第23話 旧帝国の潜入

冒険者。それは、ダンジョンの探索から国内の平和を脅かすモンスターの討伐まで、国の中での困り事などを解決する、重要な仕事である。


かつてのタイムズ王国は、そんな冒険者で溢れており、人々を守るかっこいい存在として子どもたちの憧れの的であった。

しかしタイムズ王国では、ある時を境に各地で宝器が出現するようになり、その規格外な宝器の力を求めた国の人間は、次々と宝器と契約を結ぶ。

一般の冒険者と宝器使いの能力の差は圧倒的であり、冒険者のやっていた「人々を守る仕事」は、やがて宝器使いに盗られていくのだった。


そうして居場所を失ってしまった冒険者の中には、宝器使いへと転身する者、冒険者を卒業し地元に帰って静かに暮らす者がいた。


しかし、どうしても夢を捨てきれなかった一部の冒険者らは、新たな仕事を見つけるべく「旧帝国」へ居場所を変えたのだった。


****


ガチャリ。


気だるそうに寮室に入ってきたのは、三色宝器のひとり、エーテだった。


「んあれ、プランタとチビはどうしたんだよ」


「ああ、あいつらにはもう旧帝国に向かってもらった」


「あ、ほーん……。は!?」


だらけきったエーテの背筋が跳ね上がる。


「アイツらオレのこと置いてったのかよ!」


「置いていってはないよ。俺が二人で行くように指示した」


「そりゃねえぜクロぉ」


エーテは項垂れながらソファに向かう。


「旧帝国は腕の立つ冒険者ってのがいるって聞いたから行くの楽しみにしてたのによお……」


「本当にすまない、エーテ。色々あって旧帝国の冒険者共とは友好的な関係を築きたい。よって、冒険者との戦闘は避けるように二人には言ってある」


「チッ。つまんねえぜ。この前のヤツだって期待してたのにあの程度だったしよお」


この前のヤツというのは、フーラスト山脈にて見つけた《エクレール》という宝器のことか。

あのままあの宝器を放っておいたら王都は半壊していたかもな。

王都にヤツ以上の実力を持った宝器、または宝器使いはいないだろう。噂の《セントラルハート》を除いては――。


「分かってくれ。お前ら三色の宝器とつり合う敵を見つけるというのは非常に困難だ。なによりそんなモノがひょいひょいといてくれては困るけどな」


「それを見つけに行かせたんだろ? 旧帝国によ」


俺は「分かってんじゃねえか」とだけ言い残し寮の部屋を出た。


****


「ベル。さっきからずっと同じ景色。もう飽きた」


荒野を歩く女と少年。


「それは僕も同じだよ。でも頑張ろう? お姉ちゃん」


プランタとベルは、クロの命令により果てしなく続く荒野をひたすら歩き、旧帝国に向かっていた。


「暇。だるい。もう使う。転移の魔法」


プランタは目を光らせ、詠唱しようとする。

プランタとベルを中心にして、どこからともなく魔力の波動が吹き荒れる。


「うわあ! だめだめっ!」


旧帝国は、魔法に関して非常に造詣が深い国である。現状、魔法が得意な宝器の殆どは旧帝国にて保管されており、魔法師と呼ばれる研究者達によって魔法の研究が進められている。

よって旧帝国自体の防衛システムは、魔法察知にも優れていると推測されるため、「プランタの転移の魔法で旧帝国の領地に近づくなどの怪しまれるようなことをするなとクロから注意を受けている」のだと、慌てて説明するベル。


「……。はあ」


プランタは大きなため息を吐き捨て、果てしない荒野をまた歩き出した。

それを見届けたベルも同じため息をついて、プランタの後ろを着いていくのだった。

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