第10話 平和な生活とおっさん女子

 あたふたしながら風呂から上がってきて、考える。

 万世さんは、少し不思議だと考えていた。

 少なくとも、自分の知っている? いや自分が考えていた、女の子のイメージとは少し違う……。


 ああいう状態だと、隠すとか。

 自分の体とか目とか。

 堂々と手を差し伸べられるとなあ……。


 美形男子じゃなく、上はついていたし、下は付いていなかったし……。


 近頃の娘は、あんな感じなんだろうか? いや違うよな。

 そんな事を思いつつ、昨日のシチューを味を整え、具材を足して、パスタソースを作り、コンソメぽいスープに、残りの具をさらに細かくしてぶち込む。


 錬成したビールを飲みつつ、ベーコンを炙ってつまみにする。

 独身も7年もすると、ちょっとしたことは出来るようになる。


 やがて音がして、万世さんが風呂から上がったようだ。

 目線は湯を沸かす鍋から、外さずに万世さんに問う。

「なにか飲む?」

 塩を、小さじ2杯分くらいぶち込み、パスタを入れる。


 ふと顔をあげると、下は昨日出しておいた、薄手のレギンスと言うには少しゆったりしたパンツを履いているが、上はノーブラ。

 Tシャツ一枚を着て、首にかけたタオルで髪を拭きながら、こっちへやって来た。


 思わず、ビールを吹き出しそうになった。

 本人は、そんなことなど気にしていない様子。


「それ美味しそうですね、ちょっともらっていいですか?」

 と聞いてきた。

「ああどうぞ。えーと、フォークは……」


「頂きます」

 間髪入れず、俺が使っていた楊枝でパクっと口の中に放り込む。

 もぎゅもぎゅと咀嚼すると、

「おいしいです」

 と言った。


「これは?」

 おれが返事をする前に、人のビールを一気に煽る……。

「にがぁ。うまあ。お風呂上がりだとおいしい」


「おい、どこのおっさんだ」

 そう聞くと、キョトンとしながら、

「よく家族にも言われたんですよ。妹からは、おっさん女子だと言われてました。今流行りだそうですよ、美味しいです。お代わりください」

 とコップを出してきた。


 錬成しグラスごと作製する。

 渡すと一口飲み、焼きベーコンをつまむ。


 そうしていると、2分半が過ぎパスタをざるに上げると、二つの皿に盛りつける。ソースを絡め、具材をトッピング。

 テーブルに運び、スープも深めの皿に取り、スプーンとフォークをセットする。


 万世さんは、ひたすらビールを飲み、焼きベーコンを食っている。

「料理できたよ」

「はい、すみません。ビールとベーコンておいしいんですね」

 どこのおっさんだ。

 心の中で突っ込んだ。


 テーブルの上を見て、目をキラキラしている。

「すごいですね。パスタとスープ。……あの教会でだされた料理。毎日ずっと煮込んだジャガイモに比べて幸せすぎです」

「ホワイトクリーム山の幸だな。スープはコンソメ風だよ」


「すごいですね」

「料理はしないのか?」

「へへっ、食べる専門です」

「こんなものは簡単……」

 と言いかけて、材料がここでは、普通、そろわないな。


「まあ。おいおい覚えた方が便利だろう」

「そうですね。いただきますと乾杯」

「はいはい、乾杯」


 すごくうれしそうに食べてくれている。こういうのも良いな。

 外は、雪が降っている。

 だが、明日には少し増築するか。

 この調子だと、理性が持たん。



 食事後、コーヒーをいれ、少し今後の予定を話す。

「山脈を挟んで反対側に、王制の国ソレムニティーという国が有る。そこでは、名君の王トゥラン・ク・イリティー・ソレムニティーのもと、結構幸せに暮らしているみたいで、そこに行ってもいいしどうする?」

 と彼女に聞いた。


 だが、

「神代さんは、どうするおつもりですか?」

 と逆に問われてしまった。


「俺はまだ修行中だし、そのうち魔人族領や獣人の国に行ってもみたい」

 そう答えると、ちょっと驚いたようだが、

「確かに。事実を確認する必要はありますよね」

 と言ってくれた。


「ただ十分に、先に情報収集は必要です。便利な力がありますから」

 と言われ、それには俺も納得だ。


 ついでに、

「明日、君用の家を建てるよ」

 と伝えると、?を浮かべ

「一緒に住んじゃ、ダメなんですか?」

 と返って来た。


「いや俺は男だしまずくないか」

 と言うと、

「どうしてですか?」

 とおっしゃる。


「いや、どうしてって、君は美人だし」

「ありがとうございます。じゃあ問題ないですね」

 とニコニコしている。


「手を出しちゃったりしたら、ねえ」

「出してもらえるなら、うれしいです」

 とやっぱりニコニコしている。


「ええと……」

「うーん、言わないとだめですか? 恥ずかしいから成り行きでと、思っていたんですけど。……神代さん日本で振り返って、目が合った時から気になって、あの時多分一目ぼれ? しちゃったんです私。……う~だから、私の事、ぱくっと行っちゃってください」

「はい?」

「ありがとうございます。 ……照れますね」


「いや、はいじゃなくて」

「えっ、ダメなんですか?」

「ダメじゃないけど」

「はっきりしないですね、私の事嫌いですか?」

「嫌いじゃないな」

「じゃあ良いですね、末永くよろしくお願いします」

 そう言って、頭を下げられる。


 おれは、

「……はい。少し年上ですけど、こちらこそ」


「みちよって呼んでくださいね、私もあつしさんて呼びますから」


 押し切られた……。

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