第8話 聖者の脱出


「万世さん、久しぶり。そっちは元気?」

 目をそらしたまま、挨拶をする。


「元気…… 健康ではありますが、幽閉状態ですね。あまりジロジロ見られると恥ずかしいですが、霊体ですから、こっちを向いてもらっても結構ですよ」

「と言われてもね…… それで、こんなところまでどうしたの?」


「ああ。そうですね。実は私も、教会を出ようかと思いまして。神代さんを探していたんです」

「出る? 出られそうなのか?」

「ええ、身体強化や風魔法の浮遊とかも覚えましたので、それに水魔法で屈折率を変えて、一時的には消えることもできます」


「じゃあ、俺が迎えに行けば良いのかな? いつにする?」

「私としては、すぐにでも良いのですが、結構距離がありますよね?」

「ああ大丈夫。今晩にでも行こうか?」

「良いんですか?」


「ああ問題ない。時計は持っているかな? じゃあ、今5時に合わせてくれる? 12時頃にお迎えに上がります。お姫様」

「あっありがとうございます。神代さん」

「じゃあ準備して。今から出発するから、また後で」

「お願いします」

 そう言って、出ていった。


 そうか、見える人間だと、裸なのか。……教会を出るときに、彼女に会いに行ったが、見られていたか。

 ぷらぷらしながら、真面目な会話。

 ……私は神の使いだと言いながら、ぷらぷら。

 日本なら、通報事案だな。


 …………

 さて、気を取り直して、

「たすけて~ふぇんりるぅ~」

 叫んでみる。


「うぉおん」

 向こうの樹海から、飛び出してくる。

 おお。チビ達も一緒か。


「ちょっとお願いがあってね。アーナキの聖都まで、一緒に行ってくれないか?」

「をん」

「ただし、チビちゃんたちはここで家を見張っていてくれ。ご褒美はイノシシ1頭でどうだ?」

「おん」


「よしよし。じゃあよろしくね。じゃあ行こうか」

 背中に乗せてもらい、フェンリルは駆け出していく。



 途中で、時間を調整しつつ、聖都に近づいていく。

 周りは探査したが、誰もいない。

 ちょっとフェンリルに体を見てもらい、意識を飛ばす。


 教会の窓に顔だけ出して彼女を呼ぶ。

 東館の裏側の壁を越えると墓場になっているから、そこで12時にということだけ伝え意識を戻す。


 導世は周りの気配を探り、誰も居ないのを確認して、荷物を持って窓から飛び降りる。


 3階だが、途中に回廊の屋根も有り、そこに音もなく着地をすると、もう一度周辺を探り、明かりを避けながら東館を回り込む。


 目の前に現れた壁を、躊躇無く、一気に飛越し墓地へと飛び降りる。

 まあ、壁を越えたときに、眼下に大きな犬に乗った神代が手を広げているのが目に入った。

 その時、スカートが風で捲れ上がっているのがわかったが、今更かと少し照れるだけで、神代の広げた腕に飛び込んだ。


 犬の背に乗り、後ろから神代に抱えられている。


 ここに来て、初めて冒険しているようで、ちょっと楽しくなった。

 ただし毛はふかふかだが、立体的に移動するため、身体強化をしてしがみついていないと振り落とされそうになる。

 だけど、背中に感じる体温に導世は安心する。


 しばらく全力で走っていたが、聖都からある程度距離が開き、少しスピードが落ちる。

「お疲れ、脱出成功だね」

 と、後ろから声をかけられ、

「お力添え、ありがとうございました」

 と返答する。


「ところでこの犬? 大きいですね」

「フェンリルだ。鑑定がまだ使えないときに、フェンリルだろうと、フェンリルと呼んでいたら、名前がフェンリルになっちゃって」


「あらまあ。フェンリルさんもありがとう」

「うぉふ」

「こう見えて、攻撃力も2千を超えているから、かなり強いよ」


「2千ですか?」

「ああ。成人男性が10前後だな」

「私はどのくらいか、わかります?」

「ああっと、鑑定だと色々サイズとか、状態とか見えちゃうけど、良いかな?」


「今更ですし、良いですよ」


「それじゃあ、鑑定」


万世 導世(ばんせ みちよ)

 種族:ヒューマン 17歳

 身体:162cm/52.6kg 85 / 63 / 87

 階位:3

 魔力量:1124

 攻撃力 :220

 防御力:150

 力:110

 耐久:80

 器用さ:120

 敏捷性:110

 知性:180


称号:聖者、女神の加護、異世界からの召喚者

適正:火、水、土、大気、光、聖

状態:微興奮


「という感じで、全部が普通の人の10倍位あるね」


「ありがとうございます。足手まといには、ならないようで安心しました」


 途中では、フェンリルのおかげか、モンスターも出ず問題なく帰ってきた。


 フェンリルに、ご褒美のイノシシを余分にもう一頭あげて、家の中に入る。

「もうそろそろ夜が明けるけど、寝た方がいいだろう」

「そうですね、ただ汗をかいてしまって、お湯が欲しいのですが」

「着替えは有る?」

「えっ、はい」


「こっちのドアを出て、脱衣所。その奥が温泉になっているから、更に奥のドアを出ると露天風呂だけど、単なる外だから気をつけてね。

 バスタオルとかも、脱衣場にあるのを使っていいから」

「お風呂が有るんですか? 頂きます」

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