第13話 宝器の掃討

とりあえずは『闇夜の化け物』がベルのことだとはバレていない。


「ぜひお任せ下さい。各地で起こっている宝器の暴走、私が即座に終わらせましょう。なんでもお手伝いする、と理事長先生に以前お約束しましたから」


セルニア理事長は申し訳なさそうななんとも言えない顔をした後、クロの方を向いて微笑んだ。

ティフォン公爵が言う。


「おおそうか、ありがたい……! ではこれを渡しておこう」


「何ですか、これは?」


「これはね、転移の魔法『テレポーテーション』が込められているビーズよ! 噛み砕くと、自分が決めた場所に転移できるの! 凄いわよね! もちろん、本物のテレポーテーションよりも対象範囲は狭くなるけど」


この世界で『テレポーテーション』という魔法は、習得に特別な才能を伴う。この魔法自体は第一階級から第三階級のレベルに分けられているが、なんと第一階級のテレポーテーションを習得できない魔道士すらいるわけだ。


よってこれを渡されたということは、戦士系の見た目である俺はテレポーテーションが当然使用できないと決めつけられているようだ。


「このような貴重なもの……。ありがとうございます」


礼を申し上げると、理事長はニッコニコだ。


クロはビーズの入ったビンをシャラシャラと仕舞いながら言った。


「ところで少し、私からも質問をしたいことがございます」


「うむ、なにかね」


「私が入学式で魔の幹部を倒した際、奴が持っていた剣についてですが、あれから非常に強い魔力を感じました」


場の空気が変わる。


「あの剣はどうなさったのですか? また、あの剣について皆さんはどこまで知っているのですか?」


ウルクスがそれに応えた。


「あれは今、城内で厳重に保管中じゃ。強大な力を秘めてる故、どんなものなのかをこれから慎重に調査していくことになっておる 。しかし、それがどうかしたのかね」


「いえ、少し気になっただけです。あの剣が宝器であると判明したら、魔物も宝器を使えるということになりますからね」


「宝器を使う魔物。なんて恐ろしいんだ……。セントラルハーツの報告にも、ここ最近国外の魔物の力が格段に強まっているとあった。魔物の力は未知数か……」


お偉いさんたちはみんな俯いていた。


「ご安心を。国内の宝器を抑えた後は、我々もそちらに加勢しましょう」


……なるほど、あの剣が宝器 《フーリーアス》であること、そしてこの宝器の重要度には気づいていない、か。


****


俺たちは寮の部屋に戻ってきた。


「よし、意見交換をしようか」


エーテ、ベル、プランタの三人は大きなソファ、俺は窓際の一人掛けソファに座る。


「えー、それでは何か気になったことはありますか」


「はい、先生」


「どうぞエーテ君」


「あの白ひげ爺さんが言ってた国の切り札 《セントラルハーツ》ってヤツ。切り札って言うんだから相当強いんだろーな! もし見つけたらオレに戦闘許可をよこせ!」


エーテは座ったまま振り返って、キラキラとした顔を俺に向ける。


「はーい却下でーす。国の切り札を殺してはいけませーん。しかしそのセントラルハーツとかいう奴は確かに気になる。もちろん兵を連れているだろうが、国に侵入してこようとする魔物を全て抑えているということは、単体でも非常に強いのだろうな」


するとプランタが、横に座っているベルを持ち上げて自分の膝に乗せながら言う。


「クロ、考えが及ばない私に教えてほしい。どうして『準宝器』関連のことを聞かなかった? 情報を引き出すいい機会だった」


(あ、しまった忘れてた)


俺は今までなんとかこの三人の前では、まとめ役としてミスのないように立ち回ってきた。よって、こういう端的なミスは……。正直打ち明けづらい。


「準宝器はあの、えっと……」


プランタの膝の上でベルが、クッキーを頬張りながら言う。


「準宝器自体は大したものではない可能性が高いよね! 一応、エヘラ・グレースなる男の店に行って、準宝器を見てきたけど、第三階級程度の魔法が一つだけしか込められていないものや、かと言って強度が特別ある訳でもなくって感じだったし!」


「あ、ああ。実際、彼が作った 《メタモール》は、俺が魔物に一回振るっただけで折れてしまったしな。現状、そんな宝器もどきよりも目を向けるべきものがあるのではないか?」


「確かに。もし敵対意識を持った者に渡っても、そもそも私たちがあんなのに負ける確率ゼロパーセントに近い」


「本物の 《メタモール》はもっと装飾が細かくて、白の輝きが美しいんだよねえ。現代人が模して作っても、やっぱり工神様がお作りになられた宝器には敵わないんだよ!」


「まあ、剣の宝器だったらオレが一番強くて見た目も最高だけどな!」


すると、プランタがわざとエーテに聞こえるように独り言を言う。


「剣なんて距離稼いだあとに遠距離魔法されたらほぼ何もできない。弱い」


「あ? なんか言ったか? 脳筋魔女」


「脳筋なのはあなた」


「お前は楽でいいよな! 遠くからポンポン魔法ぶっぱなしてるだけでよお! こっちは二千年前から頭使って立ち回ってるっつうの!」


「頭使ってる割には二千年前からずっと被ダメージが多いんじゃない? 盾役にジョブチェンジしたら?」


「あーあ始まった……。もう二人ともやめて!」


賑やかだな。


――俺は左手につけている指輪を擦りながら、これからのことについて考えていた。

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