第9話 闇夜の化け物―2
「なんなんだ……! 私の目の前にいるのは一体……なんなんだ!」
冷静だったカイの顔は、いつの間にか驚愕の色で染まっていた。それと同時に、逃げなければならないという可能性が出てきてしまったことに屈辱を感じていた。
ベルは辺りに声を響かせる。
「作戦変更。キミが持ってる宝器、 《ホーリーサイズ》でしょ? 僕はそいつの手数を十分に知ってるよ。加速スキル使われたらすごく面倒。だからね、キミが僕のことを追跡できない状態にしてから帰るつもりさ」
カイはまだ驚愕の顔を続けていた。私は……決意しなければならないんだな。
「もう、ここでお前を討つ以外、ないか……クッ! うおおおおお! 『ゴッズマジック・
すると、ベルの周囲に白い光の玉が現れ、それは次第に膨らむように大きくなり、キュイーンという音をたてながら爆発する。ベルは爆発に巻き込まれないスレスレの距離で、それを避けた。
しかし、避けた先にはカイが待ち構えており、振りかぶって勢いのついた鎌が、ベルに振り落とされる。それに対してベルは全く動じず、それどころか溜息をつき、後ろを向きながら片方の剣でそれを軽く受け止める。
「キミ、本気でやんないと死んじゃうよ?」
「十分本気のつもりなのだがな」
「うーん……。それじゃあ次は僕の番だね。『リクイファクション』」
ベルの身体は液状化し、ヌルヌルと移動しだした。そしてカイと五メートルほど距離を空けて、再びベルの身体に姿を戻した。
「じゃあ突っ込みまーす!」
ベルは右足を強く踏み込み、飛ぶように一瞬で間合いを詰める。カイは間一髪でそれに反応し、双剣を鎌で弾く。ベルは少し笑うと、目にも止まらない斬撃をカイに浴びせた。土煙が発生し、二人が一瞬見えなくなるも、数秒後に土煙の中から逆さまに吹き飛ばされたカイが現れた。闇夜に血が舞う。
「さあ、行くよー! 気をしっかり持ってねー!」
「な、何を……」
カイの細く開いた目に映ったのは、地面で両手を広げた闇夜の化け物だった。
『ミスティックマジック・ウォータープレッシャー』
すると、空中にいるカイの周りに複数の魔法陣と水の球体がセットで現れた。そして球体はカイを中心にしてどんどん合体していき、カイを閉じ込めた大きな一つの水の球体となった。
「ガッ! かっ……! ぐはっ!」
「はーい! まだ終わりじゃありませーん」
ベルは、右手の手のひらを苦しそうなカイに向けると、その手を軽く握る。
「かっ! んう……!」
カイは血が滲む水の球体の中で、肺が潰れるような苦しさに襲われる。これ、ワンチャン死ぬやつだ。
「チッ……! 『ホーリ……オー……ラ……』」
カイは、水圧が強くなっていく球体の中で苦し紛れに唱えた。
するとカイの持つ鎌が白く光りだし、その光は弾けるように広がった。辺りは一瞬だけ、昼間と変わりない明るさを見せたのだった。
闇夜に戻った頃には水の球体もカイの姿も無かった。
一人残されたベルは夜空を見ながら呟いた。
「……。ばいばーい」
****
ドタンッ! ゴカンッ!
「クッ……はあはあ……!」
「……! カ、カイくん! なんてこと!」
理事長は、血だらけでずぶ濡れなカイに急いで駆け寄り回復魔法を使う。
「理事長……とんでもない宝器が出現しました……。あの日からこの国はおかしい……。やはりヤツに……全面的な協力を懇願するしかありません。非常に悔しいですがね……」
そう言い残しカイは目を閉じた。
理事長室の暖かい光は、カイの緊張して疲れきった心に、大きく安らぎを与えたのだった。
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