第6話 勇者たちは今

 篤司が山のふもとではっちゃけるより、時は少し戻り、篤司が抜け出した次の日。

 朝から教会の中央広場に3人は集められ、現状での力量の確認をしようとしていた。


 各属性の魔法術師が集められ、手本を見せて、それに続いて力を見せる。

 勇者はそれに加え、剣技も必要ということだが、流石に全くの素人なので聖騎士に鍛錬をしてもらう事となった。


 賢者はチラチラと勇者を見ている。

 賢者本人は、すぐとなりで魔法の手ほどきを受けている。

 だが評価について、才能はありそうだが、賢者なのに理解力が悪いとの評価を受けていた。

 しかし全属性対応であり、すべての属性において威力はすごいものだった。


 聖者については教会の礼拝堂で、祈りと神による導きを受け取る訓練と称して、何もさせて貰えなかった。


 最初、教会に併設されている治療院において、聖魔法の使い方を習うとすぐに治療魔法を使いけが人を治した。

 その力に教会関係者が驚き、このまま力をつけさせれば、まずいことになると、その場に居た全員が理解したためである。


 その後の教会関係者の動きは早く、聖者の軟禁と何もさせない事の決断は早かった。

 本当は、篤司のように幽閉し害してしまおうかと意見が出たが、巻き込まれただけの篤司と違い。神が人間の為にと遣わした異世界人。それは流石にまずいとなったためである。



 各地の敵対的攻撃への対処は勇者と賢者が居れば大丈夫だろう。という意見に落ち着いた。



 その時より1週間も経てば、教会の思惑は下方修正されることとなる。

 勇者と賢者は使い物にならず、対応に頭を痛めることになる。


 勇者は3日もすると「訓練は飽きた、モンスターを狩らせろ」と言い出し。

 賢者は魔術の基本である魔素の収束と制御がうまくいかず、ふてくされ修行を放棄した。


 魔法術師にとって魔素の収束と制御は基礎訓練であり、毎日日課として行うものである。他の術師が簡単に行っているのを見た賢者は、さらにへそを曲げ

「習い始めて3日でうまくいかない? 当たり前だろそんなの」

 と、陰口を言う術者に対しあてつけるように、余りある魔力で強引に魔法を組み立てる。


 通常の魔力必要量の3~5倍は使用しているだろうが、最上位魔法まで撃つことができる。

 本来繊細な魔力コントロールが必要な、複合魔法まで簡単にやってみせた。

 大規模殲滅魔法火炎流と大火炎流。

 風を用いて炎を敵に流す火炎流。

 更に炎の竜巻を敵側に流す大火炎流。

 後者は、敵が飛龍やワイバーンの時に有効な魔法だ。


 魔力操作ができず、サボる言い訳に対して、魔法師が言った

「これができないと大規模魔法なんか絶対撃てません」

 その言葉尻を取り、

「そんなものできるわよ」

 と返した賢者。


 急遽開催された大規模魔法のお披露目会。

 範囲は狭いが、意地になって使ったようだ。

 そして魔法師は首になり、本人はサボることができる様になった。


 これはテレビなどで、竜巻の映像などを見ている賢者が有利だった。

 積乱雲直下で発生する空気の対流。それが、強い上昇気流を生み周りを巻き込み渦を造る。

 その全体像を、映像として記憶している。

 また、いつか見た東京大空襲の火災旋風の原理図そんなものも見ていた。



 その後、勇者と賢者は、自分たちのベッドから出てこず、怠惰な生活を満喫している。

 だが、そんな生活も1週間位で終わり。

 勇者は修道女に手を出すようになり、捨てられた賢者は修道士の部屋を渡り歩くようになった。


 それを報告された担当司教は、大司教と相談し2週間訓練を切り上げる。

 魔物を駆除しながらダンジョンへ向かうことに決めた。


 それも勇者と賢者の仲違いのため、南北のダンジョンに振り分けた。

 今でも敵勢力と力が拮抗しているのだから、バラバラでも力にはなるはずと期待しながら送り出した。



 一方、軟禁された導世は自身の力を強めるため、力を理解しようとしていた。

 どうせ習えなくても、魔法といえど過去の発見の積み重ね。

 時間はかかっても習得できるはず。


 聖魔術だけではなく、普通の属性魔法も独学だが修行をした。


 その独自の解釈と発見の中で、体の中で魔素を循環させると体力だけではなく知能や認識、記憶力まで上昇することを発見した。

 強化した状態でさらに意識を広げる。そして認識。

 彼がやっていたように、幽体離脱状態が自身の目標としてがんばった。


 彼女の思惑。その根底は、いま彼は、どこにいるのだろうか?だった。




 その頃の魔人族領。

「魔神アーナキ様のお告げと聞きましたが」

「神より啓示じゃ。ランパスの境にいけ。そこに、はぐれの魔人が一人いる。そいつは我らの力となろう、とのことじゃ」


 当然アーナキが、力のバランスをとるために魔改造を施した魔人だ。身体能力が2倍以上、魔力3倍以上(通常魔人比)である勇者と賢者を合わせたような力を持っている。

 元々はどこかの世界に居たのを引っ張ってきて、地上に落とす前に能力を更に与えてある。


 ここまでくれば、当然だが、クオーレルに住む獣人族にも、女神アーナキはどこかから強い獣人を拾ってきた。

 そして、力も与えた。


 地上に下ろすと、彼はしばらく周りの魔物を駆除していたが、自分の力がわかると内陸に向かって進み始めた。目の前にあるすべての集落を破壊しながらである。

 獣人族は力がすべて。

 地表に立ち力を確認すると彼は、天に向かい、

「俺は獣人の王になる!!」

 と宣言した。


 その様子を見た、女神アーナキは獣人の国に対し啓示をするのをやめ、成り行きを見ることにした、ただ楽しそうだから……。

 


 そして裏の管理人。

 この男。

 いまだ自分の力を把握できていない。

 だが、魔法を全属性。


 当然聖魔法も使えた。

 浄化をすると自分も綺麗にできるため、風呂代わりに重宝していた。

 教会関係者が知れば、あきれるだろう。


 寒いので、能力を駆使して小さいがログハウスを建て、自由を満喫し、周りのものに対する鑑定能力も少しは使えるようになってきた。


 更に管理能力も強化され、草花については命令により毒性のない実を生らせ、甘みも指定すれば、それに応じた実を生らすことができた。ただ季節外れに実を生らすとダメージが大きいらしく、3本の木を枯らせた所で、それに気が付き自重した。

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