第25話 暗の影
賑やかな街並み、武装した人間が行き交う大通り。王国とは違った光景である。
「冒険者、多いね」
「うん。仕事を無くした王国の冒険者の多くが、この旧帝国に仕事を求めてやってくるんだって」
プランタとベルの二人は冒険者登録を行うため、「集会所」に向かっていた。
旧帝国に冒険者として潜入するにあたって、いつものようなゴスロリと貴族のおぼっちゃまの格好で行く訳にはいかない、そんな冒険者がいるかよ、というクロのお言葉により、二人は渋々、駆け出し冒険者のような格好に変装している。
クロから貰った装備は、王都の防具屋で揃えた革の防具だった。それに加えて、プランタには鉄の剣、ベルには銀に光るダガーが与えられた。
学院から支給される資金はそれなりなんだ、安く簡単に揃えることができて良かった、とクロは嬉しそうに言っていた。
魔法に精通したこの国では、下手に魔法使いとして目立ってしまうと面倒なので、なにかと魔法で解決させがちなプランタは、原則鉄の剣で戦闘するように言われている。
プランタは魔法特化と言えど、この世界では破格な存在であるため、剣を振って戦うことはある程度できる。
一騎打ちであればそこらの人間の騎士団と互角にやり合える力は有している。スキルや体術をフルに使用するとしたら、プランタの圧勝だ。
「着いたよ、プランタ」
青い屋根の非常に大きな建物、この世界の冒険者が一挙に集まる集会所。
中に入ると、たくさんのテーブルとイスがあり、様々な格好をした冒険者が、クエストやダンジョンについて語り合っている声が聞こえてくる。
また、建物は何度も増築を繰り返した跡がある。恐らく、王国からの冒険者がここに集まってきたことで、それに合わせて冒険者の組合の規模も大きくなっていったのだろう。
二人は中央のカウンターまで進む。
「ようこそ、冒険者さま。本日はどうなさいましたか?」
「冒険者登録がしたい」
「王国からの冒険者様ですね! 遠路はるばるお越しいただき、ありがとうございます!」
本当に遠路でした。
赤ぶちメガネで黒髪ボブの、元気な受付嬢が続けて説明する。
「冒険者様方には全員、こちらの冒険者バッジを身に付けて頂くことが義務付けられております! 今回、御二方は最初の冒険者登録ということで、黒のバッジをお付け下さい!」
二人は差し出された黒のバッジを、手の平に乗せてまじまじと見る。
「黒のバッジは黒階級の冒険者、つまり一番下の冒険者階級を証明するものとなります! 階級は、下から黒、白、黄、赤、青、一番上は紫までございます! ぜひ紫階級冒険者を目指して頑張ってくださいねッ!」
受付嬢はウインクをしながら人差し指を立てて、じーっと二人を見ている。
それを真顔で見つめる二人。
ケホンと咳払いをして頬を赤らめながら受付嬢は続けた。
「と、とにかくこちらのバッジがあれば、旧帝国近隣のダンジョンや遺跡には入り放題なので、依頼やクエストをこなして、思う存分冒険者ライフを満喫してください!」
プランタが質問を切り出す。
「紫階級の冒険者、今どれくらいいるの? 何人?」
「それがですね……。現在の正確な人数は、こちらの組合でも把握できていないのです。知っていますか? 最近噂の『宝器狩り』」
「うん、宝器を使う冒険者を襲って宝器を盗んでる奴でしょ?」
「はい……。紫階級の冒険者のほとんどは、宝器使いの冒険者でして、その宝器狩りに襲われて大ケガを負い、冒険者を引退する紫階級の方や、最悪の場合、人知れず殺されてしまった方もいるという噂があります……」
「そうですか……」
「御二方もお気をつけください。宝器を持っていなくても襲われないなんていう保証はありませんから……」
受付嬢は身を震わせて、そう言う。宝器狩りというのは余程恐れられているのだろう。
「分かりました、気をつけます。それではこれにて失礼します。ありがとうございました。行こ、お姉ちゃん」
「お気をつけて」
プランタとベルは集会所を後にする。
前を見て歩きながらベルが言う。
「やはりいるね、クロが言っていた奴。ソッコー見つけ出すよ」
プランタはコクと頷いた後、続けて言った。
「あと、あの受付の女」
「うん、分かってる。詮索はやめて欲しいね」
****
「今日、怪しいヤツらが来たんだ……」
暗く細い路地裏で、お揃いの黒いパーカーを着た三人の少女が集まり、話していた。
三人ともそれぞれ違う方向を向いている。
「怪しいヤツ? どんな?」
「レ、レベルだよ。とんでもない二人組が来たんだっ……」
「『リビールステータス』を使ったのね」
「とんでもないって、何レベ?」
「小さい男の子は二百六十、女の方は二百九十レベル以上は確実にあった……!」
「……! それは本当なのね?」
「ああ、平然を装うのがやっとだったぜ」
「これはほぼ確定。監視必要?」
「いえ、やめておきましょう。おそらく物理的にやっても魔法的にやっても、監視なんて直ぐに気づかれるわ」
「でも、そのまま野放し?」
「そうね、まずはそいつらの化けの皮を剥ぐとしましょう」
「でもよお、ボクたちが直接手を出すのはまだ危ないと思うぜ? そいつらを操ってる親玉がいるかもしれないしな!」
「大丈夫。それも考慮した上で、もう準備してるよ」
三人は喋り終えると徐ろに歩きだし、暗い路地裏の奥に消えた。
最強の俺は、とりあえず魔物も世界も分からせることにした【旧題:魔消の記憶】 草ふかみ @kusafukami
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