第24話 金髪の牧師

「はあっ……! はあっ……! んくぅ……はあっ……!」


喉が熱くて苦しい。今日の私、まじでツイてねェな……。

赤髪で背の高い少女フーレンは、木漏れ日の差す森の小道を死にものぐるいで走っていた。


フーレンは、腰のベルトで揺れている太古の法具のようなものに手を当てる。


「コイツだ……。あいつらどーせコイツが目当てなんだろ……! ったくよお……。はあはあ……!」


しばらく走ると、開けた道の脇に非常に大きな倒木が数本あった。幹の幅はどれも一メートルほどありそうだ。

フーレンは素早い身のこなしで幹に片手をつき、ひとつの倒木を飛び越えてその後ろに隠れた。

必死に呼吸を落ち着かせる。くっそ、心臓の鳴る音が、周りに聞こえちまいそうなくらいでけぇ。


(ばあちゃん……)


法具を見つめ、心の中で祖母の顔を思い浮かべる。

倒木の後ろから少し頭を覗かせ、辺りを見る。

追いかけてくる奴らはいない。なんとか撒いたか……。


「あーあ、今日の採集はやめだ。帰ってメシの支度でもするか」


ダルそうに独り言を吐き捨て、立ち上がって前を向く。しかし、次の瞬間いきなり頭に鈍い痛みが走る。すげえ痛い。なんなんだよ。……殴られた?


閉じそうな視界が目の前でギリギリ捉えたのは、歯を見せて笑っている追っ手とその仲間共の姿だった――。


「……オイ! こいつはきっとなかなか上等モンだぜ!? 売ったら高えぞ!」


うつ伏せで倒れたまま、体に力が入らない。


「この森で採集してる赤毛の女がいいモン持ってるって、あの方が言ってた通りだったなあ!」


クソ、やっちまった……。盗賊共め……。


「フヒヒ……。おい、これどこで売ったら……うぐはあっ!」


盗賊が話していた途中、グサッという音と共に、盗賊の話し声は呻き声に変わる。


(これは……。人が刃物で貫かれた音だ……!)


フーレンはうつ伏せで倒れているため、状況を見ることはできなかった。

その後低い声が喋り出す。


「ダメじゃあないか。これは、盗賊ごときには勿体ない」


「なんだキサマ!」


「スカしてんじゃねえよ! やっちまうぞ!」


ザスッ……! グシャ……!


「か……かはっ……!」


フーレンはなんとか目を開け、ぼやけた視界で、血を吐いて倒れる盗賊と法具を手に持ってこちらを見る牧師の格好をした金髪の男を確認した。

金髪の牧師。噂には聞いていたが、まさかコイツか……。


「てめえ……。宝器狩りだろ……!」


牧師の男は何も言わずその場を去っていった。


****


「ですから、お通しできません」


「いやあ、そこをなんとか」


「申し訳ありませんが」


果てない荒野を抜け、ベルとプランタは旧帝国に到着していた。しかし国境の門にて門番と揉め中である。


「先程から申し上げていますように、旧帝国の許可証をご提示いただかないと、王国から来た方を中に入れることはできないのです」


門番は、はっきりとした口調でゆっくりとプランタに説明をする。


んー。とプランタは考えるふりをしたあと、門の向こうを覗き込み、もう一度門番と向き直る。


「通して?」


門番は頭を抱える。


やがて様子を見兼ねたベルが、プランタの後ろから恐る恐る登場した。


「こんにちは、すみません! 事をあまり大きくしたくなくて黙っていたのですが、僕たちこういうものでして……」


ベルはポケットから銀のネックレスを取り出し、門番の前に突き出した。


「そそ、それはチイサ家の家紋! 本物だ! 大変失礼致しましたあ!」


門番の顔は青ざめ、後ずさりをする。


「もちろん、チイサ家とは確認を取っていますので、このことは内密にお願いいたします」


「は、はあ!」


敬礼をする門番を後にし、ベルとプランタはようやく旧帝国への侵入に成功した。

ベルが呟く。


「またダメだったね」


「……ふん」


ベルは小悪魔のように笑ってみせた。

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