第2話 烈火の鎧武者

 僕は水無瀬透。不幸が続く僕の人生は、ある日を境にいい方向に進んでいる……そんな感じがしていた。犬や金魚のメタルビーストと呼ばれる鋼鉄の獣に襲われる中、一人の青年と出会ったからだ。青年は赤城山烈と名乗り、赤き鎧武者となってメタルビーストたちと戦う。

 そこから僕は烈さんからいろいろなことを教えてもらうために、近くのカフェに訪れていた。

「それで、烈さん。あの化け物はなんなんですか!? それにあの鎧武者は? 【アンチ】ってなんなんですか!?」

 僕は届けられたカフェラテを口に含むことなく烈さんに質問攻めをしてしまう。

「まぁ、落ち着け。一度にそんなに聞かれても、まとめては答えられん……」

 烈さんはそう言うと、ブラックコーヒーを口に含む。

「うっわ、まずっ!」

 烈さんはコーヒーを思いっきり吹く。

「ちょっと、烈さん! 苦手なら無理に飲まなくても……」

「ごっほごほ……憧れてたんだ、かっこよくブラック飲むの……」

「……ブラック飲めなくても烈さんはかっこいいですよ!」

「そ、そうか……?」

 烈さんは照れて、砂糖をどんどん入れていく。ぐるぐると混ぜた後にもう一口飲む。

「あっまっ!」

「もう! 何やってんですか!」

 この人、クールに見えて抜けているんだな……


「ゴホン、改めて情報を整理するか」

「はい! お願いします!」

「何から聞きたい?」

「そうですね……烈さんはどうして鎧武者に成れるんですか?」

「それか。こいつらの説明からか」

 そう言うと烈さんは、テーブル上にスコップの持ち手のようなパーツが付いた箱と、五百円玉より二回り大きいコインを置く。コインには【火】と書かれている

「こっちが【アースドライバー】」

 烈さんは、箱を指さす。

「でこっちが【エレメントチップ】だ」

 次にコインを指さす。

「ドライバーを腰に巻く。チップをドライバーにセットする。ベルトのトリガーを引き、押し戻す。これで俺は鎧武者・烈火へと変身する」

「なるほど、鎧武者・烈火……。烈さん、これらはどこで手に入れたんですか?」

「そうだな、あれは三年前の話だ」


 烈さんがこの戦いに身を投じるようになったのは、三年前の誕生日だった。

『ピンポーン』

 一人暮らしのマンションの部屋にチャイムが鳴る。

「はいはーい!」

「宅配便です。お荷物をお届けに上がりました。サインお願いします」

「ありがとうございました」

「さてさて、誰からだ?」

 自分が誕生日ということを思い出しそわそわしていた烈さんは、差出人を見て驚愕した。

 差出人の名は、赤城山業。烈さんのお父さんからだった。

「父さんから!?」

 烈さんはすぐに段ボールを開ける。中には、【アースドライバー】と【エレメントチップ】。

「なんだ……これ?」

 そして一通の手紙が入っていた。烈さんはすぐに手紙を開ける。

『烈へ。一八の誕生日おめでとう。お前がこれを読んでいるということは、俺でも対処できないほどの不測の事態に陥っていると考えられるだろう。だが、本当はお前を巻き込みたくはなかった。だから、成人したお前にこれを贈る。使い方の説明書を別で入れておく。この力を正しく使うことを俺は願う』

「力って……何が起きようとしているんだよ……」

 烈さんは説明書を一通り見て、ベッドの上へ仰向けになる。ゆっくりしようとしたその瞬間だった。

 ドゴーン! と近くで大きな音がする。

「おわっ! な、なんだ!?」

 様子を確認しに外に出る烈さん。

「……え?」

 予想だにしない光景に、烈さんは変な声が出てしまう。

 そこには手すりの上に立つ獅子のメタルビーストがいた。

「なんなんだ! お前……!」

 我に返った烈さんは、獅子に声をかけるも、雄たけびが返ってくるだけであった。

「ガウ……ガオオオオオ!」

 獅子のメタルビーストは、烈さんを狙い、飛びかかってくる。

「やべっ」

 烈さんは慌ててドアを閉める。しかし、ドゴッ! バキッ! と音を立ててドアが破られてしまう。

「おいおい、マジかよ……」

 部屋を獅子のメタルビーストに侵入された烈さんは、混乱して辺りにあった物を投げつける。

しかし、ダンベルを投げるが躱され、クッションを投げても、鋭い爪で切り裂き、辺りに羽が舞うだけだった。

「ガウルルル……!」

「何これ……何があったの? れっちゃん?」

 騒ぎを聞きつけた管理人さんが来る。

「来ちゃだめだ!」

 管理人さんを巻き込まないようにと制止する。なんとか、この状況を打破すべく周囲を見渡す烈さん。すると、ある物が目に留まった。

「父さんが贈ってくれたのは、このためなのか……?」

 烈さんは、【アースドライバー】と【エレメントチップ】を手に取る。

 管理人さんに向かおうとする獅子のメタルビーストの背にテレビのリモコンを投げつける。

「こっちだ、化け物! 付いてこい!」

 烈さんは獅子に挑発すると、ベランダへと走り出す。そして、ベランダから飛び降りた。

「とおっ! ふう、住んでいる部屋が二階でよかったぜ……」

 無事に着地した烈さんは、急いでドライバーの使い方を思い出し、実行する。

「確か、腰にドライバーを巻くんだよな……」

『アースドライバー』

「それで、このチップをドライバーにセットする!」

『セット』

「トリガーを引いて戻して……変身!」

『……』

「……へ?」

「グルルル……ガウ!」

「あぶねっ!」

 獅子の飛びかかってくる攻撃を躱す烈さん。

「どうしてなんの反応もしないんだ!」

 烈さんはもう一度トリガーを引き戻す。

「変身!」

 しかし、何も起きない。

「変身! 変身! 変身!」

 何度も変身プロセスを踏むも何も起こらなかった。

「グオオオオオ!」

「しまっ……ぐわっ!」

 ドライバーに集中していたせいで、獅子の攻撃を腹部に受けてしまう烈さん。烈さんは、大きく吹き飛ばされてしまう。

「ガオオオオオ!」

「れっちゃん!?」

「大丈夫なの!?」

 異常事態に心配した近隣住民や管理人さんがやってくる。

「ガウウ……」

「ひっ! ば、化け物!」

「く、来るな!」

「な、なんだありゃ!」

 烈さんを倒した獅子は、標的を住民たちへと変える。

「や……やめろ!」

 おそらくこの事態は、お父さんが関係していると感じていた烈さんは、無関係な人を巻き込まないように、立ち上がる。

「れっちゃん、無茶よ! あんな化け物に敵いっこない! 一緒に逃げるわよ!」

「……俺は逃げない! 俺が……俺がみんなを守るんだ!」

 烈さんの心臓が赤く光る。ドライバーにセットしていたエレメントチップが勢いよく飛び出てきた。

「燃え盛れ……俺の炎!」

 赤い輝きを宿したエレメントチップには【火】の文字が刻まれる。

「これで……いける!」

 烈さんは再びチップをドライバーにセットする。

『烈火!』

「変身!」

 烈さんを包み込んだ炎は、赤を基調としたゴツい鎧へと形を変える。

「さぁ、反撃開始だ!」

 鎧武者・烈火へと姿を変えた烈さんは、腰に出現した刀を抜刀し、獅子のメタルビーストに立ち向かう。瞬時に間合いを詰めると、左切上、右切上、袈裟斬りの三連撃を叩き込む。

「グオォ……」

「いける! 力が漲るぜ!」

 烈さんは、幼少期からお父さんに剣術を叩き込まれていた。

 獅子がよろけたところを、右薙、左薙、唐竹と次々に叩き込んでいく。

「グルウ……」

 片膝をつき、ダウンする獅子。

「これで終わりにする!」

 必殺技を発動させる手順を思い出しながら実行する。

「トリガーを一回引いて押し戻す!」

 刀身に黄色の炎を纏う。

「黄炎舞!」

 右肩に担いだ刀から、勢いよく炎が吹き溢れる。それが推進力となり、鎧武者を加速させる。

一気に獅子との間合いを詰め、すれ違いざまに左薙を叩き込む。

「火車!」

「ガ……ガウォオオオオ!」

 獅子の鋼鉄の身体がドロドロに溶けて、消滅した。

「はぁ……はぁ……か、勝った……勝ったぞおおお!」

 変身を解除して、みんなのところに駆けよる烈さん。しかし、管理人さんから思いもよらぬことを言われる。

「れっちゃん、いや赤城山烈。あなたには退去命令を出します」

「えっ? なんでだよ! 俺は化け物退治したんだぞ!」

「なーにバカなこと言ってんの? 化け物? ゲームのやりすぎ?」

「マジで言ってんのかよ……! 俺、あんなに頑張ったのに!」

「全く……あんなに部屋ボロボロにして……あとで修理代も請求しますからね。さ、早く荷物まとめて」

 こうして烈さんは部屋を追い出されて、点々としながらメタルビーストと戦っている。


「ま、俺の最初の戦いはこんな感じだな」

「ずっと、ひとりでこんな戦いを?」

「いや、仲間はいるぞ、三人な! まぁでもいろいろあって今動けるのは、その内の一人だけなんだがな」

 〈いろいろ〉……その言葉に僕は引っかかってしまった。戦いの中にいる以上、無事に勝てればいいが、そうでなかった場合のことを僕は考えてしまったのだ。

「……烈さんは怖くないんですか?」

「へ?」

「もし、戦いに負けたらって、思ったことないんですか?」

「ないぞ!」

「俺は、敵の親玉を倒して父さんの敵を取るまで死ぬわけにはいかないんだ。だから負けることなんてまず考えない。勝つことだけ考えりゃいい!」

 そのときだった。烈さんのポケットから『デーデーデー』と音が鳴る。烈さんはポケットからデバイスを取り出す。

「おっと……近くでメタルビースト反応だ」

「烈さん、それは?」

「こいつは、【ビーストサーチャー】って言って、メタルビーストの現在地を教えてくれるものなんだ」

「そんな便利なものが……」

「ほら、さっさと行くぞ」

 そう言うと烈さんはグーっとコーヒーを一気飲みする。

「あっまっ!!!」

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