第11話 城の転移魔法

学院に呼び出しをくらった俺とエーテ、プランタ、ベルの三人は寮の部屋を出て、長い廊下を歩き、城の最上階にある屋上庭園に向かっていた。


廊下の左手側の窓から昼の暖かな陽の光が差し込んでいる。俺は出かかったあくびを噛み殺す。なにも用がなかったら今頃部屋で昼寝でもしていたところだ。


長い廊下を抜け、ロビーのような広間に出る。そこには城の従者が真ん中で立っていた。背が低く少年のような見た目であった。


「突然の面会、応じていただき誠にありがとうございます。クロ様とお仲間様をお迎えにあがりました」


広間にいる生徒や学院の関係者は一斉にクロとエーテ、ベル、プランタに注目を向ける。


「おい、あれって……」


「入学早々、魔の軍の幹部ぶっ飛ばしたやつだ」


「後ろにいるヤツらは?」


「仲間……というよりあいつの手下らしい。元冒険者なんだってよ」


「冒険者? なんでそんなヤツらを連れてるんだ?」


この世界で冒険者というのは、国内にいる魔物以外の生物から国や村を守る存在である。とはいっても今、国の中は平和そのものなので、動物の狩猟、採集、探索が彼らの主な仕事だ。

エーテ、ベル、プランタは、「魔物に襲われた際、クロに助けてもらった恩から手下になった元冒険者パーティ」という設定になっている。


すると、従者が喋りだした。


「それではただいまから『転移の魔法』を使用して皆さんを屋上庭園にご案内いたします。よろしいですか?」


「ああ。よろしくね」


従者はクロの返答を聞くと、目を閉じて腕を軽く横に広げた。すると足元に大きな魔法陣が出現する。

しかしこのような魔法陣は見たことないし、知らない。たしかに『転移の魔法』のように見えるが、虚偽の魔法『トリックマジック』を使って我々になにか仕掛けようとしているのではないかと一瞬疑った。

だがそうであれば俺のスキル『虚偽魔法探知』に引っかかるはずだ。


「ふむ。少し尋ねても良いだろうか。俺はこのような魔法陣は見たことがない。特殊な転移まほ……ゲッ!?」


俺が従者に魔法の詳細を質問しようとした瞬間、ふと目を落とすとそこに映ったのは、床に敷かれた魔法陣を這って舐めまわすように観察するプランタの姿だった。


「プ、プランタ……さん……?」


「おい従者……ッ。この魔法の名前は何と言うのだ。そしてこの魔法を私にも教えろ……ッ」


プランタは従者の足元でハァハァ言いながら質問をする。


「こ、これには特別名称はございませんが、我々の間では『城内特定転移の魔法』というふうに呼んでおります……。それと、恐れ入りますがこの魔法は城内の特定の人間以外に使用や伝授は許されておりません! ヒッ……!」


従者は足元に何か異様な気配を感じ、質問に応答しながら目をゆっくり開けると、そこには上目遣いの金髪の美女が非常に興奮した様子でこちらを見ていたのだった。

従者は恐ろしく動揺した。だがここで魔法発動を中断するわけにはいかない。この『城内特定転移の魔法』は一日に使用できる回数が決まっているからだ。


あーあ。従者くん顔真っ赤だよ……。どうしよう……。

するとベルがプランタに近寄っていく。


「やめなよプランタ! クロ様の前だよ!」


ベルが腰に手を当てて這いつくばるプランタに注意する。

するとプランタはフラフラと起き上がる。


「んぬう……。失礼しました」


クロは従者に声をかける。


「す、すまない。彼女は魔法に興味が強くてな……」


エーテが後ろで声を押し殺して笑っている。それは見なくてもわかる。


「はい! そ、それでは転移いたしますっ!」


従者は声を裏返しながら転移の魔法を発動させた。

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