生きるためには

 奥に行ってみると、オルヌと呼ばれた少女が水を美味そうに飲んでおりその横ではユウヒと呼ばれた美人さんが、大きいジョウロに水を入れていた。



「…わざわざジョウロで水を撒くよりホースから撒いた方がいいんじゃないか?」



「おいおいオニイサン、そんな水が思う存分あると思うのか?」



「……まあ、無いだろうな」



「ここに来るまでにさんざん見たろ?こんな荒野のど真ん中、なんざ奪うしか手に入れられないってな、まっあきらめな。出ていくにしても、こっから町までは歩くと遠いから途中でミイラに変身するのがオチだからねぇ?」



 オルヌと呼ばれた少女が水を飲み笑いながらそう言ってきた。ここまで来るのに水分をかなり使ってしまい、残りも没収されてしまった。では、詳細な位置がわからない町めがけて水分がない状態で歩いていけばどうなるか?結果は子供でも分かりきっていた。



「とりあえず、水の確保を最優先に行動するとして……ここは一応農場みたいだからどこかに取水施設はあるはずなんだが……」



 あたりを見回してみても、大きめの山積みされたガラクタと壊れた機械、少し奥には荷台に銃が据え付けてある軽トラックが停めてあった。



「うはぁ、荷台に重機関銃くっつけてあるとかマジでマッドなマックスとか世紀末救世主的なせかいになっちゃってるのね………」



 そのまま反対側の出入り口から外に出てみると、水を入れ終わったのだろうユウヒと呼ばれていたほうの女が水を地面に撒いている。



 しかし……この地面の状況……



「なあ、農家じゃないから詳しくはわからんのだが、素人目に見てもここってのうちにむいてないんじゃないか?そもそもその水の量だけでは足りんだろ?」



 さっき見た畑よりもマシだが、今水を撒いている地面を見ると、石ころはまだまだ大小残っているしかろうじて生えている草もほとんどしなびているというよりもはや枯れているといったほうがいい。しかもあちこち骨やら肉のかけらが散らばっていてどう見ても作物を育てる環境にはないと判断できる。



「……うるさいわね、肥料になりたくないのなら黙っといたほうがいいわよ……」



「……了解だ」



 取り付く島もないとはこのことだな



「キシシシ♪久々にいい水飲めたよオニイサン」



 どうやら元気そうな見た目に反して結構限界だったようだ、残っていた水ほとんどを飲み切ってしまっていた。



「なぁ、あっちの畑?なんだが……」



「ん?ああ、あれはユウヒの趣味というか生き甲斐というかそんな感じ。こんなご時世によくやるよねぇ。オニイサンもそうは思わない?」



 そんなことを笑いながら聞いてきたオルヌだったが、その目は真剣なものだった。



「……こんなご時世だからこそ、結果はともかくああやって何かを生み出そうとする行為はすごいんだろうな…」



 実際に方法はともあれ行動しているというのは凄いと思う。どれだけの人が思うだけで行動に移すことが出来なかったことか。

 それで結果が出ないと結局叩かれてしまうのが俺の知ってる世の中だったが、ここではそんな事言うやつは荒野に屍を晒すだろう。



「……ねぇ、オニイサン何者?そんな事言ってくる奴今までいなかったんだけど?」



 それはそうだろう、こんなご時世になる前に生きてた人間なんだから、根本的な価値観が違っている。



「荒野で迷子になっていたただの気の良いお兄さんだよ、そんなことよりさっきまともな水って言っていたがはあるってことか?毎回こんなことしているんじゃ君たちも生きられないだろうし、俺も水のまないと死ぬしな。」



 そう問いかけると、彼女は建物の裏側へ歩いて行った。



「手間かけさせなかった礼と言っちゃなんだけど、こっちに取水装置があるんだ、案内してやるよ。もっとも、うちら【デザ】なら飲めないこともないって感じだけど、【ノマ】のオニイサンなら飲んだらどうなっちまうのかねぇ。キシシシシシ♪」








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