第15話 爆炎の業火―2
揺れる草木を見つめ、心の中でため息を着く。
この庭園に身を隠してどれほどの時が経っただろうか。リベラ・ユニベアス・タイムズ国王陛下は、城の外の世界が恋しくなっていた。城の従者による監視魔法によって外の世界は自由に見ることができるが、やはり外の空気、国民が息づく土地をこの身体で感じたい欲求は満たされない。
「失礼します、陛下」
短い真剣な口調とともに花のアーチから姿を現したのは、学院の生徒、ロートス・ミョウチャンとキーク・チイサだった。
この二人は、宝器討伐隊として協力してくれている学院生であるクロ・アストルとカイ・サマルカに次いで、宝器の扱いが優秀な学院生であると噂されているのだった。
「よく来てくれた。ロートス、キーク」
リベラ国王陛下から見て右に立っているのが、青い髪色でお団子ツインテールの女子学院生、ロートス・ミョウチャンだ。彼女は体術がとても優れており、反りのない刀身の刀の宝器を使う。
その横にいる、緑の髪色でミディアムレイヤーの男子学院生がキーク・チイサである。彼が使用する宝器は魔法のほうきである。これは決して、ダジャレではない。
「お前たちには感謝しきれない。国の未来をある意味本当に担うのは他でもない、お前たちなのだから」
ロートスとキークは黙って国王陛下の顔を見つめ、話を聞く。
「さあ、我らの英雄は果たして真に英雄なのか。そしてその英雄は国を、世界を、どのように救ってくれるのか……。君たちに確認してもらいたいのだ」
****
エーテはフーラスト山脈の麓にて国が追っている宝器を発見した。しかし、そのターゲットである宝器は頭上五メートルほどの位置で浮遊しており、こちらには気づいていない様子であった。
どうしたものか……。まずは相手の防御方法を知るためにも、先手の一撃でも入れてみるか。
エーテは腰に装備していた予備の鉄の剣を抜く。するとそれを逆手に持ち、肘を曲げて上に振りかぶった。次に腕を前に思いきり振り下ろし、金髪のターゲット目掛けて剣を投げる。衝撃波とともに剣は凄まじいスピードでターゲットに近づく。
「ア?」
ガシャアン……!
しかしターゲットは横に避けて、飛んできた剣を何ということもなく瞬間的に握りつぶすのだった。
「遅せェ……。遅せェよ。なんだこの剣、遅せェよ……」
「いや、すまねえな。お前がこっちを見ないからよ。つまらない挨拶をさせてもらった」
「誰だお前ェ。お前ェにかまってたら、俺様のやりたいことが遅くなっちまうだろうがァ」
「なんか急ぎの用でもあんのか?」
「お前にはぜってェ関係ねェ……。んで、俺様の邪魔すんのかしねェのか早く言えよ、遅せェな」
「ああ、オレはお前の邪魔をしに来た。お前の用事は知らねえけどな。ちょっと付き合ってくれねえか?」
「フン」
すると浮遊していたターゲットは降下し、地面にゆっくりと着地した。
「てめェ、宝器か。飼い主の人間に俺様エクレールを殺して来いって命令されてんのかよ。笑えるな」
「まあ、そんなところだ」
「キャハハハハハッ! 契約もしねェで人間とつるんでんのか! そんな半端な奴が俺様に勝てるわけねェだろ!?」
腹を押さえながらエクレールは高い声で笑った。
「お前ェやってる事が遅せェよ! まあいいわ、お前ェ殺して早く王都行って、あの女も殺してやる」
「あの女?」
「ああ。たしか百年前だったか?思い出すとムカつくぜェ! 俺様を片方破壊して去ってった女ァ!」
「片方破壊だと」
エーテはベルの言っていた言葉を思い出した。たしかコイツは双剣の宝器だったはずだ。
宝器というのは基本壊れない。ある程度攻撃を受け、戦闘不能にすると「無力化」させることはできるが。
そして無力化したあとは消えていき、この国のどこかに再スポーンする。
片方破壊されたということは、コイツが言っているその女ってやつも、『宝の破器』がある人間ってことか……。しかし、百年前だと?
「ちょっと待て」
「ア? なんだよ」
「この世界で人間はせいぜい平均八十年ぐらいしか生きられねえ。つまりその人間は死んでいる、たぶん」
「は……? じゅう、にじゅう、さんじゅう……」
エクレールは両手を使い、何か無駄な計算をし始める。折る指もめちゃくちゃだ。
しばらくすると、悲痛な雄叫びをあげだした。
「チッ! クソがアアアアア! 人間の寿命、短すぎだろ!? じゃあ、あん時逃げた家族を殺す! あんなことしといて俺様から逃げるなんていい度胸だよなァ! あの家系は全員殺すゥ!」
「おう。じゃあまずオレを相手してくれよ」
エクレールは殺気立っていたが、エーテが一言かけるとエクレールはキョトンとなり、多少の冷静さを取り戻したようだった。
……。
「そうだったな。おし。一瞬だわァ」
エクレールはフラフラと身を低くかまえると、周辺から激しく閃光が放たれた。その閃光が消えると、彼の右手には宝器 《エクレール》が出現していた。
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