第2話 召喚の儀

……えくらいは?」


 と、右手を差し出すが、周りが変わった。


 もうすでに転送され、見知らぬどこかの建物の中。

 周り、部屋の中は薄暗く、部屋全体が石で作られたホール?


 今俺が転送されたタイミングは、日本で見ていた3人の高校生が前に居て、その足元から魔法陣が消えるところだった。


 眼の前でつんのめる3人。

 周りの様子に気がついた様子で、キョロキョロし始める。

 さっき目のあった子と、また目が合うが、こっちを見て今度はすごい目を見開いている。目玉が落ちそう。


 奥にある通路から、衣擦れの音とサンダルだろうか、ペタペタと複数の足音がこっちに近づいてきていた。


 部屋へと現れた奴らは、こっちを見るなり

「大成功だ。さすが我が全能の女神アーナキ様。すばらしい」

 そんなことを叫ぶ。


「教皇様。ひとり多い様子ですが?」

「はて、3人と聞いておったが? 一人、歳がちがうのがいるから、あやつじゃろう。転送に巻き込まれたか ……ふむ。一応確認しろ」

「はっ」


 台が運び込まれ、その上に30cm位ある水晶玉が乗せられていた。


「いやいや、皆さん済まない。こちらで、神から啓示のあった人数は3人であったため、少し取り乱してしまった。よくぞ異世界から、わが呼びかけに応え、こちらに来てくださり誠に感謝いたします」

 おっさんが、感謝をしているそぶりも見せず。ぞんざいに、そんなことを言う。


「来られたばかりで、事情ががわからないと思われます。最初に基本情報として皆様に説明させていただきます。この世界では我々人族。そして魔物や魔人族、獣人がおります。そのために、この混沌とした世界で、争いばかり。先般も魔人族の襲撃を受けまして、すぐ隣の街が崩壊したばかり。我が女神アーナキ様にお願いして、なんとか救済をと、お願いする事になりました」

 神様関係者なんだろうが、袖で涙を拭くような仕草をしながら説明をする。


「すると、ありがたい事に人を救済するなら、異世界からの勇者召喚が決まりとなっていると、神託を頂き、さらに力を一時的に与えていただいた。呼んでも力を貸してもらえるかは、私達次第と言う事なれど、心の底からお願い申し上げます。我々を助けていただきたい。お願い致します。神の使いであらせられます勇者様方。無辜の民への救済を、どうかお願いいたします」


 それを聞いて、高校生達がぼそぼそと話し始める。

「おい、あんなこと言っているけど…… どうする?」

「え~でもホントなの? 適当に利用して、殺されるなんて嫌よ」


「おいみちよ。さっきから何を震えているんだ? 後ろのおっさんが、怖いのか? なんかされたか?」

 みちよと呼ばれた彼女は、俺から目線を外すことなく震えている。


 ふと思い返す。

 神様が何倍とか言って、俺に力を入れたから。ひょっとして、オーラとかはみ出しているのかな? どうしよう? 

 それなら、光が出ているのを抑える感じで、適当に意識を集中すると分かった。


 おれ、若くもないのに、なんか体から、ほとばしるエネルギーがでていたみたいだ。某温暖化の原因と言われる、元テニスプレーヤーみたいだな。


 やれやれ。

 すごくいい加減だが、頭の中でイメージをする。

 出力を抑え、押し込める感じでどうかな? ……うん。こんなもんだろう。

 気がつけば、金色の光がうっすらと目で見えるようになっていて、それを収束させ体に納める。


 前の女の子は、それを見て、やっと目線を外してくれた。

 何か勇者か絡みの恩恵か何かで、俺の事が見えていたんだろうな。

 未だに、チラチラとやはりこちらを見ている。

 ひょっとして、チクられたらまずい状況なのか?


 いや待て、彼女がおっさんが好きで、俺に惚れたとか?

 99%無いだろうが、俺の幸せのために、そうしておこう。

 何かあれば、まあ適当に対応しよう。


 やっと設定が終わったのか、教皇と呼ばれていたおっさんが、手招きをする。

「皆さんこちらへ、お越しください」

 ぞろぞろと、机の前へ近づく。


「この水晶に手を当てていただくと、勇者様なら金色に輝きます」

「ステータスとか無いのか?」

 高校生の兄ちゃん。多分勇者くんが聞く。


「そのステータスとは、何でございましょうか?」

「人の適正とか、力を数値として見る物だ」

「残念ながら、この国にそのような便利なものはございません。皆様のお国にはあったのでしょうか?」


「いや、なかったんだが……」

「ではどちらで?」

「いやもういい。気にするな」

 そう言って、顔の前で手を振る勇者くん。

「さようでございますか? あれば大層便利そうですが」

 あの残念そうな顔は、本気だな。

 そんな物があったら、自分が無能だったときが、悲しいけどな。


「取り敢えず、俺から行くよ。触れば良いんだな ……ぐわぁ」

 触れた瞬間、勇者くんが叫ぶ。


「どっどうされました?」

「思ったより。いや、かなり冷たかった」

「ああ今は新年。外は雪が舞っておりますからな」


 そりゃそうだ。さっきまで地球がと言うより、日本が夏前であってもこっちが同じであるわけがない。それにしては、この格好であまり寒くないな? どうしてだ。そう考えていると、おおっと声が聞こえた。


「素晴らしい。あなた様が勇者でしたか。人族のために。また神の御使いとして、よろしくお願いいたします」


 横から、説明がはいる。

「遣わされたのは勇者と聖者。そして賢者であるはずです。聖者なら汚れのない白色。賢者は全魔法ですので虹色ですな。さあさあ、順にどうぞ。水晶に触れてください」


 勇者くんの右側で、しがみついていた娘が水晶に触る。ふわっと虹色の光が浮かぶ。おお綺麗だな…… と言う事は、残りは聖者かな。


 さっきからこちらを気にしていた娘が、おずおずと水晶に触れる。すると白い光が辺りを照らす。


 周りの教会関係者だろう。驚嘆の声が上がる。


「素晴らしい。プロテ枢機卿。君より聖なる力が強いのではないかね」

 そう言われて、フンという感じで答えるおっさん。

「そうですな。私も、さらに信心と研鑽を積まないといけませんなぁ。ただまあ、神の遣わされた方々と、我々一般的ヒューマンを比べるのは、そもそもおかしいと思いますがな」


「そうですな」

 周りも、頷きながら賛同する。

「ということで、あなたもこちらへ」

「ああ、はい」


 強烈に光るとまずいが、どんな感じに光るだろうと、少し考えながら水晶に手を伸ばし、触る。

 すると、水晶の中心で、小さな虹色がくるくると回っている。

「全属性とは素晴らしい。ただ力は普通くらいですな」


 小さな声で、俺の斜め後ろにいた聖者の娘が

「そんなバカな……」

 とつぶやいていたが、無視をする。


「そうですな。それなら、お言葉通り召喚者は3人。そちらの方は何かの弾みで巻き込まれたということですかな? しかし、参りましたな。それならとほいほい帰すこともできない。手違いとはいえ、神が使わされた方には間違いない。勇者様たちに比べて力がないからと、無下にするのも教会としてはどうだ?」


「それでは、こういたしましょう。こちらに馴染むまで、少し勉強と修行をしていただいて。その後に、暮らせるようなら、ゆるりと仕事でもされながら教徒の方々と交流をもって、生活をされてはいかがでしょうか?」


 おっさんが、頷きながら

「まあそうじゃな。巻き込んで申し訳がないが、神の手違いということもたまには在るのでしょう」

 そう言ってくる。

 無論、教皇様達は、俺の事はガン無視で、勇者くん達を囲んでいる。


 服装が違う、装備はしていないが武官かな? 背中側。腰に剣がぶら下がっている。

「召喚の儀はこれにて終了ですので、皆様こちらへついてきてください。応接の間にご案内いたします」

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