アースアーマーズ

碧渡戊武

第1話 始まりの出会い


 これは、地球を護った鎧武者達の話である。


 僕の人生は不幸続きだ。

「うわぁぁぁぁぁうおぉぉぉぉぉ!」

 やばいやばい、とにかくやばい。なんなんだ、あの化け物は……!

 僕は、全身が鋼鉄の体毛に覆われた犬のような獣に追われていた。僕は焦って路地裏に入ってしまう。それが運の尽きだった。

 暗闇に走る化け物の赤い目と、鋭く光る牙が僕に迫ってくる。

 僕は間一髪のところで化け物のかみつきを躱す。

「うわっ! いてて……」

 しかし、バランスを崩してその場に尻もちをついてしまう。化け物はガルルルルル……と唸り、僕に飛びかかる。

「う、うわぁぁぁぁぁ!」

 思い返せば僕の人生は不幸でしかなかった。

 トラックには轢かれるし、鳥のフンが頭に付いたことも、座ろうとした瞬間に椅子の脚が折れて背骨を折ったこともある。

 なんとか入社できたジャーナリストの仕事でも、今日中にネタを持って来られなければクビだと宣告されてしまった。

 こんな人生、早く終わった方がいいな……。

 しかし、いつになっても化け物が僕に嚙みつくことはなかった。

 僕が恐る恐る目を開けると……。

「……うっ、うわあああ!」

 そこには、鋼鉄の獣が空中で真っ二つに斬られていた。ボトボトと鋼鉄の獣だったものが地面に落ち、塊は橙に光った後、消滅した。目の前には炎を連想させる、赤と橙を基調としたゴツめの鎧。手には炎を纏った日本刀。鎧武者のヒーローが立っていた。

「ふう、危なかったな!」

「あっ……はい。ありがとうございます……」

 炎の鎧武者はブンと日本刀を振り下ろし、刀に纏った炎を消す。そして、キンと納刀した。鎧武者は腰に巻いているベルトから何かを抜き取る。すると、鎧が消滅し、青年が現れた。赤毛が混じった逆立ちの短髪。ゴツい鎧から出たからか、余計にすらっと見える背格好。

 そんな青年は少年のような無邪気な笑顔で、

「お前、名前は? 立てるか?」

 と、手を差し伸べて聞く。

「僕は水無瀬透です。ありがとうございます。あなたは?」

「俺は烈。 赤城山烈だ!」

「烈さん。なんなのですか今のは?」

「あれか、あれはメタルビーストって言うんだ」

「メタルビースト……烈さんはどうして……?」

「俺はこいつらを生み出しているヤツを探しているんだ。探して、俺は父さんの敵を討つんだ!」

「そうだったのですか……」

「あぁ。それで、こんなこと聞いてどうする?」

「えっ? あっ僕、一応ジャーナリストやっていて。記事にしたいのですが……」

「……できるといいな!」

「えっ……」

「ただ、かなり難しいぞ」

「……ですよね」

「いや、そうじゃない。もうすぐ、透の記憶から消える。俺のこともメタルビーストのことも。だから、五年前からいるメタルビーストが大ごとにならない」

「えっ……でも、僕は覚えていたいです……」

「なら、これ持っておけ」

 そう言って渡されたのは銃だった。

「護身用だ。今度またメタルビーストに遭っても少しは耐えられるだろ」

「ありがとうございます。大切にしまっておきます!」

「おう。じゃあな!」

 彼と別れてすぐに。

「あれ? どうしてこんなところに?」

 僕は記憶を無くしていた。


「ボク、言ったよねぇ? 昨日中にネタ上がらなかったらクビだって」

「す、すみません、編集長!」

「もう君、来なくていいから。バイバーイ」

「あんなヤツよりキミはかわいいねぇ」

 編集長は金魚を愛でながら僕を追い出した。

 帰り道。今後どうしていこうか考えていると。

「ちょっと君、今時間良いかな?」

 お巡りさんに職質を受けた。

「ここら辺で不審者が出ていてね。疑っているわけじゃ無いのだけど、確認をね。お仕事は何をしているのかな?」

 初めての職質だ……緊張して怪しまれなきゃ良いんだけどなぁ……

「い、今ジャーナリストの仕事をクビにされたところです……」

「ほうほう、今しがた職を失ったと。まあ、再就職頑張ってね。じゃあ、ちょっと鞄の中見せてもらえる?」

「はい。どうぞ」

 鞄にも怪しいものは入っていない。大丈夫だと思う。しかし、

「あれれ? 君コレ、何かな?」

 と言って、お巡りさんが手にしたのは銃だった。

「??? え? 僕……知らないです……」

「はいはい、詳しいことは署で聞くから。とりあえず、銃刀法違反で現行犯逮捕ね」

 クビになっただけでなく、逮捕も? やはり、僕の人生は不幸だらけなのだろうか。

 手首に銀色の輪を付けられそうになった、その時だった。

 僕がさっきまでいたビルの窓が破られる。地上に土煙を立てて何かが降りてくる。

 それは、でかい金魚の頭で、体は人間のようで、金属光沢のある鱗に覆われた魚人だった。正直、めちゃくちゃ気持ち悪い。

 編集部のある階……金魚……まさか、編集長のペットが……こんな化け物に?

「なんだ、お前は? 動くな、動くと撃つぞ!」

 隣にいたお巡りさんが拳銃を抜き魚人に向けている。しかし、歩み寄ってくる魚人。お巡りさんは発砲するも、鋼鉄の鱗は弾いてしまう。なすすべなくお巡りさんは魚人の凶悪な爪で倒れてしまった。僕はさっきお巡りさんに押収された銃を手にした。

 なんで僕の鞄に入っていたのかわからない銃。普通の銃はダメでも、これなら……直感だがそう、思っていた。しかし、手が震えて上手く構えられない。足も震えてきた。

「僕には、無理だ……」

「落ち着け、透」

 後ろからの声に振り向くと、知らない青年がいた。

「なんで、僕の名前を?」

「まぁ、気にすんな! 俺がアイツを倒す! これでな」

 と言うと、箱型のモノを腰に巻いた。

『アースドライバー』

 システム音がなる。青年は五百円玉くらいのサイズのチップをベルトの上面スロットに装填した。

『烈火』

 続いて、ベルトサイドにあるトリガーを引く。

「変身!」

 引いたトリガーを押し戻す。すると周りに炎がゴツゴツとした鎧に生成され、青年に装着していく。兜も装着した後には、腰に刀が出現する。

「灼熱の鎧武者・烈火! 参る!」

 鎧武者は抜刀し、刀に炎を纏わせて鋼鉄の魚人に向かって走り出す。

「焼き尽くしてやるぜ!」

 間合いに入り、炎の斬撃を繰り出す。しかし、鋼鉄の鱗が炎を消し、刃を通さなかった。

「なっ!?」

 魚人は刀を掴む。そのまま鎧武者から奪い取り、投げ捨てる。そして、鎧武者の胸部に爪での攻撃を連続で叩き込む。とどめとばかりに、魚人の口から水の波動を繰り出す。攻撃をモロに受けた鎧武者は大きく後ろに飛ばされてしまう。

「ぐわぁ!」

「ウォォォォォォォォォォ!」

 勝利の雄叫びをあげる魚人。僕は鎧武者のもとへ向かった。

「大丈夫ですか!?」

 鎧武者は瓦礫を退かして座り込んでいた。

「ハハハ、思ってたより強いな、アイツ」

「大丈夫そうですね……」

「ああ、なんとかな。俺が出せる最大火力の必殺技なら倒せそうだ。でも、それには透、お前の力が必要だ。お前が必殺技を溜める時間を稼いでくれ」

「えぇー! 無理ですよ! 僕なんか役に立ちませんって!」

「一発だけでいい。そいつで一発だけ当ててくれたら、俺がアイツを斬る」

「無理ですよ! 僕なんか足手まといになるだけですから……」

「お前ならできる! なぁ透、お前は何がしたいんだ? 俺はな、メタルビーストを生み出しているヤツを見つけて、父さんの敵を討つ!」

「僕は……僕は……」

 何も浮かばなかった。いや、浮かんだとしてもそれを実現するのは僕には無理だと思ったからだ。

「……まあ、無いならいい! これから見つければ! とりあえず、俺はアイツを追うぞ、お前も来い!」

 僕は鎧武者に連れられて先程の戦場へ戻った。そこには逃げ遅れた人を襲っている鋼鉄の魚人がいる。

「待て! 俺が相手だ!」

 鎧武者は魚人に向かって再び走り出す。魚人は爪での攻撃で迎え撃つ。鎧武者は前転で攻撃を躱し、刀を取り戻した。そのまま振り向かって魚人の横腹に刀を当てる。そして素早くベルトのトリガーを一度引き、戻す。すると刀が黄色の炎を纏い魚人の水分を瞬時に蒸発させていく。

「黄炎一閃!」

 魚人の腹部を横一文字斬りにする必殺技。

「ガァァァァァ!」

 モロに受けた魚人は大きく後退する。

「グロォォォォォ!」

 しかし、魚人の本気を出す引き金を引いてしまった様で、魚人は猛攻を仕掛けてくる。鎧武者は防ぐ状態が続いた。

「くそっ! このままじゃ……」

 圧倒的な連撃を捌くことしか出来ず、反撃に転じられない鎧武者。このままではジリ貧だ。この状況を打開するには……

『一発だけでいい。一発だけ当ててくれたら、俺がアイツを斬る』

 僕がやらなきゃ……僕がやらなきゃいけないんだ!!!

「うわぁぁぁぁぁ!!!」

 僕は震える手を必死に押さえて、鋼鉄の魚人に銃口を向ける。

 引け……! 引くんだ!

「うおぉぉぉぉ!!!」

 バンッ! やっとの思いで引いた引き金。その銃から放たれた銃弾は僅かにずれ、魚人に当たることは無かった。

 ……やっぱり、僕には……

 鎧武者を後退させた魚人は次に僕を標的にして、まるで、逃れることのない獲物を追い詰めるようにゆっくりとゆっくりと近づいてくる。

「いや……当てなきゃ……僕が当てなきゃ……!」

 目前まで迫った魚人は、僕を仕留めるために爪を振り上げる。

「僕は……僕は……」

 さっき、口にできなかった目標を僕は、発していた。

「僕は、この戦いを記すんだぁぁぁ!」

 バンッ! 至近距離で放った銃弾は魚人を大きく後退させ、膝をつかせる。

「やればできるじゃねぇか! 透! あとは任せろ!」

 僕と魚人の間に紅蓮の鎧武者が入る。鎧武者は素早くベルトのトリガーの引き押し戻すのを三回繰り返す。そして、いつの間にか納刀していた刀を抜刀する。

「最大火力! 蒼炎烈火!」

 抜刀した刀身は青い炎を纏う。鎧武者は真横に魚人を斬り、青い炎が魚人の水分を蒸発させ、鋼鉄の体を熔かす。

「うおおおおお!」

 鎧武者は素早く刀を上段に構え直す。そして今度は縦に振り下ろす。

「十字火!」

「グギャアアアアア!」

 十字に斬られた魚人はドロドロと熔けていき、消滅した。


 鎧武者は変身を解き、青年の姿へと戻る。

「はぁ……はぁ……よくやったな! 透!」

「ふぅ……はい! ありがとうございます!」

「……お前はもう大丈夫だな、俺は行くぜ」

「……えっ?」

「もうじき透の記憶が消える……じゃあな」

 去ろうとする青年の背中に僕は、

「……待ってください! 烈さん!」

 名を呼んでいた。

「……! 透、お前……!」

 驚いた表情で振り返る烈さん。

「あれっ? 記憶……消えてないです……!」

「透、お前が【アンチ】だったとはな……透、一緒に来ないか?」

「……? は、はいぜひ!」


 これが僕と火炎の鎧武者烈火こと烈さんとの出会いだった。

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