第7話 派遣された勇者と賢者

 北のダンジョンと、南ダンジョンに、それぞれ向かわさせられた勇者と賢者。


 勇者はダンジョンへの道すがら、訪れる町や村で周辺に現れる魔物を駆除し順調に、人々からの人気も得て、お調子者の本人もご満悦。


 ステータスシステムがないため、詳細は分からないが、着実に力をつけていた。


 ミスルールに入り込んできていた、魔族も駆逐していく。

 魔人族と言っても、ほとんど人と姿は変わらず、普通起こるはずの人殺しの禁忌感だが、勇者は感じることなく、まるで3Dゲームのように殺しまくっていた。


 途中に出てきた、人族の盗賊においても、扱いは虫けらの様だが、魔法で焼き殺していたので、直接斬るのはためらいがあるのかもしれない。



 賢者も、順当に魔物は殺していた。

 だが、魔法のコントロールが下手なため、町や村を救っても逆に魔法による被害も出し、人々の人気はいまいちのようだ。


 少し本人も感じるところがあったのか、向になり、手柄を立てるため焦ったのか、避難の住んでいない所へ攻撃をしてしまう。

 村人を十数人巻き込んで、殺してしまった。


 そのことに対して、数日落ち込んだようだが、すぐに、そうだ逃げなかった村人が悪い。

 そんなことを周りの兵士に言い散らし、自分は悪くないとわがままの本領を発揮していた。

 そう、かなりの自己中。

 子供の時から甘やかされ、悪いのは他人が信条であった。


 忠告をしても事故を起こし、注意したでしょうと注進しても、そんな事は聞いていない。どうして言ってくれなかったの? と言い出すため周囲は困り、言葉ではなくすべて書面で渡したが、読んでいない。そんなの知らないである。


 そのくせ周りには、「決まりを守れないのは最低だ」とか、お前は能力が低いだの発言を繰り返す。お陰で賢者の付き人は幾度となく交代し、人々は最低限でしか関わることがなくなっていく。


 さらに盗賊や獣人族に対して攻撃をためらう、人を殺すのは嫌と言うのである。

 ここまでに、罪のない村人や子供を幾人も殺しているのに……。


 補助について来ていた修道士から、司教へ連絡が行く。

 さらに連絡が上に行く。

 帰ってきた返事は、使いものにならないようなら始末も可。

 だが、隷属の首輪でも薬でも何でも良いから使って、効き目があるようなら兵器として活かせ。


 そんな内容だった。


 実はここに来るまでの道中。

 膨大な量の嘆願が上申されてきていた。

 つまり、利益よりも周りに対する損害が上回ってしまっていた。


 これは、自分より弱い立場の人間を、容赦なく攻撃する賢者に追い詰められ、世話として近くに居た、幾人かの有力者の娘が自害に追い込まれたことも大きい。


 その命令は、実に速やかに実行されたのは言うまでもない。

 食事に毒を入れられ動けなくなった所に、隷属の首輪と隷属紋も刻み込まれた。

 俗に言う重犯罪者向け奴隷紋で、命令により魔法も使えなくなる。

 更に、手足には枷もつけられ、まともに歩くこともできなくされた。


 命令により喋ることもできず、必要な場所まで馬車で運ばれれば、否応なく殲滅魔法。

 攻撃が終われば次という状態で、本人は地獄のようだが、周りからはどうして早くしなかったんだの意見が多かった。



 賢者がそんな状態となった頃。

 順調な勇者の勇気くんが、張り切っている場所から、樹海を挟んで反対側。

 山脈の麓。


 篤司は意識を飛ばし、大陸中の情報を得ようと飛び回っていた。

 当然、賢者の処遇も見ていた。

 その上で完全無視し情報を集める。


 山脈を挟んで、反対側に王制の国ソレムニティーという国が有り、そこでは、名君の王トゥラン・ク・イリティー・ソレムニティーのもと結構幸せに暮らしているのがわかった。

 

 そこへ移動も考えた。

 だがまあ、今のところ生活には困っていないし、他の大陸にも意識を飛ばし情報を集めている。

 その中で、分かったことがある。

 やはり、かなり上位の聖魔法使いでないと、分離している意識体は見えないらしく、本人は楽しんでいた。……何とは言いませんが。


 ただ、魔人族領を含め、各大陸のあちらこちらに入れないところがあったのと、超古代の文明跡があると言われているランパスは大陸自体に結界が張られ、入ることができなかった。


 一度山脈の上を飛んでいると、山脈は2つが平行に走り、間には深い峡谷が形成されている、その谷の一部に開けたところがあり、そこに龍が生活しているのを見たときは1時間ほど眺めていた。


 他にも、こっちで何と呼ばれるかは知らないが、エルフの森や、峡谷の壁面に集落を作っているドワーフらしき集落も見つけた。


 世界を見て回りながら、結構自分の知識に在るファンタージ要素の詰まった世界であることに喜んでいた。


 あちらこちらを見学して家に意識を戻すと、本体の目を開け、ベッドから起き上がる。

 魔法により地中深くにある温泉を見つけたので、これまた魔法で掘り出し、露天風呂を作って毎日楽しんでいる。


 服も早い段階で蜘蛛の魔物にお願いして、作ってもらえるようになっていた。ただまだ全ての魔物を管理できるようではなく、おもしろいことだが、比較的上位のモノとは意思を伝えれるようである。

 昔何かで読んだ記憶の中にある、たぶんフェンリルだろうと思う動物も、時たま温泉に浸かりに来る。

 子供も居て、とても可愛い。


 そんな生活を楽しんでいるある時。

 夜ベッドで寝転んでいる所に霊体の聖者。

 万世(ばんせ)さんが入ってきた。


 ちらっと一瞥したが、慌てて目をそらす。

 ……霊体なので、当然服なんぞ着ていない。 

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