第8話 闇夜の化け物―1

「あれ、あの人たち……。お城の? 何してるんだろう……」


任務中のベルは、城の南を歩く神官と兵士の行列を見つけた。木々に飛び移りながら確認しているため、そこに何人いるのかは詳しく把握できない。


「んー。見つかったらマズイけど、何をしてるのかは情報として報告しておきたいよねぇ。もう少し近づいて着いていってみよっと」


ベルは不可視の魔法を使用していたため、ある程度離れたところから観察をすれば、見つかることはないと考えた。


木から木へと移動し、神官と兵士がいる道路沿いから約百メートル距離を詰めた時だった。後列の神官が両手で持っている何かが強い青の光を発しだす。

ベルは立ち止まり、なんの光だろう、と顎に手を当ててしばらく考えたが、神官たちからの距離が遠く、何が光っているのか分からないため推測は難しかった。もう少し近づいてみるか……?


しかし次の瞬間、ベルは頭上から微かな気配を感じ、急いで横の木へと飛び移った。

ベルが振り返ると、大きい音と共に先程まで自分が立っていた木は跡形もなく粉砕していたのだった。


「フン。よく避けたな」


土煙の中から声が聞こえ、赤髪の男が姿を現した。その人間は身長を超える大きな鎌を軽々しく片手で持っている。


「姿を現したらどうだ。不可視で身を隠しているつもりかもしれないが、魔力がダダ漏れだぞ」


「うわ! 外に漏れないように制御してたつもりなのに、魔力が光として可視化されてる……。えーと。こんばんは。ごめんなさい! これは解除できないんだ。許してね……」


「そうか宝器。私はカイ・サマルカ。我々をコソコソと嗅ぎ回るネズミが出たと報告を受けたので駆除しに来た」


この人間さん、僕が宝器であることを見抜いた……? いや、魔力量から推測したただの勘か……。

ベルはその人間に聞こえぬように、小さい声で唱えた。


「念のために……。『ミスティックマジック・プロテクトマジック』」


そしてゆっくりとカイに背を向け、逃げる体勢をとっていた。


「そ、そーなんだ! それじゃ僕はもう行くね! お仕事頑張って!」


「逃がさねぇよネズミ。『ゴッズマジック・魔法解約マジックキャンセリング』」


カイの放った魔法は、ベルに効果を発動させたように見えたが、大きく弾かれるような音がして消失してしまった。

ベルがあっはっはと笑いながら振り返る。


「さすが宝器使い。いつの時代でも煩わしいね」


「なに……? 不可視化を解除できないだと?」


カイは驚いていたが、冷静な顔と態度は変えない。


「そ! 正体がバレるのはちょっとマズイからさ! 見逃してね!」


「魔物がまだこの国のどこかに潜んでいるかもしれないというのに、それに加えてお前のようなやつをこの国に放っておく訳にはいかない。『ヘイスト』」


「加速スキルかぁ。んー。それじゃあ宝器ってバレてるみたいだし、いいよね、クロくん……」


ベルがそう呟くと、周辺の空気が一瞬で変わった。冷たい風が辺りに吹く。周りの木々は大きく揺れ、木の葉が夜空に舞う。


『宝器解放』


ベルがそう唱えると、ベルの両手に冷たい風が集まっていき、そこに青い光がじわじわと現れた。

その光はやがて双剣の宝器 《ベル》を現出させたのだった。


宝器を解放したことで、ベルの露出する魔力は大きくなる。


「なに、魔力の光が……! クッ! これほどだとは……!」


ベルは自分が不可視状態であることも忘れ、胸を張り、見てくれと言わんばかりの様子である。


そして愚かな赤髪に、ゆっくりと聞かせた。


「そう。僕を捕まえるなんてね、無理なんだよ。人間さん」


カイの目から見たそれは、「膨大な魔力の光で形成された、世界を滅ぼす化け物」であった。

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