第12話 国のために
転移の魔法により発生した光がゆっくりと消えていく……。光が完全に消えると、薄暗い空間が現れた。目の前はガラス張りになっており、外には眩しい庭園が広がっていた。
大理石の冷たそうな床でぺたんと座り込む城の従者を横目に、俺はガラス張りの向こうにある庭園へ足を進めた。エーテ、ベル、プランタの三人はその後ろを静かに着いていく。
俺は正面を見たまま歩きながら小さな声でベルに命令した。
「お前は赤髪の男に声がバレている。決して奴の前では喋るな」
ベルは沈黙で了承した。
ガラスのドアの前まで行くと、城の従者がそのドアを開けてくれた。おい待て、この従者さっきの奴と瓜二つだぞ?
俺はゆっくりと後ろを見る。しかし、共に転移してきた従者はまだ後ろで座り込んでいた。マジかよ、ドッペルゲンガーかよ、と心の中でツッコミを入れた。
「どうぞ」
従者は俺たちに庭園へ入るように促す。ドアを通った瞬間、とても気持ちの良いそよ風が俺たちを撫でるように吹いた。ここは城の屋上庭園だと聞いたが、空間自体は恐らくフィールド創造系の魔法を使用しているに違いない。あれほど高い城の屋上に、このような広く穏やかな庭園を作るのは難しいだろう。
花のアーチでできた長いトンネルを抜けると、少し開けた場所に出た。
そこには長テーブルが置いてあり、
奥の列の左から、この国の大部分の領地を治めるティフォン公爵、国の教会のまとめ役である神官長のウルクス、学院の理事長セルニアが座っている。そしてセルニアのすぐ横で立っているのが赤髪の男、カイ・サマルカだ。
ここにいる人間の様々な情報は収集済みである。戦闘力的に警戒しなければならないのは二人。
まず、魔法に造詣があり、神秘級のミスティックマジックまでも使えると噂されている神官長ウルクス。そして宝器 《ホーリー・サイズ》を使うカイ・サマルカ。
俺は目線をそのままで片膝をつく。すると後ろの三人も続いて同じように片膝をついた。
「お待たせしてしまったようで申し訳ありません。私がクロ・アストルです」
するとティフォン公爵がこちらを向き、優しい声で喋りだした。
「いやいや、みんなで楽しくお喋りしながら待っていたところだよ。よく来てくれたね、そちらの三人も。直って良いよ」
俺たちは軽く頭を下げ、立ち上がる。
「クロくん久しぶりね。来てくれて本当にありがとう。ひとつイスが空いてるわ! 座る? 学院長のために用意されたイスだけどどうせあの人、来れないから」
それを聞いたカイがムッと表情を変える。
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
「さて、全員揃ったかな」
庭園の奥から威厳ある声色が聞こえてきた。
すると、座っていたティフォン、ウルクス、セルニアは立ち上がりお辞儀をした。それを見た俺たちとカイは慌てて頭を下げた。
「陛下、こちらがクロ・アストルです。恐らく八百年は生きていた魔の幹部ネメアーを一撃で討ち取った入学生でございます」
「おお、そなたが……。大儀であった。顔を上げよ」
これがこの国を治めるリベラ・ユニベアス・タイムズ国王陛下か。王の威厳ってやつを感じるよ。さすが、魔の軍勢襲来による国の混乱を一年ちょっとで沈めた人物だな。
「さて、なるべく手短に済ませよう。クロ殿、先日この国に出現した『闇夜の化け物』をご存知か?」
「はい。しかし噂程度でしか聞いておらず、どのような力を有しているのかは知りません」
するとティフォン公爵が言った。
「カイ殿、キミがその闇夜の化け物と対峙した時の話を今一度聞かせてくれるか?」
カイはやや俯きながら喋り始めた。
「奴はとんでもない魔力を有しています。魔法は神秘級を容易く使用していました。水のような液体に対象を閉じ込める魔法です。圧力のようなものを感じて脱出が不可能でしたので、宝器スキルを使って撤退しました」
「君のような実力のある宝器使いですら歯が立たないとはな……」
「もしかすると奴はもっと上の階級の魔法も行使できるかもしれません。また体術も優れており……」
神官長のウルクスは目を大きく見開き驚愕した。
「バ、バカな……! 神秘級より上の魔法、すなわち『超越級』が使えると……?」
「宝器というのは人間の常識を大きく逸脱すると古くから言われております。そこまで考慮しておく必要があるかと」
「そのような真偽も、盗まれた大量の史書があったのなら分かったやもしれないな……」
「なるほど。しかし現に国内で超越級が行使可能な宝器がひとついる」
クロは眉をひそめた。陛下はこう続ける。
「我が国の切り札、《セントラルハーツ》だ。しかし彼は今、国境周辺で魔の軍勢の動きを常に監視するという役目がある。従って国内部に戻って来てもらうのは、外に対する防衛を損なわせる要因になりかねない……」
「しかし陛下、国内で暴れる宝器は闇夜の化け物だけではありませぬぞ。我々だけではもう対処しきれぬ……」
ウルクスが背中を丸め、小さい声でそう言い終えると国王陛下は俺たちの方を向き、国の未来を見据える真っ直ぐな眼差しで言う。
「それでそなたに、宝器暴走阻止への全面的な協力を願いたい。そなたならば……。我々を、この国を、どうか救ってくれ……!」
――俺は歯を食いしばった。
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