怪しい雲行き
先日からの賑わいそのままな市場を通り過ぎ、ストレイ・キャッツの前にたどり着いた俺は、周りを見回してみたが古そうな戦車や装甲車両が数台あるだけでホープが乗っているサイドカーは停まってはいなかった。
「ホープはまだ来てなさそうだな…」
仕方ない、彼女が来るまで中で待たせてもらうとしよう。
ドアを開け中へ入っていくと、結構な人数が各テーブルに散らばって話をしたり酒を飲んでいた。奥のテーブルには一番人数が集まりその中心で誰かが話をしているのが見えた。
「表の車両集団の持ち主か?それよりマスターは…あ、いた。」
相変わらずのいぶし銀なマスターだったが、コップを磨きながら前にもまして不機嫌さが表情と雰囲気両方を醸し出していた。
「やあマスター、先日ぶりだな…ずいぶん不機嫌そうだが、どうかしたかい?」
「…あん?…ああ、おまえさんか…見ての通り嫌な団体様のご来店でほかの客が帰っちまってな、不機嫌にもなろうってものさ。」
奥のテーブルをちらりと見ると、マスターは俺にそう言ってきた…よっぽど厄介なお客さんたちらしいな…
「…お前さんも絡まれる前に退散したほうが利口だぞ?あのデザ達もいないようだし、出直したほうがいい…」
「そうしたほうが良さそうだ、前言ってたアレの相談はまた今度頼むわ。」
俺はそのまま相手の方を見ずに出口へと向かったが、途中で厳つい女達が前を塞いだ。
「よう兄ちゃん!酒場に入ってすぐ帰ることねぇだろ、奢ってやっからお酌してくれよぉ」
「へっへっへ…ここら辺じゃ知らないかもしれないが、ウチらは結構な有名人なんだぜ!仲良くしておいて損はさせねえぜ?」
進路を塞がれ、いつの間にか周りにも同じ連中が屯してこちらをニヤニヤしながら眺めていた…
「悪いが、自分で自らを有名とか言ってる奴は信用しない事にしてるんだ。」
「あ゛あ゛!?何生意気な事抜かしてんだ!?ノマの゙男なんざ黙ってウチらに乗っかられてりゃいいんだよ!」
「ギャハハハ!ちげぇねぇ!おい兄ちゃん!生意気な態度に免じてここの奴等に一発ずつで勘弁してやるよ!」
「ヒュー!やったぜ!」
「アタシ1番!」
「ウチは最後でいいわ、だから壊しても構わないでしょ?」
「えぇ!?お前この間そう言ってバラした奴の掃除やらなかったじゃんか!後始末はテメェでやれよ?」
こいつらマジでヤバイ奴等だ…!盗賊と変わりゃしない!何とかして逃げないと…
「おやおや諸君、何をしているのかね?」
「!こ、こりゃあ大隊長!へっ、へへちょいと男にお酌を頼んでたところでさぁ、もちろん大隊長程のいい男ではありませんが…」
「ふふふ…まぁ私は男性のデザという特別な存在だからね、仕方ない事ではある、あぁそこに突っ立っているノマの君、我が隊の人員に酒を配るんだ、ついでに慰安業務も命じる、しっかりと働きたまえ。」
いきなり金髪のやたら綺麗な軍服を着た顔の整った男がそうのたまってきた。
……なにいってだコイツは?
「断る、なんでお前等に関わらなきゃならないんだ。」
「おやおや…田舎者は物を知らないと見える、いいかね?西方にてかの有名な死の旅団、その第一戦車大隊を率いる大隊長であるこの私、サメカ・グッド中佐が命じているのだ、喜んで励むのは当たり前でましてや断るなんて持ってのほか…全く常識というものがない…これだから田舎者のノマは手がかかるというものだ…ふぅ…」
な、何だこのフザケた野郎は!人を何だと思ってやがる!?
「お偉い大隊長さんは耳が聞こえなかったらしいからもう一度伝えてやる…返事はNOだと言ったんだ!」
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