第56話 工事用魔道具の有効利用

 勇者たちが、クオーレルに来る、少し前の話。


 外壁の工事や色々改革しているときに、意外と時間がかかるため、パワーショベルなどを、作ろうとしたんだが、油圧制御の原理を理解していても素材がない。


 可動部分の経路は、耐圧のチューブが必要。

 金属で可とう管を作ろうとしたが、まあ圧を掛けると漏れるし、すぐにあきらめた。

 代わりにゲートを使い、指定した範囲の土を指定場所に移動させる魔道具『穴掘り君。角型機』と『穴掘り君。丸型機』を造った。

 これは、造った俺が言うのもなんだが、画期的だった。


 魔道具の突き出たアームを、掘る方向へ向けて地面に置く。

 ダイヤルで深さと長さ。そして、幅を設定する。


 実行を押すと、アームの前方。下部の地面が無くなる。

 それだけの道具だが、それは、今回の罠作成にも非常に役立った。


 特に、向こうの心を折るために造られた、ひたすら2mの深さがある穴に降りては、這い上がるような罠は効果的だった。

 とうぜん、軽く蓋はしてあるため、どこまでそれが続くのか、罠にかけられている方は分からない。


 心を折るには十分だった。

 そういえば、埋め戻しの拷問というのがあったな。



「よし。森の家にも、ゲートを持っていこうか」

「えっ本当? 私も行く」

「わしも行く」

「王様はだめです、あそこは聖域。禁足地ですから」

「フェンリル様の、許可があればよかろう」

「そこまでして、何しに行くんですか?」

「いや。入っちゃダメと言われれば、気になるじゃろう?」


「あーまあ。ゲートを置いてきますから、また今度ということで。ヒューマンたちもこちらに来ていますから、落ち着いてから、行きましょう」

「むーう。約束じゃぞ。カミヨ様」

「はい。では行ってきます」


 結局、4人で行くことになり、てくてくと移動をしている。


「久しぶりに温泉に入れるわ。楽しみ」

「そうですね。あそこの湯は何といえばいいのでしょうか。体に滲みると言うのでしょうか。体の芯から、ほっとしますよね」

「まあ、それが。温泉のいい所ですね」


 とまあ、のんびり行こうと思ったが。

 1日目のキャンプ中に、フェンが明日は私に乗っていけと宣言する。


 次の日には到着した。

 話をしているうちに、我慢ができなくなったようだ。

 到着早々、フェンは人化して温泉へ飛び込んだ。

「主。私の慰労のため、日本酒を所望する」

 そんなことを叫んでいるので、日本酒とジャーキーを置いておく。


 家の中に入ると、やはり帰ってきた感じがする。

 俺たちは、リビングのソファーに座った。

 すぐにみちよが、俺にはコーヒーを。

 自分とサラスには、紅茶を入れて持ってくる。


「ゲートがあるから、時々来る予定なんでしょう?」

「そのつもりだ」

「じゃあ、いろんな物を、少し置いておこうかしら?」

「そうだな。傷まないものは、置いておいて大丈夫だろう。虫と獣除けの結界は張ってあるしな」


「でもヒューマンが来ると、こっちに来ないかしら?」

「そうだな。警報機と映像の魔道具を設置しておこうか。あとは睡眠の罠かな」

「映像の魔道具か。私がこっちに来た時にも、あなたに覗かれているのね」

「覗かれて困るような事を、するつもりなのか?」

「ふふ。そうね」

 笑いながら、しなだれてくる。


「鏡は脱衣所に設置しよう。違和感がないだろう」

「普通の鏡ならいいけれど、今度王様とかも連れてくるんでしょう。いやだわ」

「そうだな。それなら、玄関わきにしよう」

「そうね。靴も脱がないといけないし、いいんじゃない」

 ついでに、げた箱兼小物入れを、鏡のサイズに作り直した。

「これでいいだろう」


「お味噌汁を作るから、お豆腐を頂戴」

 と言われ、出された器に、大豆を出してみる。


「今から、豆乳絞って? いいけれど、明日になるわよ」

 と言って、じっとりとにらまれた。


「軽い冗談だ」

 豆腐をはじめ、海で採取した昆布やわかめ。作った鰹節などを出した。

「野菜は、畑にあるだろう。見てくるよ」

 まだ睨んでいるみちよから、そそくさと、逃げ出した。



 そんなことがあった、3週間後。

 家の警報アラームが、俺の左手首のバングルで鳴った。


「あらまあ。家にお客さんのようだ」

「いやね。荒らされないかしら」

 おれは、映像を出した瞬間。

 みちよに目隠しをされた。

「妙子ちゃん……」

 映像には、薄汚れ。傷だらけで、服も着ていないが、坂下妙子が写っていた。


「どうしよう?」

「鍵もかかっていないし、落ち着くまでは、ゆっくりさせてやれ。その後迎えに行こう」

「そうね。彼女なら、あの家は、使い方が分からないことは無いでしょう。この前の食料も少しはあるし。でも彼女。だしとか取ったことがあるかしら?」

「さあ?」

「ジャーキーもあるし、大丈夫だろう」


 しばらく見守っていて、彼女が泣き疲れ眠った後。家に移動をした。


「ネルフィルターは、洗ってほしかったな」

「見たでしょ。疲れていたのよ」

 そう言いながら、魔法で妙子のけがを治すみちよ。

 その後ベッドへ運び、寝かせる。


「さてどうする? 獣人族の王都よりは、ここの方が落ち着けそうな気もするが。目が覚めたら、本人に選択をさせるか」

「そうね。それがいいわ」

「とりあえず、腹にやさしい。うどんでも打つか」

「そうね」


「うどんとは何でしょう?」

 サラスが聞いてくる。

「小麦粉を使った麺だな。うまいぞ」

「私は食べたことがあるぞ」

 とフェンが胸を張る。


「まあ少し、ゆっくりしておいてくれ」

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