいいんじゃないか?」

「そっそれは。本国から結果を出さず撤退は不可。と命令が来ています」


 それを聞いて、本人たちが来て状態を確認しろよ。

 逃げ帰った教会の連中から、報告は受けていないのか? と思ったが。

 逃げ帰ったと思っていた、教会の連中は、ミスルールまで帰らず。

 ダンジョン出口に、とどまっていた。


「ちっ。1月以上もここにいて、村はすべてもぬけの殻。大陸の奥まで引っ張り込まれて分断されるなんて、俺はフォー〇准将じゃないんだぜ。どこかにミラクル起こせる奴はいないのか……」

 頭を抱える勇者。


 ふと思いつく。

 これで、そのまま住み着けば、困るのは敵じゃないか? 土地の実効支配だ。

 土地を切り取られると、困るのは向こうじゃないか?


「おい。この先に村があったら、そこで進行をやめて、しばらく暮らそう」

「は? 暮らすですか?」

「ああ。たぶんそれで。相手は、こちらへ攻めてこないと、いけなくなる」

「そうですか? じゃあ、そう命令をしておきます」

「ああ、頼む」


 ふっふっふ。

 将棋だよな。獣人族の諸君。……慌てたまえ。

 私は、色々なゲームが、そこそこ得意だったんだよ。

「ふっふっふ」

 悪い顔をして、勇者は笑う。



 獣人国王都。王城。

「あーと。一応、王様に報告します」

「宰相。私の扱いが、ぞんざいになってきてはいないか?」


「そうですか? 気のせいでは?」

「ほら。そういう所だよ」

「時間がないので、言っていいですか?」

 釈然としない、王様。


「敵の動きが、止まりました」

「止まった? なんでだ」

「さあ? とりあえず。そう言うことです。それでは、私はこれで。失礼いたします」

 すぐに、出て行こうとする宰相。


「そんなに急いで? 対処はどうするんだ?」

「それをこれから、神代様に報告をして、指示を仰ぐんです。邪魔しないでください」

「わしは、王だぞ」

「だから、何です?」

「いや。すまない」

 宰相が去った後、ひじ掛けに身を預け。涙で濡らす王だった。


 通信用魔道具を起動し、神代に連絡を急ぐ宰相。

「神代様。敵の動きについて、報告をしたいことがあります」


 ちょうど、料理をしていたが、魔道具を取るあつし。

「ああ。宰相かどうしたんだ?」

「敵が進軍をやめ、村を整備し始めました」

「やっとか?」

「やっと? ですか」

 

 イチゴを盗みに来た、みちよの口に、プチトマトを突っ込みながら答える。

「ああ。占領をして、国の分割や領有権を主張する気だろう。それなら、当初の予定通り。ダンジョン側から攻撃を開始。敵の分断が目的だから、けが人の出ないように遠距離からでいい」

「はっ。承知しました。すぐに実行をします」

 宰相は、状態がすでに予測され、すぐに命令が来るとは思っていなかった。

「素晴らしい」


 その時、おれは、プチトマトを突っ込まれて、反撃に出たみちよと、くすぐりあいの攻防をしていた。

「こら。飯が作れない」

「イチゴ」

「あれは。おやつ。先にご飯」

「ちぇー」



 そんなことは知らない王城では、宰相がてきぱきと指示を出す。

 ただ。計画書は、あらかじめにできているため、手順に従うのみである。


 その時王は、報告さえ忘れられていた。

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