第22話 作戦の変更
「よくぞ生きて帰った。早速ではあるが、君たちが見たものを話してくれ」
宝器討伐の任務を終え、王国に帰ったロートスとキークは、セント城の屋上庭園でリベラ国王陛下の前に跪いていた。
「はい、私たちは確かに見ました。クロ・アストルが、宝器〈エクレール〉を単騎で討伐する瞬間を」
ロートスが報告をする。しかしその彼女の顔は、どこか心ここに在らず、といった雰囲気だった。そしてそれは後ろで跪くキークも同じだった。
リベラは、彼女たちはきっと危険な任務の中、クロ・アストルの人間ならざる力を目の当たりにし、心も体も疲弊しているのだろうと思った。
リベラは玉座に深く座り直す。ひとつ、肩の荷がおりたようだった。
「これで英雄は成った、か。ご苦労であった。疲れただろう、ゆっくり休んでくれ。君たち二人には褒美をやらなければな。しかし……」
今回討伐された宝器〈エクレール〉は、何百年も前に王都周辺で暴れ回り、宝器の中でも特に力を持ったものだと言い伝えられている。当時は王都でも名の通った王国貴族、フレイム家が、暴れるエクレールを満身創痍で討ち取り無力化した、という話は王国ではとても有名な話だ。
そんな宝器をあの男は一撃、か。
「いつまでも味方でいてもらわないと……な。王国の完全な平和まで……」
****
とても暖かい日差し。少し汗ばむくらいだ。最近は王国の気温変動が激しく、風邪をひきそうである。
クロは寮の部屋でエーテ、ベル、プランタの報告を聞いていた。
「宝器〈エクレール〉は無力化した。当分、奴は宝器としてこの世に現出できないだろうな」
「エーテが宝器の相手をしている間、付近で邪魔する者や物理的な監視はなかったよ」
「ご苦労さま。あの二人の人間はどうだ?」
プランタは真っ直ぐ一点を見つめ、淡々と作業のように報告し出した。
「若者宝器使い共の精神支配は成功した。クロの現実離れな魔法を見た後だったから既に精神は不安定な状態で、支配は簡単だった。彼らには陛下に虚偽の報告をするよう言ってある」
張り詰めた空気の中、クロは薄く微笑んだ。
「これで王国の神官長ウルクスとその宝器使いの人間二人が俺たちの駒になってくれるワケだな」
「そういえばそのウルクスとかいう老人はどうやって言うことを聞かせたの? クロくんが単独でやったみたいだけど」
「ああ、ヤツは国の史書を集めているらしくてな。史実に興味があると言うので、俺の知る限りの国の古い史実を聞かせてやった。泣いて喜んでいたぞ」
「は、はあ」
「ねえ、クロ。あなたはなぜそんなに国の史実や宝器について詳しいの? どちらもこの国では、失われた歴史なのに」
「失われた、か」
クロは微笑を浮かべながら言う。
「悪いが今それに答えることはできない。まあいずれ分かることだ。それまで待ってくれるか?」
プランタは何かを言いたそうではあったが、そのまま素直に頷いた。
そうして少しだけ静かな間が続いた。しばらくすると、その間を切り裂くようにクロが喋り出す。
「そうだ、こちらも報告をしなくてはな。俺は三人と別れたあと、エキドナ? とかいう魔物と対面し、勝利した」
「へえ。そいつは強かったか?」
「ハッキリ言ってしまえば、我々のうち一人がそいつと対面しても、問題なく勝利できる程度だ」
「なるほどな……」
エーテ――戦闘狂は少し肩を落とす。
「エーテ、すまないが仕方ないことだ。それよりも俺が感じたのは……。前から思っていた」
クロは残念そうな顔で続けた。
「そう、この国の宝器使いが弱すぎる」
床に座っていたエーテとベルは苦笑いを浮かべる。
――あんなものでは、全く話にならないんだよ。
「作戦変更だ」
クロは立ち上がって言う。
よって俺は、この国に「現実」を見せてやる――ことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます