第3話 情報のすり合わせと進路相談

 応接室に移動中、私は悩んでいた。


 向こうでの転移が始まるちょっと前。

 振り返ったときに目が合った人。


 そのとき、その人は私達を微笑ましい感じで見つめていた。


 そして転送されて、頭の中で自分の力がわかった瞬間。

 背後からの優しい熱を感じ振り向いた。

 さっきの人だけど…… なんて言えば良いのだろう。


 神々しい? かな? 全身から金色の光を発している。

 この人、絶対普通の人間じゃない。

 私たちより上位の存在。

 無自覚に、体が震える。

 どうして? 周りにいる教会の偉い人達は、気が付かないのだろう? 


 そうしていると、急に神々しい光がなくなった。


 水晶で判断すると、あの人は力が弱いと判断された。

 それはきっと…… さっき力を、抑えたからでは無いのかな?


 もしかするとこの人は、地球側の神様? 私たちが呼ばれたから、お忍びで付いてきてくれたのかしら? だとしたら、帰してくれないかしら? 


 いえ? そうか。

 町中では、普通の人だった? いや違う。私に力が無くて見えなかっただけかも。

 どさくさ紛れについてきて、なにか使命とか目的があって…… それをなすまでは、だめなのかも。この人が神様なら良いな。

 あの光を見て、見ず知らずの人なのに、私の中で希望と願望が膨らむ。



 勇者くんは考える。

 よっし、よしよし。よっし。

 俺の時代だぁ。


 おれは子供の時から、スポーツそこそこ、勉強もそこそこだが、並木 勇気(なみき ゆうき)きっと名前のように、勇気を持って何かをなすことができると、パパとママに言われ続けてきた。


 水晶による判断で勇者・ゆ・う・しゃだ。

 幼なじみの、坂下 妙子(さかした たえこ)が賢者。

 これで無敵だろう。


 妙子がいつものようにわがままを言い出して、夜に女の子の一人歩きは危険だと言うものだから、最近はいつも塾から送って帰っていた。

 それで、こんな事になるなんてな。


 妙子が塾で拾ってきた、よくわからない万世 導世(ばんせ みちよ)が聖者。


 まあ、変なおっさんが紛れ込んだが、任せろ。俺が連れて帰ってやる。



 賢者坂下妙子は考える。

 塾から帰っていると、足元に変な模様と光が現れた。


 塾の帰りに勇気と二人で帰っていると、見られたときにクラスでからかわれるから、一緒に帰ろうと誘ったみちよちゃん。

 一緒に来たみたいね。

 よくわからないけれど、勇気が勇者で、私が賢者だそうだ。

 賢者って、何をする人だろう?



 応接室に行くと、召喚の間や廊下に存在した石床の特徴。底冷えする感じから開放された。


 まあ、そこで聞かされた話は、良くある話だが、魔王を倒せば帰れるというわけではないようだ。

 日々押し寄せる国難を、一切合切なんとかしておくれと言うことだ。

 期限はいつまでだよと、言いたくなったが、俺は職業訓練とお勉強が終わればでていける。そのため黙って話を聞く。


 この星は、女神の名前を冠しアーナキと言うらしい。そこに大陸が4つ。

 ミスルール、クオーレルが南北。

  ランブルとランパスが南北。

 この2つの大陸間には広い海が在るが、極地方まで行くと海峡程度の広さで渡れる。


 ミスルールとクオーレルもちょっとした海峡が有り、同様にランブルとランパスの間には海峡が在り、海底のダンジョン経由でも移動ができるようだ。そのため、人のいるミスルールに敵が慢性的に攻めてくるらしい。


 ランブルに魔人族、クオーレルに獣人族が住んでいる。

 ランパスは超古代の文明跡があるとか、古代の戦争で大地が汚染され住めないとか言われているとの事だ。



 あとは、島がいくつか在るようだが、未だ帆船が近海をウロウロしているようで話にならない。



 黙っていようと思ったが、一応聞いてみる。

「各大陸で分かれて、棲み分けができているのなら、なぜ他にちょっかいを出してくるんだ?」

「絶えず攻撃をしてくるから、こちらは仕方なく反撃をしているんだ。好きで戦争をしているわけではない」

「相手の言い分は、ないのか?」



「奴らは嘘つきで、こちらが攻撃をしてくるから、反撃をしていると言っている。これは、魔人族も、獣人族も一緒だ」


 おかしな話だな。全部の言うことが正解なら一体何者と戦争しているんだ? 自由になったら調べよう。



 勇者の勇気くんが、声を上げる、

「取り敢えず。来るやつをぶちのめして、こちらに来ないようにすれば、それで良いんだな?」

「左様です」


「ただまあ。勇者様方も来られたばかりで、体がなじんでいません。少し訓練を行いましょう。取り敢えず各人のお部屋をご用意いたしました。こちらへどうぞ…… ああ、神代様は資料室に近い、東館へ御案内致します」


 二手に分かれて、案内について行く。

 部屋に案内されると、うーん。半地下の一室だ。

 鍵はかかるが、雨が降ったら浸水しそうだ。

 これって、昔の幽閉部屋じゃないよな? 光の入ってきている窓を覗くと、うん…… しっかり、鉄格子が入っているなぁ。


 これは…… 俺を外に出して、なにか言うと困るから幽閉することに決まったのか? 部屋から外に出て、降りてきた階段に向かうが…… すごく頑丈そうな扉が閉まっているなぁ。押しても引いてもびくともしない。ひょっとして、横スライドか? 違うな。上にスライド、違う。上に跳ね上げ…… だめか。


 閉じ込められた。幽閉確定だ……。


 まあ良い。少し腹は減ったが、先に自分の能力を把握もしないといけない。

「ステータスオープン」


 ……やっぱり無いのか?

「オープンウィンドウ」

「鑑定」

「アナライズ」


 うーん俺のスキルなんだっけ? 管理者だったよな。神様だと客観的に力とか見れないと困るんじゃないのか?


 うーん、思い出せ……。


 ああっ『最初はアリや虫の管理……』まじか。アリさんどこかに居ないかい。

 うーん。さすがにどこにでもいる蜘蛛だが、寒いから居ないな……。


 もう一度部屋を出ると、ウロウロと徘徊する。

 ウロウロしていると自分の視界と意識に齟齬が在る……何だ? 

 めまいがするような感覚がするので、部屋に戻り集中する。


 無意識に力を使っていたようで、目をつむっているのに、周りの状況が頭の中に入ってくる。

 さっき開かなかった扉を突き抜け外に出る。


 ……すごいどこでも突き抜け俯瞰できる。

 こっこれは、ひょっとして男の夢。


 透視能力か? 


 急いで意識を戻し、外の鉄格子側からこっちを見る。

 座って、意識を集中している自分が見える。

 椅子に座っている本体が、窓の方を見る。

 なんと言う事でしょう…… 窓の向こうから、こっちをのぞき込んでいる、半透明な俺と目が会う。

 めまいがした。

 使い物にならねえ。


 これ便利だけど、見られると正体がバレる。

 神様の像とか、絵が残っているのはこれのせいか。

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