第10話 学院の生活
「えー……であるからして、宝器の使用者は特有の魔法とスキルを使用することができ、それぞれをオーダーマジック、オーダースキルと言う……」
眠い。ちょー眠い。
昔から宝器使いというのは、規格外の戦闘力を持つとされ、時代によっては戦争の火種ともなったために、最悪の象徴として畏怖されてきた。
しかし、現在は国の外の魔物が勢力を強めており、そんなことも言ってられない状況である。宝器使いの力が必要になりつつあるのだ。
国王陛下が宝器使いをテーサ・ウルズ国立宝器学院の生徒として向かい入れたのは、「国の即戦力」として宝器使いを合法的に魔物のいる戦場へ送り出すための口実である。
ということで国立学院の生徒である以上、国の決まりで、ある程度の座学は受けなければならないらしい。
しかしこの授業、なかなかの初歩を教えてくる。
きっと他の生徒も退屈と眠気に耐えているに違いない。俺は深く椅子に座り、こっそり辺りを見回してみる。
するとどうだろう。教科書にメモを取る者、真っ直ぐ前を見て先生の話を聞く者が大半であった。真面目さんばかりだ。俺は心の中で苦笑いをする。
それもそのはず、ここにいる彼ら彼女らは宝器使いになって最長でも一年ちょっとしか経っていないのだ。一年前に魔物が……。いや、俺が国の宝器庫に穴を開けて、そっから『魔力の魂』として外に出た宝器が国中の人間と契約。そして宝器使いがこの時代にも生まれたってわけだ。
――だがこれは、なかなか大きな失態だったな。
俺は魂が抜けたように黒板を見つめる。自分の無能さに吐き気がした。
「えー……というわけで今日の授業を終わる。明日から魔物討ば……実習が始まる。心しておくように」
いつの間にか授業は終わっていた。クロは思い詰めた顔をやめ、気持ちを切り替えて席を立った。他の生徒たちは、明るく喋りながら講堂の出口へ向かう。
すると、その生徒たちの流れに逆らいながら一人の男がクロに近づいてきた。そいつは赤髪の男だった。
「おいお前、クロ・アストルだな? 仲間を連れて二時間後に城の屋上庭園まで来い。ある方々がお待ちだ。すっぽかすなよ?」
「……ああ分かった」
あの赤髪の人間、確かカイ・サマルカとかいうやつだったな。ベルと戦って死にそうになってたやつだ。
ベルの報告によるとカイ・サマルカは、 《ホーリー・サイズ》という宝器の使い手であり、少なくとも他の生徒のような、「一年生宝器使い」ではないという評価だった。戦いの様子はプランタの監視魔法で見せてもらっていたため、こいつが使った魔法やスキルは確認済みだ。
何やら城の人間と関わって裏で動いていることは知っていたが、あれほどの魔力を露出させたベルから逃げずに戦ったことは驚きだった。
……!
まさかあれがベルだとバレたのか? しかしベルは第三階級の不可視を使っていたし、ありえないはずだ。
いくら魔力探知の水晶の効果で姿が魔力の光として可視化していても、あの「闇夜の化け物」をベルだと断定はできないはず。断定はせずとも疑いをかけているのか……?
ああ助けてくれ、胃が痛い。
****
ガチャ。
寮の部屋に入ると、エーテ、ベル、プランタの三人が奥のカーペットに座ってボードゲームをしていた。
「おっ、おかえり学院生くん。今日も授業は楽しかったかい?」
「茶化すなよ。相変わらずずっと基礎ばかりだ」
俺は、丸くなって座っている三人の中央を覗き込む。
「ボードゲームか。買ってきたのか?」
「聞いてくださいクロくん! 僕たちが宝器庫に封印されている間に、人間界ではこんなにも面白いボードゲームが流行っていたのです!」
ベルが目を輝かせながらこちらを見る。
「何をよそ見しているのベル。私の発明した最強無敵チート魔法が、あなたのところに炸裂するわよ」
「うわあああ! それはないよプランタ! これ以上やられると僕の育て上げた王国が破滅しちゃうじゃないか!」
なんて物騒なボードゲームだ。これがこの王都で流行ってるのか。なかなかの平和ボケが垣間見えるな……。
一年前の戦いで魔の軍勢が国内で大量発生した際、国軍は何とか魔の軍勢を打ち破り、勝利を収めた。
それからというもの、国の外にいる魔物は大人しくなり、人間に危害を加えることはなくなった。
国民は、一年前の戦いが「国外からの魔物の侵攻」によるものだと思っており、「国内での魔物の大量発生」が真実であるとは知らない。
ということで国民は、もうしばらく魔物が襲ってくることはないだろうと安心しているっぽい。
安心なんかできやしないんだ、魔物が一匹でも存在する限り。
「よしお前ら、お偉いさんから呼び出しだ。予備の武器を持っていけ。一時間後にここを出るぞ」
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