交渉

 俺は護衛の大勢いる此処だと話せないと4人だけにさせた。渋るかと思っていたが、アグラーヤはすんなり護衛を退出させたのだった。



「では、何かありましたらすぐに呼んで下さい【工場長】、失礼します。」



 最後に護衛隊長が出ていき、この部屋には四人だけになった。



「【工場長】?」



「ああ、ジャンク・ヒルズこの街は元々大規模な工場だったのだよ。食料品から兵器まで多岐にわたって作り出されていたのだが、それが祟って今ではゴミ山とそこから生み出された機械の化け物の巣だ。そんな経緯があるから街の顔役は【工場長】と呼ばれているんだ、最もこの数十年は私から変わっていないのだがね。」



 やはりこの人もデザだったか…見た目は四十代のコワモテ美人だが年齢は軽く百歳以上とかやはり驚きだ。



「さて…単刀直入に聞こうか。こちらに益のある話とは一体何かしら?」



「ではこちらも率直にいきましょう。彼女達、ユウヒとオルヌが暮らしている農場から定期的に飲料水を卸します。もちろんを使う事込みでね。」



「!!ほ、ほう、それはかなり魅力的な提案だねぇ…その話が本当だとすれば、だ。」



 やはりこの人も飲み水に関しては興味を引くようだ。もちろん信じてもらうには今も昔も百聞は一見にしかずだろう。



「もちろん、現物もあります。こちらをどうぞ。」



 俺はそう言うと持ってきていた水筒を取り出し、アグラーヤがいつの間にか出したであろうワイングラスに注いだ。



「……にごりは見た目には全く無し、匂いもない…さて味の方は…」



 アグラーヤは躊躇いなくグラスの水を飲み干した。

 俺が気にするのも何だが、毒が入っていないとか警戒しないものなのか?



「…ほぅ、これはまた久々にこんな水を飲んだな……フフッ、味の方も合格だ。ああ、ヒラオカ君の考えていることはデザの特性だからとしか言えないな、私にも詳しい話は分からないんでね。」



「おや、アグラーヤは読心能力者でしたか?」



「いやいや、そんな心配そうな顔をされたら誰でも分かるさ、フフ…こんな気分の良くなった事も久しぶりだな。」



 すると交渉が終わったと見たユウヒが話を終わらせようとしてきた。



「商品の吟味は済んだかしら?なら私達の邪魔はしないようにね。二人共、行きましょう。」



「あーあ、私も水飲みたかったなぁ。」



 ユウヒとオルヌがそう言いながら部屋から出ていこうとする。



「では私も…「待ちなさい、今日はもうすぐ日が暮れる。それに明日はちょうど月初めだからマーケットが開く、三人とも今日はここに泊まるといい。」…いいんですか?」



 ありがたい、しかしこの二人とはあまりよろしくない関係だと思ったんだが…



「あら?私達もいいの?何をたくらんでるのかしら?」


「へぇ~、私達の仲が羨ましいから良いところ見せようとしてるのかな?キッシシシシ」



「やかましいぞ!お前達を放置していたら問題ばかり起こすからな!こちらで目を光らせておく!く・れ・ぐ・れ・も勝手にウロウロする事がないように!もし出かける場合は周りの護衛に言付ければかまわん。」


 机をぶっ叩いて声を荒げアグラーヤはそう言い切った。

 そういう事なら遠慮なく泊まっていくとしよう…そうだ、貰えればラッキー程度だが…


「ありがとうございますアグラーヤ。もう一つ、こちらはあればで結構ですがこの街の地図といいますか工場時代の施設配置図みたいなものがあれば見せて頂いてもよろしいですかね?」

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