第14話 爆炎の業火―1

討伐隊の軍から抜け出したクロとエーテ、ベル、プランタの四人は多少舗装された小道を歩き、森の奥まで進んでいた。


「ベル、ターゲットは見つけたか?」


「はい! えっと、対象は移動速度が優れている双剣の宝器で……」


「そいつの名前は?」


「エ、《エクレール》……っていうんだけど、知ってる?」


「そうか。ありがとな、ベル」


「まさか知ってるの!? エクレールなんて……。今まで人間の世界にほぼ干渉してこなかった宝器だよ?」


「……うんまあ、たまたま知ってたんだ。そんなことより、いつも情報収集や監視の役を引き受けてくれてありがとな」


クロは後ろを振り返りながら続けて言う。


「お前の能力はそれらの任務に適している。オマケに宝器の知識まで広く持ち合わせているじゃないか。非常に助かっているよ」


「え、あわわわ……。勿体なきお言葉!」


ベルは目を見開き顔を赤らめた。

ベルのクロに対する忠誠心はますます高くなる。


四人は進んでいた足を止める。

クロは前を向いたまま指示を出す。


「よし、宝器の相手はエーテに任せる。俺はコソコソ嗅ぎ回っているハイエナを駆除しよう。ベルとプランタは周辺で監視にあたれ。少しでも怪しいことがあったら連絡しろ」


「うん」


「はい!」


ベルとプランタは返事をすると転移の魔法で消えていった。


「エーテ、今回の宝器討伐の手柄を、世間上お前のものにしてやれないことを許してくれ」


「あ? オレは外で気持ちよく暴れることができるならなんでもいいぜ」


戦闘狂からしか出ない発言を頂き、俺はエーテにビーズの入った小さなビンを投げ渡した。


「それはずっと所持しておけ。そうだエーテ。宝器は『無力化』させるまでにしとけよ」


「……。フッハハハハハハハハ! お前それって」


エーテは驚きと興奮の表情でクロを見る。


「つまりオレが『宝器をぶっ壊せる数少ない宝器のひとつ』ってのを知ってて言ってる、ってことでいいのか?」


――しばらく沈黙が流れた。


「ああ。そういうことだ」


噴き出た汗を誤魔化すように、エーテは額に手を当てる。


「クロ、お前はすげえよ。オレがこの世界にずっと存在してきて、オレのその力を知ってこき使ってきたのはお前だけだぜ。どこまで世界のこと知ってんだよ。気味が悪いぜ」


「……そんなに褒めんなよ」


俺はそう言い残し、転移の魔法を発動させてその場から一瞬で消えた。


その時エーテから見たクロは、純粋な人間の味方なのか疑問が残る雰囲気であった。

しかし「気味が悪い」とは言ってみせたが、実際エーテにとってはどうでもよかったのだった。

今知りたいのは、封印から解かれたオレが宝器相手にどこまで戦えるのか、だけである。


「さてと……」


エーテが上を見上げると、周辺に生えている木よりも少し高い位置に、露出度高めな金髪の男が宙に浮いているのを確認した。その男は王都の方角をじっと見つめており、こちらに気づく様子はなかった。


****


神官長ウルクスが率いる宝器討伐隊は、フーラスト山脈にある低い山の中腹に到達していた。

馬車から降りたウルクスは、山脈を広く見渡せる崖に立つ。

付き従う神官たちも馬車から降り、後方で背中を丸め、黙ってウルクスの様子を見ている。


「ここならば国王陛下の監視魔法も少しは届きにくい……」


そして、紫に光る透き通った水晶玉を取り出し、目を閉じて胸の前で構える。


『パーフェクション・ロケートポジション』


ウルクスは目を見開き、水晶玉を覗き込んだ。


「ん? なるほど、まあいい……。『ミスティックマジック・シャットアウト』」


そうウルクスが唱えると、紫の波動が山脈へ行き渡るように広がった。


強めの風が吹いてきた。ウルクスは歳のせいもあってか、寒さが老体に堪える。

タイムズではここ何年か比較的暖かい気候が普通であったが、最近少し寒く感じる日が続いているのだった。

ウルクスは早足で馬車の方に戻る。


「私の役目は果たした。帰るとしよう。それと、ここで私がおこなったことは他言無用じゃ」


馬車の前に立っていた若い神官が返事をする。


「はい、ウルクス様」


「まったく。この国をどうなさる気なのだろうか……」


ウルクスは小さな独り言を吐き捨て、馬車に乗り込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る